23 勝って兜の緒を締めろとはまさに



『リスナー)コイツら! 一位のくせに初動被せかよ!』

『リスナー)プロだろ!? マナー守れよ!』


 リスナーの阿鼻叫喚が勢いよく流れ、一部ではお通夜状態のリスナーもいる。

 別ゲーのプロがダイヤモンドという中堅ランクで参戦しているこの『ゲーミングお寿司』は練習試合を合算した総合順位で1位を獲得しているチームだ。

 他の2名もこのゲームをメインで配信している配信者。負ける要素なんてない。

 そんなチームが、プロゲーマー不在の『ラーメンよりうどん派』に初動被せ。

 ましろ、セカイ、モココの快進撃はここまでか、という雰囲気になった。


 


「────やっぱり来たか、ゲーミングお寿司」


 


 と、ラーメンよりうどん派の三人は呟く。

 そして、心音とキョージュも苦笑いをした。

 唯一、何も知らない蒼央だけが、絶望をした顔で配信画面を見つめている。


 『ゲーミングお寿司』は優勝候補の一角だ。

 だが、どうも攻めっ気が強く、初動被せや無理凸をすることがしばしば。『無理凸も全員倒せば無理凸じゃない』と言っているが、戦績は1位か10位以下かという感じ。

 正直に言えば、初心者二人を抱えるましろが勝てる見込みは薄い。

 

 でも──


『これは、これはっ……!? 思い通りにはいかないぞと! ましろがヘイトを稼いでいる間にセカイとモココが2vs1で勝利。そして──』


『1vs2となったましろが1ダウンを取り──決めたァアアア! ここでましろが1vs2を跳ね返します! もう彼らは止められない! 今日は寿司の出番はないぞと! 暫定1位のゲーミングお寿司がここで脱落!!!』


 『シャア!!!』と三人のvcが聞こえ、セカイの屈伸煽りもカメラで抜かれた。

 モココも興奮し、壁に向かって弾を撃って『来んな』と文字を描いてる。

 ましろは感情のこもった声で『ぼくたちが主人公だアアアッ!』と叫んだ。


 


 これは、昨日のことである。

 心音がまとめた資料の後半には他のチームの行動パターンもまとめてあった。

 キョージュから解説のバトンを受け取った心音は、まとめた資料の解説を始める。 


「喧嘩上等卍。元プロがいるチーム。立ち回りは真面目で、基本的に思った通りの動きをする。名前はアレだけど、お利口さんのチームだ。コーチングしてるプロも堅実ってタイプ。さめさめ水族館には海外の配信者がいるけど、pingが高いし、コミュニケーション面で変なプレイはできないと予想。けど、ゲーミングお寿司。ここだけは注意が必要だと思います」


 心音は選手の特徴をまとめた資料をスライドで映し、コーチの戦歴も見せる。

 

「ゲーミングお寿司のコーチはプロだけど、割と無茶なプレイが多い。フィジカルでなぎ倒すタイプで、炎上したことが何回もある。で、チーム内も楽しければ良いって人が多いし、リーダーの他ゲーのプロもカジュアルな雰囲気で楽しんでる。そして、他の2人のうち、1人はセカイさんとモココさんの同じ事務所だ」


『まぁ、ノリで突っ込んできそうな気はします』


「そんなプレイをしてても、このチームは優勝候補だし、実際に強い」


 練習試合の動きをまとめた資料を出して、心音はため息をつく。


「おそらく順調が伸びれば、このチームに無理なプレイをしてくる可能性が高い。だから、ましろくん。新マップ以降で順位が伸びてれば逃げれるキャラにチェンジ。同じ降下場所ランドマークでも1人で少し離れた場所に降りてみて」


 他チーム分析で「カジュアル大会だから」という言葉をこのチームは何度も言って、何度も初動被せや無理な突撃を繰り返していた。

 正直に行って、台風の目。このチームをどう扱うかによって変わる。


『でも、それでげーすしが被せてこなかったら……』


「もとより、最終試合はプレイが雑になるチームが多い。無理なファイトを仕掛けられても、このキャラなら逃げれる」


『わかりました』


「まぁ、予想だから。そういうことがあるかもって思っておいてほしいかな」


 昨日の蒼央との話し合いの熱がまだ残っていたのだろう、いつよりも饒舌な心音の言葉を、この時のメンバーは半信半疑だった。

 しかし、最終試合になってみて、言う通りになったことに驚いた。


「え、えっ!? ましろくん、2試合目までのキャラと変えてるの!?」


 蒼央が興奮したように画面を指差しながら叫んで、思い出したようにバフバフとスティックバルーンを叩く。


「ですね。逃げれるキャラに変えてるみたいです」


「すごい!! なんでっ! え、来るって分かってたの!!?」


 コメントも大きく盛り上がる中、心音も自分の思い通りに動いてることに──誰よりも驚いていた。


「……ほんとうに、そうですよね。ボクもびっくりしてます」


 しかし、初動被せがあったことでエリアの移動が遅れてしまい、エリアの中に入るのが難しくなってしまった。

 既にチームの大半がエリアを予想して中に入って、固めている状況。

 強引に中に入るのは難しく、他の射線も考えて行動をしなければならない。

 残っているチーム数は15。今、死んでしまっては優勝はできないだろう。

 

「──入る場所がないなら作るぞ!! オレらならできるだろ!」


 セカイが叫び声により、チームの緒が締まるのを感じた。


「モココ!! 作るならどこが良い!! 1位じゃなくても良い! 順位を上げる!」


「建物がない平原だったら押し上げやすい! プロチームがここからチャンピョンになった試合みたことある!!」


「モココさんに任せます!! 移動のタイミングは!」


「今! ナウ!! 左から大回りね!! セカイは武器を遠距離に変えて!」


「じゃあ、ぼくは敵の前の岩場まで出ますね! 後方支援お願いします!!」


「ケツを追いかけられるのだけ注意な! ましろ! ダウンはすんなよ!!」


「当たり前です!!」


 リスクを恐れて建物や耐えられるポジションで守っているチームを他所に、徐々にエリアを広げて行く。

 最終試合だから慎重に戦いたいチームの尻を蹴り飛ばしていく。

 前線を押し上げて行き、1チームを壊滅。左側の平地のエリアを広く占拠。

 だが、平原はエリア移動と遮蔽物がないことがデメリット。

 エリアを取るために武器を変えていたセカイの弾も無くなり……。


「あとは耐えろ!! 回復アイテムもねぇしな!!」


「バカ! セカイ! ましろくんにアイテム全部渡して!!」


「! 移動がしやすいキャラだから、生き残りやすいか。リョーカイ!」


 三人の物資を集めても十分ではないが、ないよりはマシ。

 エリア移動のタイミング2人が先に出て、周囲の弾を消費。リロードのタイミングでましろがエリアを移動する。


「耐えろ! ましろ!!」


「なんなら勝っても良い!!」


「そーだぞ!! どうせなら勝っちまえ!! ブェッ」


『おーっとここでセカイとモココがダウン! ですが、まだましろが生き残ってる!! 1人となったましろは最終エリアのビルの下に入り込みます!』


 残りのチームは4チーム。5位圏内のチームがましろを除いて2チーム。

 それぞれの階層に敵がいるという状況で最終リングは家の外。

 シールド回復アイテムがなくなり、HPだけがある状態。


「ここでひっくり返したらマジでヒーローだぞ~」


「こら、あまりプレッシャーをかけないの」


「ダイジョーブです。勝ちますよ」


 二人の言葉を受けて、ましろは最終リングに向けてアーマーを脱ぎ捨てた。

 持っていた武器も弾がないから捨てて拳状態になった。

 一度、エリア外のダメージを受けて、最後のHP回復アイテムを使用。


「…………うん、多分、いける」


 その時、ビーーーッとエリア収縮の音が響いた。


『さぁ! 残り30秒間! ゆっくりとエリアが収縮して行きます。エリアには有毒ガスが置かれ始め、誰が先に飛び降りるかという状況。リングが狭まり──ベランダから一斉に飛び降り始めました!! 有毒ガスが起動し、頭上からミサイルが降り注ぎます!』


 ガスで見えないし、ミサイルのエフェクトで見えない。

 大会のカメラ係も俯瞰視点から何回かカメラを切り替え、最上階にいた転生まつぼっくりの視点に切り替えた。


「わぁ……何が起きてるのか分からない……ましろんはどうなったの……?」


 蒼央が緊張のあまりスティックバルーンを顔の前に構える。

 心音は口を抑え、カメラの切り替えタイミングでましろがしていた行動を理解して、目を大きく見開いた。

 

「これ……多分、ましろくんが勝ちます」


 と言った。

 それに驚く蒼央はスティックバルーンを傾け、大会の画面を見た。


『さぁ! ミサイルの雨が降り注ぎ、地面には有毒ガスが充満して乱戦状態!! 喧嘩上等卍、帰宅部が立て続けて全滅!! 暫定4位の転生まつぼっくりの銀杏が勝利を収め──いや、そこに上からましろが襲撃!!!』


『上からですか!? 1階にいたはずですが──』


『銀杏に近接攻撃を放ち、エリア外に押し出します! 思わぬ強襲にエイムが定まらない銀杏! さらに追撃! エリア外に殴り飛ばし──ダウン〜!! 優勝チームはラーメンよりうどん派ッ! 俺達が主人公だって言ってんだろう!!!! 今日はうどんの日だって言ってんだろう!!!!』


『え、これ、ましろ、1階にいましたよね!? なにをしたんですか!?』


『おそらくですが──』


「無敵状態で屋上に上がって、HPがギリギリまでエリア外にいて、屋上からの落下時間も込みで時間を稼いで、ノックバックがある近接攻撃で押し出した」


 解説が話す前に、心音は口にした。

 自分でもそんな作戦が成功するのかと疑問に思っている様子。

 だが、成功したのだ。彼は、やってのけたのだ。


「えっ……そんなことできるの?」


 蒼央の疑問に答える前に、心音は思わず家を飛び出した。

 ネットリテラシーの無さや行動の軽率さで怒られたというのに──行動が止められなかったのだ。

 ガチャッと扉を開けた時、そのタイミングで隣の扉も開いた。

 

「ましろくん……」


「お、おねえさん……ぼく……」


 涙目になっているましろ。

 焦って髪と呼吸が乱れている心音。

 二人の目が合う。

 心音は何も言わずに手を広げ、ましろは目を輝かせてその中に入った。

 

「最終試合お疲れ様!! ほんとうにすごかったよ!!」


「あ、ありがとうございます!」


 熱い抱擁を交わし、クルクルと回る二人。


「最後の立ち回りなんてほんっと完璧だった!!」


「もう、咄嗟というか! 時間を稼ぐためには何したらいいか考えて」


 毒ガスがあるから耐えるのは無理。

 ミサイルがあるからアーマーがないから耐えられない。

 だから、スキルの無敵時間を使って屋上に上り、リング外の時間と屋上から降りる時間を最大限使ったのだ。


「うんうん! 凄いよ! ほんとうにすごい! 最終結果はまだ分からないけど、凄い戦いで──」


「え、優勝しましたよ!!」


「え?」


「え!?」


「さっき最終試合が終わったばっかりで」


「1ポイント差で優勝して、それで感極まって出てきて……」


「アレ……? いま、最終試合終わったばっかりで、集計中……」


 二人は互いに不思議そうにしていると、蒼央がのそのそと出てきて一言。


「そりゃあ、大会だから遅延配信してるでしょうよ」


「「あ”っ……」」


 ましろも個人配信をしていたというのに、自分が遅延をつけて配信をしていたことを忘れていたようだ。

 そして、マイクを切り忘れて飛び出したこともあり、ましろの配信には「しゃああああああ!!」と言って急いで扉を開けて、通路で心音と話しているのがバッチリ配信に映る結果となった。

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