第27話 敗走
【 …ブラックホーネットが後退か、やはりオルテガ相手では荷が勝ち過ぎたな 】
所属不明の部隊を率いる隊長がそう言う中、電磁チェーンガンで牽制しながらブラックホーネットが頭上を越え、ホバリングしながら着陸する。一時的に電力消費を抑える為、新たな命令が下るまで待機するようだ。
【 やはり、自分達で戦わんと話にならんか…全機、待機状態からアクティブに移行。オルテガを無力化するぞ 】
隊長機から命令を受け、光学迷彩を解いて義体化兵達が姿を現す。その義体は滑らかな曲線に包まれて昆虫のように各関節が絞られた形状だが、華奢な印象には程遠い。全身を赤く塗装した力強い甲虫を思わせるフォルムの背中には、ルールーの持っていた実剣に似た近接兵器が搭載されている。
【 …おっ? 珍しいじゃねぇか、
射出兵器に依存しがちな義体化兵とは一風変わった彼等に、ルールーは目を丸くする。だが、そんな余裕は長く続かなかった。
【 相互リンク開始…一気に畳み掛けるぞ 】
隊長機の号令と共に配下の六機が抜刀し、急加速する。その速度はルールーの知覚素子で捉えられたものの、複数が流れる水のように集合離散を繰り返しながら距離を詰め、纏まって切り付けてくる。
【 なあっ!? ちょこまかと小細工しやがって!! 】
頭部を肩の間に低く埋め込む不恰好なフォルムだが、その義体の機能は近接戦闘に特化しているのか、踏み込みから切り抜けるまでの速さも今まで出会った者とは比較にもならない。オルテガの巨体を翻弄するように、ルールーの防御を掻い潜り装甲を削り続ける。
【 一刀防いでも次々きやがる! 六機でシンクロしてんのか!? 】
オルテガに装備していたヒートソードで防ぎつつ、ルールーが距離を離そうと大きく跳躍するが、俊敏な動きで六機が尚も食らい付く。その間に肩の多目的ウェポンラックから分散型携行ミサイルを選択し、一機に二発づつ射出。白い煙を噴きながら飛翔するミサイルが敵義体化兵を捉え、回避する間を与えず瞬時に距離を詰める。
義体化兵の至近距離で轟音と共に全てのミサイルが爆散し、辺り一面が炎と煙に包まれる。高性能爆薬の熱波と衝撃波で周囲の廃墟が砕け散り、さしもの義体化兵達も機能停止したかに見えたが…
【 …くそっ、あれだけ食らっても脱落したのは一機だけかよ 】
地獄の業火に等しい連続爆発であったが、敵の義体化兵は残り五機が無傷のままだった。一機は真正面からミサイルが直撃したのか、脚部のパーツを僅かに残して消失していたが、それ以外は廃墟を盾にして回避したようだ。
【 …脱落機のポジションに俺が入る。相互リンクを再編するぞ 】
後方から追い付いた隊長機が前に出て、ルールーと対峙する。その一機だけは赤い機体の腕部に青いマーカーが一周し、同じ形態にも関わらず独特の雰囲気を纏っていた。
【 親分自らお相手するってか? じゃあ、やる気を見せて貰おうじゃねぇの! 】
ルールーはそう言うと背部ウェポンラックを
【 …剣を構えろ、速やかに無力化を開始する 】
隊長機も応じるように両手で実剣を構え、地を蹴って一気に前に出る。その背後から次々と僚機が続き、一つの群体のようにルールーに襲い掛かる。
互いの間合いが重なり合った瞬間、オルテガの長大なヒートソードが先行して斬撃を放つ。隊長機は実剣を構えて薙ぎ払い、その隙に後方から躍り出た僚機がオルテガの膝関節を切り付ける。
【 …ちっ、ガード出来ねぇ場所を狙うか! えげつねぇ…でも、待てよ… 】
関節の表面から激しく火花を散らしつつ、オルテガを後退させながらルールーは、ふと思い付く。
【 …私は、いや…
ルールーは自らの、いや電脳を繋ぎ合ったヨモギの記憶の中に、今戦っている義体化兵の太刀筋が確かに有った。有り得ない筈の戦いの記憶、それも自分が生まれる前の光と闇の戦いの中で、今戦っている相手と同じ剣捌きを見たのだ。
と、一瞬の隙を衝かれ、側方から勢いの乗った重い刺突がオルテガの大腿部を貫き、機体損傷のパラメータが一気に跳ね上がる。
《 警告!! 機体負荷が上昇、稼働速度が40%降下!! 》
脳裏に映る字幕と共にガクンとオルテガの膝が折れ、更に追撃が迫る。一瞬後、突如オルテガの前面装甲が爆散した。
【 …やったのか、いや違うな 】
隊長機が破片から身を守る為に剣で防御した直後、新たな爆発がオルテガの背部に起きる。だが、その全てが欺瞞だと気付いた時には、既にルールーの姿は消えていた。
【 …緊急脱出したか。まあ、いい…そう遠くには逃げられまい 】
隊長はそう呟くと、部隊を率いて後退していった。
一方、緊急脱出機能でオルテガの外に排出されたルールーは、その場で体勢を整えると光学迷彩カバーを被って廃墟の瓦礫に潜り込む。義体の内循環器を停止させて不要な音を一切立てぬようにし、聴力だけで周囲の様子を窺う。
(…やっぱ、図体がデカ過ぎて数で打ち負けちまったなぁ…)
大きな機体のオルテガだったが、支援機としての強みが一転、近接戦闘に変われば弱みになってしまった。しかも相手は数の有利を活かし、簡単にオルテガを仕留めたのだ。
(…おまけにヨモギの記憶と同じ戦い方って事は、あの義体化兵の隊長…例の【光の軍勢】って連中の仲間って訳か)
更に言えば、そうした異世界の連中に義体化手術を秘密裏に施した上、機に乗じてオールド・トーキョーに侵攻する勢力が現れたのだ。最早、ルールー自身に課せられた贖罪の枷など、無意味なものだろう。
(…さて、連中も撤退したか。なら、一度戻って立て直すとして…)
ルールーは瓦礫の陰から這い出て立ち上がると、無人の廃墟を眺め回してから声に出して呟いた。
「…連中に私の居場所がバレてたが、いつからだ?」
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