第24話 義体化兵の天敵



 


 ルールー達が在日米軍の横田ベース跡地に出向いた頃、オールド・トーキョー前線基地は派遣された米軍の支配下に置かれていた。無論、直ぐにアジア統合管理局は明らかな侵略行為だと非難したが、「危険な生物が侵出するのを未然に防ぐ」為の対応だと互いの主張を譲らなかった。


 そうした政治的な動向を他所に、オールド・トーキョーの内部では局所的な戦闘が起きていた。アジア統合管理局陣営に関わっていた全身義体化兵達の生き残りが、米軍以外の情報収集班と接触。生きたまま捕らえられても分解されて電脳から情報を抜かれる為、武力で抵抗していたのだ。




 【 こちらヴィーキング01ゼロワン…抵抗勢力を視認、開始する 】

 【 …了解、速やかに制圧せよ 】

 【 ヴィーキング02、03、04、撃て 】


 通信ドローンを介して無線が飛び交い、全身義体化兵達が増加された人工筋肉で携帯ロケット砲を軽々と構えながら、一斉に射出する。発射された弾頭は空中で目標を捕捉するとロケット噴射で飛び、一気に距離を詰めていく。


 「レーザーでマーキングしろ、撃ち漏らせば死ぬ」

 「…了解」


 狙われた義体化兵は廃墟の壁面から銃身だけ覗かせながら、飛来する誘導兵器を電磁ライフルで撃ち落としていく。


 「ニーラ、残弾はどうだ」

 「…余り芳しくないな。最悪、相手から奪うしかないかもしれん」


 ケーニヒスの問いに相方のニーラは首を振りながら答え、背部ラックから新しい弾倉を掴むと、空になった弾倉を捨てて交換する。


 「武装から見て、オーストラリアの国外派遣軍、ヴィーキング部隊だな。EU加盟国の後押しを受ける条件で駆り出されたんだろう」


 ニーラのマガジンチェンジを見届けてから、ポジションを交代してケーニヒスも弾倉を替える。電磁ライフルの弾数もバッテリーの残数も、半分を切っていた。一瞬、脳裏を投降の二文字が過るが、首を振って追い払う。


 (…だが、俺達はオールド・トーキョーから出ても行く当ては無い。しかし、このまま捕まっても闇に葬られるだけだろう)


 ドローンの視界を妨げる煙幕手榴弾スモークグレネードを投げながら、もやかすむオールド・トーキョーの廃墟に視線を向けて走り出した時、ニーラが声を掛ける。


 「…ルールー達と、合流するべきかもしれんぞ」

 「それは…いや、確かに考慮すべきかもな」


 基地所属の生き残りも僅かな今、バラバラに散って闇雲に動くより、少しでも集まった方が追っ手に対応するのが容易になるかもしれない。そう決断したケーニヒスは、ニーラと共にオールド・トーキョーの廃墟に向かって走り出した。


 「…但し、向こうが受け入れるかは判らんがな」


 一人そう呟きながら、ケーニヒスはドローンとヴィーキング部隊の追跡を振り切る為、廃屋や空き家の中を突っ切りながら西に向かって進んで行った。





 「実際、そのオルテガってどの位戦えるんですか」


 ヨモギがコックピットに乗り込もうとしていたルールーに尋ねると、彼女はそうだな、と前置きしてから、


 「…表面装甲は電磁キャノンの弾頭も防ぐぜ。装甲の下に磁場発生機構ってのが付いててよ、砲撃を受けても弾き返すみてぇだ。ま、撃たれてみなきゃ判らんがね」


 そう言ってコックピット内に収まると、様々な場所に設けられたラックに武器を載せていく。


 【 …40ミリ電磁キャノンに、多目的ロケット発射筒…あとは近接用電磁ブレードと、おっ! これもいいな! 】


 まるでビュッフェでスイーツを皿に載せるような気軽さで、巨大なオルテガに合った武装を取り上げては装着すると、機体の大きさは一回り膨らんだようになる。


 【 さて、そんじゃこの位で…おやおや、お客さんが来たみてぇだな? 】


 遠近どちらのセンサー類も充実したオルテガ内で、ルールーは自分達に向かって来る何かに気付く。だが、ダンカンには範囲2キロ圏内で何も感知出来ていない。


 【 おい、何も見えやしないぞ? 】

 【 ありゃりゃ…機体性能差が出ちまったなぁ 】

 【 うるせぇ! で、何なんだよ相手は… 】


 二人がやり取りしている間にも、相手は距離を詰めてくる。そして遂にダンカンにもその正体が判るようになった。


 「…マジか? ヘリだと…!?」


 彼のセンサーが捉えたのは、左右に一機づつ傾けてローターを搭載した大型兵器。資材運搬汎用機を改修し武装を施した《対義体化兵攻撃ドローン》の黒雀蜂ブラックホーネットだった。




 低騒音飛行を維持し、やや唸るような羽音を鳴らしながら飛来するブラックホーネットは、その多彩なセンサーを駆使しオペレーターと情報を共有しながら飛行していく。


 「…飛行状態良好。このまま哨戒モードで先行させます」


 ヴィーキング部隊とも、米軍部隊とも異なる義体化兵達がブラックホーネットの後方に続き、扇状に展開しながら進む。


 「噂に聞いていた距離や個体数の縛りは、何処かに消えたようだな」

 「ええ、今の所なにも異常はありません。ドローンも稼働に影響は受けていません」


 更にその後方に作戦指揮用の装甲車が進み、その中から二人の義体化兵がオペレーターと共に状況を確認する。上官と部下らしき二人はオペレーターが監視するドローン、ブラックホーネットの作動状況を視野に納めつつ、装甲車の外で歩行する兵士達の侵攻も同時に把握していく。


 「米軍もオーストラリア軍も、まだ浸透はしていないか…先行出来たのは良いが、目標を確保するなら他の軍隊が騒ぎを起こしてくれた方が楽だ」

 「そうですが、重武装の全身義体化兵を捕えるのは簡単にはいきませんよ」


 部下の義体化兵がそう言うと、上司の義体化兵は脱いでいたヘルメットを手の上で回しながら返答する。


 「…追われている奴はな、自分の周りで戦闘が起きれば必ず動くものだ。それが戦いに慣れた者から更に顕著になる」

 「そうでしょうか…」

 「ああ、しかも相手は相当な戦闘狂だと聞いている。ならば動くさ、必ずな」


 歩行で進む義体化兵達を取り残し、ブラックホーネットがぐんと速度を上げる。それは名前の通り、縄張りに踏み込んだ侵入者を威嚇する雀蜂そのものの速さだった。





 




 

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