第5話 敵地にて


 あれから3日が経過した。今は敵軍の砦の前にいる。


さあ、ここからが本番だな。


城門を見上げ、俺は城壁にいる番兵に声をかけた。


「私だ。マーカスだ。ここを開けてくれ。」


「た、隊長!生きていらっしゃったのですか!?」


このマーカスという奴は部下に慕われていたのだろう。俺の姿を見ると、城門が開き、一斉に俺を出迎えた。


「俺なんかをかばったせいで、隊長を危険な目にあわせてしまいました。本当にもうしわけありませんでした!!」


「いや、気にしなくて良い。それよりも、ここ最近の記憶がはっきりしなくてな。悪いが、休ませてくれ。もしよければ、後ほど、知っていることを聞かせてはくれないか?」


「何と!隊長は記憶喪失なのですか!?やはり、あの時の戦で!」


「自分の名前以外はほとんど思い出せない。だが、これは一時的なものだと思う。」


「わかりました。我々で良ければ、知っていることをお伝えしましょう!今は先に傷の治療と休息を優先してください。後ほど、お話させていただきますので。」


そう言うと兵士たちはマーカスのもとを後にした。


一人の美女を除いて。


俺の前に立つ美女は何者なのだろう?


見た目は軍服を着ているが。


「お初にお目にかかります。私は軍医をしております。クラウディアと申します。」


はっきりとした口調で彼女はそう口にする。


「しかし、こうして再会するとは、思ってもみませんでした。運命とはわからないものですね。58番。」


「!!」


この女は俺のことを知っている。何故だ。どこで!?


ここにいるのは、俺と彼女だけだ。


口封じをできるタイミングは今しかない。


だが、彼女がその気だったなら、俺はとっくに死んでいるのではないのか?


少なくとも、俺の正体を最初から知っていた。


兵士たちに俺の正体を明かすこともできたはずだ。


だが、それをしなかった。


事情は理解できないが、ここで結論を急いで出しても、結果は変わらないだろう。


いや、むしろ悪化するかもしれない。


そうか。面白い。俺を知っていて、黙っていた。


ふん。いいだろう。


お前のフィールドに乗ってやろう。


瞬時の戸惑いを抑え、俺は彼女を見据えた。


すると彼女は俺を見て声を発する。


「どうやら、話を聞いていただける気になったみたいですね。安心してください。私は敵ではありません。警戒するなと言っても、すぐには無理でしょうが。」


「確かに、戸惑いはした。だが、俺を知っているのなら、話は早い。君がどこまで把握しているのかはわからないが、知っていることを教えてくれるのらば、君以上の適任はいないようだしな。」


「はい。お話しましょう。私とあなたの関係。そして、マーカス・フォン・リヒターについて。」


そう言うと彼女は薄く微笑みを浮かべ、俺を手招きした。


「少し歩きながら、お話しましょう。」


彼女は書斎の本棚をいじると、地下へ続く扉が開いた。


ついてこいということか。


俺は彼女に促されるまま、地下室へと向かった。

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