第9話 ルールーと新しい武器
ルールーは掌に載ったヒヒイロカネの剣を両手で握り締め、さて…どうしたもんかね、と考える。
…まずコイツの名前が欲しいな。ヒヒイロカネってのは長過ぎる。それにガチの日本語じゃねーか。ヒヒって響きも何だかダサい上に締まらねぇ。
【おいダンカン、コイツに付けるイイ名前が欲しい!】
【…はあ!? こんな時に何言ってやがる…】
【大事な事なんだよ、おいハヤマ! お前も何かねぇか?】
回線を通してダンカンと葉山にルールーが尋ねると、暫く後に葉山から答えが返ってくる。
【…ヴォーバルってのはどうです? 不思議の国のアリスでジャバウォックを倒す剣の名前ですけど】
【…ヴォーバルねぇ…ま、いっか】
余りにも呆気ない返答に思わず葉山がえっ? と聞き返すが、ルールーは軽い調子で決めてしまった。
「おっしゃっ!! ヴォーバルで稼ぐぜぃ!!」
チイィンッ、と鞘鳴りさせながらヴォーバルを引き抜き、ルールーは気合いを入れ直す。そしてダンカンの脇から飛び出すと更に更に加速し、ゴブリンの群れの中へと身を投じる。
今まで剣術一つ学んだ事の無い彼女は、どうやって剣を扱うのか何も知らない。しかし、上書きされた義体駆動のプログラムとヴォーバルに内蔵されたセンサーの軌道予測を経て、どう斬れば最善策になるかを
先ず、上段からの切り落とし。先頭のゴブリンを縦に断ちながらそのまま前進し、勢いを削がず相手を両断する。後方に控えていた二人目が斬られた仲間の身体で視界を塞がれ、ルールーの動きを捉えようと踏み留まった瞬間、下から切り上げたヴォーバルの切っ先が下腹部から肩口まで一気に通り抜ける。
「…こりゃスゲぇなっ!! ゼリーを斬るより簡単じゃねぇーか!!」
瞬く間にゴブリンを二人斬り倒しながら、ルールーの動きは更に加速する。たったの二歩で仲間が物言わぬ屍と化し、控えていた三人目のゴブリンは思わず立ち止まるが、
「シャキッとしやがれっ!! お前らから先に売ってきたケンカだろうがよっ!?」
ルールーの
ごぼっ、と口から血と吐瀉物を撒き散らしながら背後の仲間を更に巻き込み、四肢を滅茶苦茶な方向に折り曲げながら、蹴られたゴブリンは地面を転がって
と、そこでルールーはヴォーバルを担いで何か言おうとした瞬間、ジジッと頭の芯が痺れて熱くなったように感じ、危険を察知して後方に跳躍した。
【ハヤマっ!! 何か変だぞ!】
【ちょっと待ってください…計測ドローンの観測結果を見てみます】
飛び退きながらルールーが葉山を呼び出し、彼は周辺状況から何か判らないかとデータを解析する。葉山は義体化はしていないが、ルールーと同レベルの脳内クロックアップ処理を受けている為、ドローンから流れ込む膨大な解析情報をサイバーデッキで受けつつ処理を進め、
【…廃墟の隅に光学的な歪み、それと質量の誤差が無視出来ない領域…ここ、そこにゴブリンの魔法使いが居ますね】
そう結論付けると、ルールーの視界に確認出来るよう、同期タグを視覚化させる。
【くそっ、チタンの頭蓋骨も内側から沸かされたらヤカン以下じゃねーかっ!!】
悪態を吐きながらルールーは姿を隠した相手を炙り出す為、ダンカンにタグを同調させながら、
【ダンカン!! 今すぐココに自慢の息子を叩き込め!!】
【ああ、見てろよルールー! 小便漏らしながら泣き叫ばせてやるぜっ!!】
ゲスなやり取りの後、ダンカンは斜めになった廃墟の壁に手刀と爪先を突き刺してよじ登り、銃座を確保すると電磁ライフルを構える。
ブウウゥーンッ、と電磁コイルが唸ると瞬時に射出準備が整い、弾倉から押し上げられた弾丸が装填と同時にバレルの中を加速する。そして連射モードで次々と射出された弾が流星のように降り注ぎ、廃墟の陰に身を潜めていたゴブリンメイジを壁越しに撃ち砕いた。
【そらよっ! ハヤマ、まだ生きてるならお代わりをくれてやるぜ?】
【…いや、目標地点クリアです。動く者無し…いや、ちょっと待ってください、新手が来ます!!】
役目を果たして自慢気なダンカンだったが、葉山は観測ドローンから新たな敵の襲来を確認し、警告を発する。
その相手は、ルールーやダンカンが知らぬ内、突如湧き出すように姿を現した。このアンダー・トーキョーは物理法則を無視し、今まで何も居なかった場所に異世界生物が突然現れる。それは異なる並行世界が重なり交わる時、当然のように具現化するからか。その真相は判らない。
【…気をつけてください! かなりの大物みたいですよ!】
興奮気味に葉山が呼び掛ける中、新手の異世界生物はメキメキと廃墟の外壁を手で押し退けながら、重々しい足音と共に姿を現した。
【…へえ、
ルールーが見上げる先にサイクロプスが現れると、ゴブリン達は直ぐ姿を隠してしまう。どうやら、新手の登場はゴブリン達を裏で操る者にとって、既に折り込み済みなのだろう。
【…でも、ぶった斬るだけだがねっ!!】
しかし、ルールーには全く関係無かった。
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