第4話 マーカス子爵
王国子爵家のリヒター家には聡明な子どもがいた。
その名をマーカスという。
「結婚しよう。ジョセフィーヌ。」
「嬉しいわ!こんな幸せなことなんてないわ。」
マーカスには幼馴染がいた。
名をジョセフィーヌという。彼女の家系は代々リヒター家に仕える士族である。
幼い頃からともに兄妹のように育った彼らは気づけば互いに恋心を抱き始めた。
互いの好意を認識するのには、そう時間がかからなかった。
それぞれの家の承諾を得て、はれて許嫁となった彼らは幸せの絶頂だった。
しかし、そんな幸せな日々に終わりが近づいていた。
その日は、結婚式の前日に訪れた。
「マーカス・フォン・リヒターはいるか!」
「はい。私がマーカスですが。」
「お前に逮捕状が出ている。牢獄まで連行させてもらうぞ。」
「馬鹿な!これは何かの間違いです。私は一介の地方領主にすぎません。身に覚えのないことです。一体、何の罪状があるというのですか?」
「まだ白を切るか!お前の罪は王様の暗殺未遂及び国家反逆罪だ。」
「そんな!私が陛下の命を狙うなどと!あり得ませぬ。これは濡れ衣だ!我がリヒターの名に誓って!」
「黙れ!現場にはお前の領地で使用されている武器が押収されている。動かぬ証拠ではないか!それに告発状もあるのだ。言い逃れはできぬぞ。」
「その密告者は誰なのですか!?我が領の装備など、一定の身分の者であれば、手に入れられます。その者がきっと、私を陥れるために仕組んだとしか考えられませぬ。」
「あきれた奴だな。では教えてやろう。今回の事件の告発者はアルノルド公だ。貴殿の主ではないか。」
「そんな!」
その時、マーカスはすべてを悟った。今回の騒動は自身を排除するためにアルノルドが仕組んだものだと。
現国王はアルノルドの傀儡。事態を覆すのは絶望的だった。
囚人用の馬車に乗せられる直前、騒ぎを聞きつけた婚約者ジョセフィーヌが血相を変えて、その場に駆け付けた。
「これはどういうことなのですか!?私の夫が謀反など起こすはずはありません。夫を連れて行かないでください!」
「この男の罪状は明らかだ。男を擁護するのならば、貴様も共犯とみなすぞ。」
「ジョセフィーヌ。信じてくれてありがとう。だが、これ以上は君の身が危ない。君は私の帰りを待っていてくれ。」
「そんな!!あなたのいない生活など耐えられない。」
「信じてくれ!私は必ず無罪となって、君のもとに戻って見せる。しばらくは時間がかかるが、どうか健やかで。」
しかし、その願いもむなしく、マーカスは帰らぬ人となる。
ジョセフィーヌや家族を人質にマーカスは死地へと追放された。
そこは国境沿いの激戦地。最前線の部隊に配属された彼の命は長くはもたなかった。
(私はここで死ぬのか?この恨み、この無念、我が手で晴らしたかった。私は復讐心を持ったまま死ぬ。結局、愛する者たちを救えずに。)
(死にたくない!私にはまだやるべきことがある!私がジョセフィーヌを・・・家族を・・・)
(先ほどから手足の感覚がない。痛みもない。身体も動かない。あんなところにまだ敵兵がいたのか。私と瓜二つじゃないか。意外に驚かないものだな。)
(彼も私に気が付いたか。後は君に託そう。もしこの思いが聞き届けられるのであれば、どうか、君が私となって、我が復讐を完遂させてくれ。)
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