第12話 襲撃
【???視点】
テルミット、職人街──
中心街から外れたあばら家に向かうと長身長髪の男と華奢な少女が僕の到来を待っていたかのように玄関を向いて座っていた。
「お二人とも、依頼の時間ですよー。準備出来次第向かってください」
男が相方の少女を向き、少女も肩にかかるくらいの髪を揺らしながら男を見つめるように向かい合う。
「こちらの準備は出来ているヨ。『エコー』、君も大丈夫かい?」
「大丈夫かい? ええ、大丈夫、です。場所は、どこでしょう」
二人とも一切無駄のない動きで立ち上がる。
ただのサポート役を任されただけの僕に対しても警戒を緩めない。
そんな暗殺者として模範的な態度に感心しながらレグルスの場所、情報を伝えていく。
「最悪『剣姫』も一緒に殺してしまってもかまわないそうですよ。その心配よりも失敗した場合の罰を心配しろですって」
「怖いネー。ザクサの鍛冶屋を出たあたりで仕掛けるヨ」
「仕掛けるよ。ええ、迅速に、終わらせましょう」
そう言うと『エコー』は少しおぼつかない足取りで純白の寝巻のようなドレスをはためかせて、長髪の男『クジラ』はロングコートを一切揺らさずにあばら家をあとにした。
「面白い戦闘を見せてくださいよレグルス君。せっかくこの世界に生を受けたんだから活躍しなきゃ。僕の焼き串をまずくさせるようなことはしないでおくれよ」
自分でも思いもよらないほど彼に期待してしまっているらしい。この世界の観客としては自然なことだが『観察者』としては肩入れしてしまっている時点で失格だ。
ため息をつき柱に触れた。
瞬間、音もなくあばら家が崩れ落ちていく。
【レグルス視点】
「ねえ、行きたいところないの?」
「ありません。私はただついてきただけですから」
「いや、両手に食い物もって言われても説得力0なんだけど」
俺が本屋やポーション屋を冷かしている間、シュヴァリエの両手にはずっとあちこちの屋台で買った食い物が握られていた。
よくここまで食えるよなぁ。ケプラーとぶつかったのが昼前だったからかれこれ3時間くらい食い続けてるぞ。
「だから、なれ合わないって言っているじゃないですか!」
「焼肉双剣を装備して言われてもな」
「は、腹が減っては何とやらですよ! いつあなたに襲われてもいいように!」
人を勝手に犯罪予備軍にすんじゃないよ。
☆
「ごめんくださーい!」
返事代わりに聞こえてきたのは一定のリズムを刻む金槌の音。
俺たちはデュランダルの鞘を注文するために『ザクサの鍛冶屋』を訪れていた。
裏路地に面しており目立たないが、この鍛冶屋は革製品の工房も併設しており刀剣のプロの視点を用いて快適な鞘を注文できるとして有名らしい。
しばらく待ってみるが一向に人が現れる気配がない。
聞こえてない? 職人特有の集中して感覚がマヒしちゃうやつ?
刀剣から鎧、生活用品までジャンル別に几帳面に陳列されている棚の間を通り抜け、店の奥へと進んでいく。
「すみませーん! おじ、うおっ!?」
工房の扉を開けると目の前に見上げるほどの壁が立ちふさがっていた。
いや、違う。大男だ。俺の視界から首から上が見えなかった。
「──なんだ。小僧」
声小さ。俺らの声が聞こえていないんじゃなくて店の人の声が小さすぎて聞こえてなかったのか。
「この剣の鞘を造ってほしいです。デュランダルっていう魔剣なんですけど」
「待て。魔剣だと?」
男は俺の背中からデュランダルをひったくると鼻と刃先が付きそうなほどの至近距離からなめ回すように観察する。
「職業は」
「え、えと貴族ですけど」
「そうか。この剣はお前が振るのか?」
「そうですけど?」
鞘だけでも職業とかで種類が分かれてくるのかな。
男はデュランダルを丁寧に俺の背中にくくりつける。
「普段使いしやすい鞘に儀礼用の装飾をつけてやる。そうすれば貴族のパーティーに持っていったとしても目立たないだろう。3日後ザクサに注文したと店の者に言ってくれ。サボっていなければいるはずだ」
店員今日さぼったのね。
ザクサと名乗る男に礼を言い振り返るとシュヴァリエがアクセサリーの棚にくぎ付けになっていた。
「へぇ、ブレスレットね」
「な、なんですか!? 別に見ていたっていいでしょう!」
シュヴァリエが食い入るように見ていたのは指輪を拡大したような細めのブレスレット。
宝石などははめ込まれていないが彫られている彫刻から十分高級感が漂っている。
「ザクサさーん!! ブレスレットくださーい!!」
「ちょっ!? 欲しいなんて一言も言ってませんけど!?」
「聞こえてないのかな? 代金とメモ残しとけばいいか」
「話聞いてください!?」
代金分の硬貨をカウンターに置き、ブレスレットを腕にはめてみる。
当然、女性もののブレスレットは入らない。
「俺の腕には小さすぎたからシュヴァリエが持っててよ」
「私の話を聞いてくださいもう……わかりました。アリガトウゴザイマス……」
カタコトになってうつむいてしまったシュヴァリエを連れて鍛冶屋をあとにした。
日も落ちかけ、空は薄暗くなっていた。
鍛冶屋を出て数歩。たった数歩だった。
俺の右肩への貫くような衝撃と共に石畳に血が飛び散った。
「大丈夫ですか!?」
「ちょっとヤバいかも。致命傷じゃない」
俺の『根性』は致命傷を受けたら復活できるスキル。
その他のケガに対しては何の役にも立たない。
「シュヴァリエ、一回殺してくれない?」
無言でシルヴィアは自分の剣を抜き振りかぶる。
がしかし俺の首が飛ぶことはなかった。
水魔法によって吹き飛ばされた彼女の剣が数メートル先で乾いた音を立てる。
「そうはさせないヨ。それはこちらの獲物だ。手出し無用だヨ。『剣姫』」
「誰!?」
路地の暗闇から現れたのは1組の男女。
長身長髪のコート男に、儚げにフラフラ揺れるドレス姿の少女。
「『クジラ』と『エコー』……? なんで、俺を狙ってんだよ……!?」
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【あとがき】
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