第11話 ルールーの帰り道
「いやぁ~、それにしても我ながら鮮やかもんだったなぁ! そーだろぉ?」
「まぁ、確かにあれだけの化けもんを、ざっくり一撃だったからなぁ」
サイクロプスを倒して意気揚々と帰路に着くルールーとダンカンだったが、決して油断はしていない。
【…ハヤマ、周辺索敵しといてくれ。ゴブリン共は確かにひ弱だが、ただのバカじゃねぇ】
【ええ、ドローンで周回偵察してあります。一応、戻る道に伏兵の類いは見当たりません】
サポートの葉山に
【ダンカン、どう思う。サイクロプスって奴は頭は軽いが頑丈だ。そんなのを手駒として扱えるのは、相当厄介な奴じゃねえか?】
【そうだな…状況証拠からみて、ここまで戦略的な事が出来るのは
「…帰ったら先ずはメシだな!」
「そうだな、たまには外食するのも悪かないな」
表と裏で違う話題を扱いながら、ルールーはダンカンの分析に熟考する。
…ゴブリンロードとは、全身義体の戦闘特化兵から見れば弱者の部類のゴブリンの中でも、一番危険で油断出来ない相手だ。部族単位の集団を複数率いて戦線を構成し、他の種族と対等以上に渡り合い、更に魔導まで扱える難敵である。しかも単独で行動する事は稀だが、一対一で戦っても容易に討ち取れない実力を備えている。過去に幾度か義体兵達と遭遇しているが、未だ狩り殺せていない。
【…ちっ、面倒な奴が出てきやがったな。ただ、唯一の救いはゴブリンロードが私らを避けてる確率が高いって事か】
【そうだ、じゃなきゃサイクロプスが出てくる前に、雲隠れなんてしないからな】
ゴブリンの斥候と戦い、伏兵のゴブリンメイジを捩じ伏せた上、物理的防御を纏わせたサイクロプスまで一蹴したルールー達と、一戦も交えず姿をくらましてしまったのだ。血の気と勢いだけで襲い掛かる脳筋モンスターとは違い、真に手強い相手だろう。
「…ところでよ、サイクロプスって何処から来たんだろうな」
回線ではなく肉声でルールーが呟き、ダンカンもそれに
「そうだな…オールド・トーキョーの西の方はまだ未開拓箇所も多いからな、そんな場所から引っ張ってきたんじゃないか?」
そう返答し、西の方角に視線を向ける。彼の強化された視覚は廃墟の連なる界隈から、更に先の山の峰が連なる景色まで視る事は出来たが、その山々が果たして旧東京の山梨県境に在ったのと同じ奥多摩の山なのかまでは判らない。しかも東西五十キロ程度の旧東京と同じ空間に、広大な二千五百キロ相当の異世界が遍在し、その大半は未開拓のままなのだ。
「…ま、そのうち判るだろ。俺達が端まで辿り着けるとは限らんが、今でも探索は続いてるしな」
「そーだな。でも、現地で補給出来ない縛りが有る限り、探索はドローン任せだし地形も変わるんじゃ、当分は無理じゃねーの…」
ルールーがそう締め括るとダンカンも同意し、とにかく帰ろうと進むスピードを早めた。
「…ちょっと待ってくれ。ビーコンの反応が消えたぞ?」
「んだぁ? 何寝ぼけた事を…ありゃ、おかしいな…」
不意に立ち止まったダンカンと共に、ルールーも無意識の内に側頭部へ掌を当てながら確かめるが、帰路を示す筈の散布型ビーコンから信号が受信出来ない。
「妙だな…来る時は確かに受信出来てた筈なのに」
「…ハヤマに聞いてみるか…【おい、ハヤマ!】」
直ぐに回線を開き、サポート役のハヤマを呼び出してみる。
【どうしました? 何か異常有りましたか】
【どーしたもこーしたもねぇ! ビーコンの反応が消えちまってるんだ! そっちから確認出来るか?】
ルールーの言葉に何事かと思いながら葉山も確認すると、ネット上の地形図からビーコンの反応が消えていた。直ぐに状況を把握する為に衛星画像や通信機器をチェックしてみるが、異常は見当たらない。
【…どうやら、ビーコンだけ消失したみたいですね。地形や上空画像にも異常はありません…】
【…そんな訳有るか? ビーコンなんざ豆粒みてぇに小さいし、いちいち拾って壊す奴なんざ居ても数が多いからやれっこ無いぜ…】
彼の報告にルールーは反論しつつ、しかし幾ら待ってもビーコンからの信号は受信出来ない。
「おい、ルールーよ、このまま迷ってオールド・トーキョーをうろうろしても、無事に帰れる保証は無いぜ?」
「…ちっ、くそ…最善策を探すしかないなぁ…」
一先ず現在位置を確認するしか無いと判断し、ルールーとダンカンは二手に別れて地形を測定し、無人運搬車両のナビシステムと照らし合わせてみる事にした。
「じゃあ、俺は高台に登って画像検索してみる。お前は廃墟の残骸から地名か何か探してくれ」
「やれやれ…地道にやるしかねぇか…」
互いの役割分担を決めた二人は、ドローンと運搬車両を一ヵ所に集め、そこを仮拠点として現在位置を割り出す事にした。
「じゃーな、拾い食いすんなよ?」
「アホか! 私らが食えるもんなんか有りゃしねえって!!」
そんな事を言いながら二人は別れ、ルールーは電車の駅らしき廃墟へ、そしてダンカンはその近くの大きなビルらしき廃墟へと向かって行った。
「…んー、何か判るもんは無いかねぇ…おい、ハヤマよ何て書いてあるんだコレ?」
廃墟の階段を登りながらルールーが回線を開いたまま葉山に尋ねると、
【えーっと…それは行き先を示す看板ですね。チューオー線の上りと下り、各々の停車箇所を案内する看板です】
【上り? 下りって北か南か?】
【いや、たぶんですが東西に別れるんだと思います。古い地図のデータだとそんな感じです】
【そーかい…でも、それじゃ何も判らねぇな…】
要領を得ない返答に、ルールーは落胆しながら階段を登り切る。すると渡り廊下らしき通路に出たが、床が崩れて先には進めなかった。
「あー、こりゃダメだな。下に降りて駅舎を探すしかないな…」
崩れた床から下を覗きながらルールーが呟き、そして崩壊した床から下に飛び降りる。無論、その程度の衝撃で何か支障が生じる訳も無く、静かに着地して錆びた線路を跨ぎ、プラットホームを飛び越して構内へと入った。
「おっ、駅の名前か? あー、うん読めやしねぇな…」
【はいはい、看板ですね…タチカワだそうです】
【ふーん、タチカワねぇ…それ、地名か駅名か判るのか?】
【…はい、両方ですね。チューオー線のターミナル駅で、人口密集地の中規模の都市だったようです】
過去の記録と照らし合わせながら、葉山とルールーが答えを見つける。しかし、問題はオールド・トーキョーの東の端に有る基地までどの位離れているか、まだ判らないのだ。
「旧東京だと湾岸地帯までどんだけ離れてるんだ?」
【…そうですね、大体二十キロ位じゃないですか】
【…はぁ? そりゃおかしいぞ! 私らが基地から出発して半日も過ぎてないのに、二十キロも進む訳ねーだろ!?】
葉山の答えに狼狽えるルールーだったが、その出来事は彼等の迷走の始まりに過ぎなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます