第10話 ルールーとサイクロプス
ズシンッ、と地響きを伴いながらサイクロプスが歩を進め、廃墟傾く裏路地から広い幹線道路跡へとやって来る。そして、足元に転がるゴブリンの亡骸を指先で摘まみ、高々と持ち上げると口を開いて放り込む。
「ぅおいっ!! そりゃ私らのもんだぞっ! 返せっ!!」
盗られてたまるかとルールーがサイクロプスの
「ルールー退けッ!!」
直ぐダンカンが射撃姿勢を取り、補助バランサーを展開して二十ミリ電磁ライフルを構える。
ヴウゥンッ、と鈍い響きと共にスパークが走り、銃口からプラズマの電光と弾丸が
「またかよっ!! こいつもブゥードゥの類いで身を守ってやがる!!」
自棄になりながらトリガーを引き連射するが、何度撃っても結果は同じだった。
「ダンカン! 弾の無駄遣いにしかならねぇ!! 一旦退くぞっ!!」
「…仕方ねぇな、スモーク焚くぜ!」
ルールーに答えながら腰のラックから手榴弾を掴み、ボタンを押して前方に投擲する。地に着くと同時にスモークが吹き出し、視界を遮る最中を狙ってから二人は後方へと下がって行った。
「…あいつ、悠々と歩き回ってやがるな」
離れた廃墟の陰に身を潜め、無人運搬車両から弾薬を補給しつつ、ジョイントスコープを伸ばしてダンカンが呟く。スコープ越しに見えるサイクロプスは、辺りに散らばったゴブリンの死体を貪りながら首を巡らして、時折立ち止まって様子を窺っているように
「…なあ、あいつ…もしかして私らが出てくるのを待ってるんじゃねーか? …おっ、それならやりようがあるな」
ルールーもスコープ越しにサイクロプスの様子を眺めながら声を抑えて話し、そこで思い付いて葉山を呼び出す。
【おいハヤマ、デコイを使って撹乱出来るか?】
【…デコイですか? そりゃあ出来ますが…】
【ああ、出来るだけ派手にやらかしてくれ。それと音響ダミーも使えば上等さ!】
回線を通して作戦会議を終えたルールーは、無人運搬車両から遠隔操作で動くデコイと、小型スピーカーを内蔵した音響ダミーの各々が飛び出して行くのを確認した後、光学迷彩カバーを被って身を潜めた。
暫く後、最初に動き出したのはモーター駆動の車輪で走るデコイだった。廃墟の陰から飛び出してホログラムでルールーとダンカンの瓜二つな立体映像を投射し、サイクロプス目掛けて接近する。
「… ゴ ア ア ア ァ ァ ッ ! ! 」
地を裂くような雄叫びと共にサイクロプスが反応し、ジグザクに急転換を繰り返しながら近付くデコイ目掛けて拳を振り下ろした。しかし嘲笑うかのように目前でキュッと急停止したデコイが拳を避け、再び走り出すと廃墟に向かって加速していく。
そんなデコイに目を血走らせながら駆け寄るサイクロプスだったが、突然立ち止まると一つ目を瞬きながら首を巡らし、右や左に視点を動かしながら困惑し始める。
「バーカバーカッ!! てめぇなんぞ怖くねぇ!」
「こっちだこっち!! 薄のろ野郎!!」
「どこに目を付けてやがる!! 後ろだっての!」
「頭ん中は空っぽだな!!」
突然四方八方から音響ダミーを介してルールーとダンカンの罵声が飛び、それに呼応するようにデコイの数が更に増える。そして気付けば広い元道路の真ん中でサイクロプスが狼狽えながら棒立ちになり、その周囲をデコイと音響ダミーが取り囲んで撹乱し続けていく。
「ウオオォ…オオォン…!?」
最早猛々しさの消え失せたサイクロプスは、手の届かない場所を走り回るデコイと音響ダミーの動きを目で追うのが精一杯で、頭を抱えながら動けなくなってしまう。
と、いつの間にかサイクロプスの足元まで近付いていたルールーが光学迷彩カバーを跳ね上げると、ヴォーバルを素早く抜き放ち、サイクロプスの脛目掛けて振り抜いた。
ガキッ、と甲高い音と共に剣が弾き飛び、襲撃は未遂に終わったかに見えたが、
【ハヤマッ!! こいつがブゥードゥしてるんじゃねぇ! 近くにまだ生き残りの奴が隠れている筈だ!】
不意を突いた一撃を跳ね返されながら、ルールーは回線を通じて葉山に叫び、理解した彼も周辺をドローンを使って解析し始める。
【…ダンカンさんっ! たぶん生き残りのゴブリンメイジがここに居ます!!】
直ぐに廃墟の陰に身を潜めていた残りのゴブリンメイジをCO2反応で発見し、ダンカンの視覚に投影する。
【よしっ、ぶち抜いてやるぜぃ!!】
ルールーと同様に光学迷彩カバーを被っていたダンカンが伏射姿勢のまま狙いを付け、大口径電磁ライフルが火を噴く。そして狙い通りにゴブリンメイジの隠れていた廃墟の壁を撃ち抜き、陰に身を潜めていた生き残りの頭部を粉々に砕いた。
「ヒャッハッ!! やるじゃねぇかっ!!」
彼女目掛けて拳を振り下ろすサイクロプスに肉薄したまま、ルールーは叫びながらヴォーバルを握り直す。
「次は私の番だなっ!! 今度は今までとは違うぜ!!」
巨体の動きに合わせて背後を取ると、ルールーは再びサイクロプスの脛を横凪ぎに斬った。するとあれだけてこずっていた筈の障壁は消え失せ、試し斬りの時のように一太刀で太い足の膝から下がスッと斜めに切れ、姿勢を崩して膝を突いた。
「いいいいぃーーやぁッ!!」
すかさず跳躍しながらルールーは剣を逆刃に構え、顔面と同時にサイクロプスの単眼目掛けて突き刺した。
ごふっ、と口から息を吐いたサイクロプスは、そのまま腕を宙に上げてルールーを掴もうと踠くが、既に彼女は飛び退き掴む事は出来ず、そのままの姿で暫し固まっていたが、やがて四肢から力が抜けていった。
「よっしゃあぁっ!! デカいのぶち殺したぜっ!!」
「これでローン地獄がちょっとだけ遠退いたな!」
「今言うんじゃねぇ! 良い気分が台無しだろ!」
二人がそんな事を言い合っている内に、無人運搬車両と回収ドローン達が次々と近付いて来て、黙々と解体作業を始める。
「…俺達もくたばれば、ああなるんだろうな」
「…ま、死ねば皆同じさ」
ルールーはそう答えると、ヴォーバルを鞘に収めて撤収の準備を始めた。
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