24 でっっっっっか



 ましろくんは優勝者インタビューをすっかりと忘れていたようで、急いで配信部屋に戻って謝罪をしていた。

 セカイさんやモココさんがカバーして「若い子だからすぐ動いちゃうんですよ~」「それだけお姉さんが好きなんです」っていう話でまとめてくれていた。

 優勝者インタビューでましろくんは嗚咽をしながら「このチームでっ、優勝できてよかっだぁ……」って話して、実況者も思わず目頭を押さえていた。

 キョージュさんも帰省から戻りながら見ていたらしく、ボク達5人がいるチャンネルで『感動した。まじで。このチーム最高すぎ』と連投をしていたほど。

 そして、大会の配信を終えて、ましろくんを蒼央さんの家に招いた。


「じゃあ、大会お疲れ様パーティーを始めるとする!」


「やった~」


「あっ、ありがとうございますッ!」


 机の上には大会後の雑談中にボクが作って、注文をしていた料理が並んでいる。

 ましろくんがデリバリーでよく注文している揚げ物も用意しておいた。

 あと、個人的に気に入ったつまみも購入。カクテキとチャンジャ、たこわさ、あとは焼き鳥も用意をした。蒼央さんが冷蔵庫からお酒を取り出してニヤリとしていた。

 曰く、こんなに酒が進む日なんてあってたまるか! ということらしい。


「優勝おめでとう、かんぱーい!」


「かんぱーい!!」


「か、かんぱーい!」


 三人でグラスを合わせて、パーティーを始めた。


「うま、うま……心音ちゃんの料理美味しいよぉ……」


(みおとちゃん……?)


「お姉さんの料理は美味しいです!」


「ありがと~」


 いっぱい食べる小さい子を見て嬉しくなった。もう、ボクもおじさんかな。

 そして、まさか完食されるとは思ってなかった。蒼央さんもめっちゃ食べてた。

 後片付けをしているボクにましろくんが手伝いますと言ってきたけど、「主人公なんだから、ゆっくりしてって」というと恥ずかしそうにしていた。


「まさか、ましろんが隣の部屋の人だなんて思ってなかったよ」


「このマンション、セキュリティ良いですし、何より防音性能高いんですよ」


「分かる~」


 手頃な価格だし……と呟いている少年を遠い目で見つめる。

 東京のマンションの一室に住んで、「手頃な価格」という金銭感覚たるや。

 こちとら10万近くの給料もらっただけでテンション上がるのに。

 その時、大会優勝時のましろくんの投げ銭スーパーチャットの嵐を思い出した。


(……金銭感覚バグりそう……こわい……)


 子役で金銭感覚が狂ったという話も聞くし、若くして配信業で儲かった人が年齢を重ねて破綻するみたいなのもありそう。というか、今後はそういうのが多くなるんじゃないかと思った。

 かくいう、ボクもましろくんの雑談中に投げ銭スーパーチャットを投げたんだけどね。


「あっ! お姉さん!! 優勝したので! お友達になってください!」


「なるよ~。というか、もう友達だと思ってた」


「っ! ぼ、ぼくも! 思ってました! 確認で、その」


「確認は大事だね~」


 よし、洗い物完了。タオルで手をゴシゴシと拭いていると、タタタと洗い場までやってきたましろくん。


「それと、あの、優勝したので……その、ワガママを」


 とうとう来たか。さて、何を言われるか……。


「あの、ボクと──」

 

「ましろん、その前にお風呂入っていきなよ」


 言い切る前に蒼央さんがましろくんの肩をぽんっと叩く。


「え、あ、っと……さすがにそこまでお世話になるのは……」


「オススメの入浴剤、買ったんだぜ。心音ちゃんチョイスのね」


 ボクのオススメじゃなく、蒼央さんのオススメだけどね。

 庶民派のぼくは入浴剤ですら嗜好品で手を出せないのだ。


「着替えは心音くんのを貸すし」


「おっ、お姉さんのを……ッ!」


 ここまで聞こえる生唾を飲む音。それも、蒼央さんが買ってきたものだけどね。

 

「はいります!」


「おーけー。じゃあ、心音ちゃんも一緒に入りなよ。汗かいたでしょ?」


「!!!!?」


「まあ、汗かきましたけど……」あ、そういうことか。「ましろくんがいいなら」


 蒼央さんの意図が分かった気がする。ごめんね、ましろくん。

 そろそろ、現実を教える日がきたみたいだ……。


「はっ、え、あっ、わっ……い、いいんですかッ……!!?」


「うん……あ、一番風呂とかしんどいってタイプ?」


「いやっ、そのっ」蒼央さんに目配せ、頷かれてた。「お願いします……」


 なんで目配せをしたかは分からないが、まぁ良い。

 本人がいいなら別に良いけど。

 ……ましろくんってボクのこと女性って勘違いしてるんだよなぁ。





 洗い物をしている心音くんをチラチラと見ていたましろくん。愛おしい。

 そしてそれを知ってか知らでか、心音くんから踏み込もうとしていない。

 その背中を押した。本当ならば黙しておくべきだと思っていたが我慢ならん。

 わたしの家に可愛い男の娘が……どぅへへっへ。

 そして、この部屋の向こうでは、つるつるすべすべお肌が露わに……。


「でも、ましろくん高校生って聞いたし……普通に犯罪か」


 だらしなく垂れていた顔を引き締めた。犯罪は怖いからな。


「わあ、ましろくん肌すごくキレイ……」


「おねえさんも……」


(透視の能力ってないのかな……)


 この壁を隔てた向こうではい◯もつが生えただけの女の子たちがイチャイチャと互いの容姿を褒めて、頬を赤らめているのだろう。

 加わりたい。いや、それは刺激が強すぎる。


「って、お姉さんっ……それ」


「あ、ぼくね、あの」


「でっっっっっっっか……!!!!」


「声大きいって!! 蒼央さんに聞こえちゃう!!」


 強引にお風呂場に連れ込んだらしく、扉を強めに閉める音が聞こえる。 

 今頃、湯船に浸かりながら弁明をしていることだろう。

 

(みおとくんのってデカイんだ……)


 背中に手を回して、さすさすと。


(あの感触はたしかにそうか)


 みおとくんが私の家に来て数日で、わたしが心音くんのおっぱいを吸わせてくれと言った際、わたしの体はソレに持ち上げられた。

 そう、女性とはいえ、成人済みの体をソレだけで持ち上げたのだ。

 堅く、大きい。あの可愛い顔にどんな兵器をぶらさげてるんだ。

 湯船に浸かりながらなにを話しているかは分からないけれど、おそらく男の娘同士でしか話せれないことを話しているのだろう。

 

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