第3話 お花見動画の裏側と猫(2023年2月21日投稿)
時期は早いかもしれないが、桜の話をしたい。
3月の中ごろになると、東京やその周辺では桜が咲き始める。彼岸入りか開けごろには満開になり、テレビのニュースをつけると民放の女子アナが少し大げさなリアクションで、
「こんなにきれいに咲いてます!」
と言っているのをよく見かける。
女子アナが大げさなリアクションで桜の美しさを紹介するという春の恒例行事を見るといつも、
(ああ、もう桜が咲いたか)
と思ってしまう。ついこの前までは雪や寒さの話ばかりだったのに、気がついたら桜の話。時の流れはとても早い。
毎年桜の季節になると、私はカメラを片手に自転車に乗ってどこかへ出かけている。そしてきれいに咲いている桜を見かけたら、カメラを起動し、写真を撮影。喫茶店に立ち寄ったり、自宅に帰ったりしたら、輝度とか色味を編集しそこそこいい感じに仕上げる。これが、3月末の私のルーティンだ。
一昨年からは、写真に加え桜の動画も撮るようになった。YouTubeを本格的に始めたからだ。
一昨日のお花見サイクリング動画の行き先は岩槻城址公園だった。池を囲むように植えられている満開の桜木がきれいだった。あと、場所はよくわからないが、帰り道に見た桜並木と菜の花もきれいだった。
鎌倉や川越にも行っているが、こちらはほぼ写真を撮るだけに留めている。動画を仮に撮ったとしても、歴史散歩がメインだ。
お花見動画は毎年撮っているが、紅葉動画と比べて視聴回数が低いので1回だけにとどめている。
昨年(2022年)私は、
スタート地点は板橋。そこから帝京大学医学部キャンバス前、加賀藩下屋敷の跡地前を経由し、王子まで向かうコースで走った。
桜の花は遊歩道の上を埋め尽くすように咲いていた。花の命はたった十数日。それを本能的に察しているのだろうか、美しさの中に桜の命がけを感じる。
加賀藩下屋敷前を通り過ぎ、北区へ入った。
頼朝が挙兵した際陣を敷いたと伝えられている紅葉寺の近くにあったスペースに自転車を停めた。そのとき、鳩が私のスマホホルダーに止まり、首をくるくる回したあと飛んでいった。
スマホホルダーに止まった鳩があまりにかわいらしかったので、私はスマホを起動させ、動画を撮影した。そして後日編集したものをショート動画に投稿した。
王子の手前辺りに来た。
ゆったり自転車を走らせていると、中くらいの茶白猫が、桜の木の下にある人が腰掛けられそうな石のスペースで日向ぼっこをしていた。
猫の写真と動画を撮った。
「桜の樹の下には猫がいる!」
というシチュエーションは、ほっこりするだろうと思ったからだ。それに、私の周りでは、茶白猫はあまり見かけない。
猫は怖がらずにカメラに映ってくれた。
撮影が終わったあとも、私は茶白猫を見ていた。そこへ70代中ごろくらいの散歩をしていたおじいちゃんがやってきて、
「お兄さん猫好きなの?」
と聞いてきた。
ええ、と私はうなずいた。
「この子、たまにここで日なたぼっこしてるんだよ」
おじいさんはそう言ってウエストポーチから袋に入った餌を取り出し、茶白猫に与えた。
茶白猫はおじいさんの出した餌をもぐもぐと食べていく。
茶白猫が餌を食べ終わったあと、おじいさんは背中を優しくなでた。
気持ちよさげにしている茶白猫。
おじいさんは茶白猫をなでながら、
「よかったら触っていくといいよ。この子は人懐っこい子だからね」
といってなでるのを辞めた。
「そうですか」
せっかくだし、私は茶白猫を撫でていこうと思った。猫と触れ合えるのはめったにない機会だから。
私は気持ちよく日向ぼっこをしている茶白猫の背中をなでた。
なめらかな毛の感触とぷにっとした柔らかさ、そして温かみが伝わってきた。
終点王子へと来たあと、私は駅の近くにあったマックで動画を編集した。完成したものは夜に投稿した。
視聴回数はそれほど稼げなかった。だが、狭い範囲でこれだけ濃いものが撮れたので、撮影時はそこそこ充実していたと思っている。
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