第14話 水と風とその……パンツ
一軒家ほどもあろうかというような鯨型の水の塊が墜ちる。
その口先が地面に触れた瞬間、激流が俺たちに襲い掛かる。
俺たちは激流にのまれ、死んでいく。そう予感した。
しかし、来るであろう衝撃に耐えられるよう目をつぶり、歯を食いしばっていても一向に水流どころか水気がある感覚がしない。
おそるおそる目を開けると、広がっていたのは暴力的なまでに襲い掛かる激流と、俺たちを守るように広がるドーム状の空間だった。
「シュヴァリエ、こんな魔法あるなら先に言っといて欲しかったな」
「いや私の魔法じゃないです……。この空間は一体……。あんな巨大魔法を防げるなんて」
なるほどこれがデュランダルの能力ね。
魔法を防ぐドーム的なバリア。
『ようやく気付いたか。『対魔力』だそうだ。なんでも貴様の魔力量に応じて魔力障壁を生成できるらしい。近接戦闘バカの貴様なら距離を詰めるための矛にもなり得よう』
誰が近接戦闘バカだコラ。
確かに遠距離攻撃はないけど!
とめどなく打ちつけていた激流も徐々になくなり、視界が晴れる。
「『水鯨』……。あまり、大技を打たないで。周りの被害、わたしが防いでる」
「生きている……!? 今回ばかりは『エコー』が正しいかもネ!」
まあ。さすがにうろたえるよね。
「俺たちにかまわずさぁ、帰ってくんない? 他に狙う人いるでしょ?」
「君が死んでくれたらここを去るヨ。僕たちの狙いは君だけだヨ」
ってことは勇者を狙わせて正規ルートに戻すのは無理か。
「だったら力づくで退場してもらうしかないなぁ!!」
両足に魔力を流し屋根上めがけて跳びあがる。
降り注ぐ水魔法の弾幕を切り裂き、『クジラ』の正面にまで躍り出る。
横なぎ一閃。『対魔力』を発動し『エコー』の『山風壁』をも切り裂く一撃は身をひるがえした『クジラ』の腕をかすめるだけ。
「魔法主体だからって体術ができないわけではないヨ?」
「でも戦いづらそうだけど?」
「そうかナ? 『激流槍』!」
『クジラ』のステッキの先端から生成されたのは槍型の水流。
デュランダルで突きを受けた衝撃のまま地面に着地する。
「『激流槍』消えなかったんだけど?」
『ただの魔剣がそんなに万能なわけがあるか。お前の魔力を変換して魔法を対消滅させているようだな』
つまり俺の残存魔力によって防げない魔法が出てくると。
エコに戦わないといけないってことね。
『身体強化』で今度は真下に潜り込み垂直に跳びあがる。
これなら水の散弾の被弾数を減らして近づける。
あとは普通の槍を相手にしているのと同じだ。受け流せばいい。
突き出された穂先を身をよじりながら受け流し、そのまま薙ぎ払う。
しかし剣先が『クジラ』に触れることはなかった。
「おっとあぶないネ。助かったヨ」
「助かったよ。わたしもいること忘れないで」
真横からの暴風で身体が揺らぐ。
不安定な屋根上では動きにくいことこの上ない。
先に厄介な方からやるかと『エコー』に近づこうとした瞬間、銀色の光が『エコー』へと向かっていった。
スカートをはためかせシュヴァリエが躍り出た。
「私のことも忘れないでください!! レグルスさんお待たせしました!!」
「お待たせしました……!! 邪魔!! 『風刃』!!」
シュヴァリエの剣と『風刃』がぶつかり合う。
手数も一撃の威力も負けていない。
『エコー』相手に十分戦えてる……!
「こちらは任せてください! 守ってもらった分は返します!」
「すまん! 頼んだ!」
突きをいなし、薙ぎ払いを避け、袈裟切りを受け流す。
全ての動きは素振りの時にイメージしてある。
あとは、見極めて動くだけ。
『『根性』再発動まで残り1分だ』
袈裟切り、逆袈裟、突き、突き、薙ぎ払い。
予測と動体視力で的確にさばいていく。
「攻めあぐねてるネ? こちらもプロの意地があるんでネ。殺させてもらうヨ」
「ねえ、防御は最大の攻撃って知ってる?」
突き出された『クジラ』の腕を蹴り上げる。
前のめりになっていた上半身が反れ、むき出しになった腹にすかさず回し蹴りを打ち込む。
『身体強化』された脚で蹴られた『クジラ』は屋根から離れ、路地上空へ打ちあがる。
俺も跳びあがり『クジラ』の胸倉をつかむ。
「至近距離から『自爆』打たれたら敵わないよなぁ?」
「──『水泡──』」
「『自爆』!!」
あたり一面が昼間のように明るくなる。
落ちているのは俺一人と短いステッキのみ。
『水泡鎧』は間に合わなかったらしい。
なけなしの魔力を振り絞り着地しもう一度屋根上に跳びあがる。
「『剣舞:蝶』!!」
屋根上に戻った俺の視界に映ったのは『風刃』をはじき、『エコー』を押さえつけたシュヴァリエの後ろ姿だった。
「ナイス。助かった」
「捕えてはいますけどこの後どうしましょう?」
「どうしましょう……!? 離して!」
『エコー』はじたばたと暴れるが両手を押さえ四つん這いで完全にマウントをとっているシュヴァリエにはなすすべもない。
「俺の『自爆』に警備兵が気づいたはずだ。そいつらに渡せばいい。ただ……その」
「なんですか?」
彼女の真横に移動し目をそらす。
俺の脳裏にはスカートからのぞくシンプルな純白の布切れが焼き付いていた。
「さっきまでパンツ見えてた……」
「なっ!? あ、あとで覚えておいてくださいね!?」
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【あとがき】
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