22 大会開始!!!!


 大会当日の朝。


「とりあえず、急ごしらえだけど……練習期間の大会成績をまとめたよ」


 夜に蒼央さんと熱中して話しすぎて、めちゃめちゃ眠い。

 でも、これだけは共有しておかないと。ハカセさんにも協力してもらったし。

 完成したスライドを参考に三人には調整をしてもらい、本番に臨んでもらおう。


「これがマップごとの戦闘した場所のポイントです。キョージュさん、お願いします」


『はい。スクリム初日のファイトは正直に言って、どこで戦ってんだ状態。今のみんななら、この場所で戦うことがどれだけ怖いか分かってくれてると思う──』

 

 事前に打ち合わせをした通り、キョージュさんから丁寧に解説をしてもらう。

 ここで戦って、どんな負け方をしたのか。その負けた理由はなんなのか。

 漁夫で負けたのか、撃ち合いで負けたのか。アイテムがなくて削られたのか。

 端折れるところは端折って解説をしていき、ここ最近の成績と見比べる。


『次に対戦相手の予測をお姉さんから』


「わかりました。まず警戒すべきはこの他ゲーのプロ、元プロがいるチームなんだけど、特に注意もらいたいのは──」


 ボクの方では主に動きや他チームの注意点を話して、スライドが終了。

 あまり長くなってもみんな飽きちゃうだろうし。


「このスライドはいつでも見返せれるように、このチャンネルに送るね」


『まさか、ここまでしてくれるとは思ってなかったです……』


『いや、ほんと……ありがとうございます』


『リスナーとのスクリムとか、ほかチームの分析もあったし、ちゃんと寝てます……?』


『コレ作ったの、ほとんどお姉さんだから。三人とも感謝してよ~』


「キョージュさんが協力してくれたおかげです」


『いや、私はコメント書いていっただけ。まとめたのはお姉さんだよ』


『ありがとうございます!!』


 口がもごもごする。褒められるの慣れてないから……。


「配信の切り忘れで迷惑かけたから、その挽回もできるかと思って……頑張った」

 

 照れ隠しをするように深呼吸をした。精神をリセットだ。はぁ、ふぅ。


「でも、ボクやキョージュにできるのはここまでだから。後はみんなに頑張ってもらうことになる。頑張ってね」


 今日の本番はキョージュさんが帰省から戻ってくるタイミングと被っているらしい。

 本当なら本番中もその都度コーチングをした方が良いのだが、こればかりは仕方がない。


『ここまでしてくれたんだ、本番も余裕で勝ちますよ~』


『一旦、本番前にリスナーさんを集めてカスタムするのも良いかもね』


 ファイルの内容を確認しながらプレイしたいし、とモココさん。


『たしかにそうするか。じゃあ、配信を始めるとするかな』


『じゃあ、配信始めます! キョージュさんはお気をつけて!』


『あいよ~。大会頑張ってね~、配信は見てるからさ』


『はいっ! お姉さんも! 応援をお願いしますね!』


『隣の家なんだろ? 来てもらったらいいじゃねぇか』


『そーだぞ〜。お姉さん、ましろくんのリスナーに人気だし』


「いやぁ……推しとは距離を保ちたいというか、申し訳ないというか。新参者のボクがそんな良い思いをするなんて」


『……来ても良いんですよ? 鍵は開けてますので』


 この子はすーぐそんなことを言う。

 セカイさんとモココさんが「ひゅ〜」と言ってきた。

 そういうのに慣れてないんだって。


「一緒に住んでる人が、大会のためにスティックバルーン用意してくれたので。まぁ、気が向けばね」


『スティックバルーンってマジすか!!!!』


 ドッと爆笑をかっさらった。さすが蒼央さん。

 サッカーとか野球の応援でしか見たことがないよ、スティックバルーン。

 




 

 そして、数時間が経ち、大会本番。

 実況の人にチームが紹介されていく。


『チーム、ラーメンよりうどん派は練習期間中に色々とありましたが、その後に調子を伸ばしてきているチームです』


『かなり安定して順位のポイントを伸ばして、最終日の練習試合では5位という成績。ですが、未だに練習試合を通してまだ1位を取れていないとのこと。徐々にミスを減らしてきていますので、本日はその成果を出してくれることでしょう!』


『そして、ラーメンよりうどん派の一言コメントは……なるほど、『今日の主人公はぼくたちだ』とのことです! 頂の景色を今日、見ることができるのか、注目です──』


「多分、あのコメントはセカイさんが考えたな」


 ましろくんも目立ちたがり屋な所があるけど、このちょっと生意気な感じはセカイさんだろう。というか、絶対そうだ。

 今は、蒼央さんの家のテレビに配信を映して、居間で観戦中。もちろん手にはスティックバルーンを持っている。このマンションは壁が厚いから存分に叩ける。


「さすが盛り上げ上手だね~。元プロもいる大会なんでしょ?」


「ですね。ゲーミングお寿司とか、喧嘩上等卍とか……特に、ゲーミングお寿司は頭が1つ抜きん出てますね」


 カジュアル大会だから、海外の有名配信者とかも参戦してるし。

 現役プロ以外だったらなんでも良しのお祭り騒ぎだ。他ゲーのプロもいる。

 そんな中で、ましろくんのチームはプロもいなければ、ほぼ初心者が二人。

 チームバランスとは。


「でも、ましろん達のほうが強いし! いっぱい練習してきた! ね、コーチ!」


「うん。ボクも勝てるチームだって思ってます」

 

 練習はしてきた。

 1位はとれなくても、ミスは減ってきた。

 リスナーを交えての練習も調子は良かったから、後は本番でどうなるか。


『それでは、第1試合──開始です!』


 公式チャンネルの実況が開始を宣言。大会が始まった。


『最終リングにまで残ったラーメンよりうどん派でしたが、ここで残っていたモココが脱落してしまいます! ですが、キルポイントもあり、3位という結果は悪くない滑り出しだと言えるでしょう!』


 よし、初戦3位は好調だ! いいぞ! めっちゃいい……!!

 スティックバルーンの音が部屋中に響き渡った。蒼央さんも興奮している。

 勇んだましろくんとセカイさんを失って、最後のエリアまで必死に耐え抜いたの偉すぎる……!


『最後の混戦、どのチームが勝利を収めるか! あーっと、やはり最終リングはこのキャラが強い。狭まったエリアに毒ガス放出、生身の英雄たちは呼吸ができずにダウンダウンダウン──ッ! らーめんよりうどん派、ゲーミングお寿司の高順位チームを抑えてチャンピョンを取ったのは喧嘩上等卍!!』

 

「うおおおおお!」


「これ、どっち!? どっち!!? 二位!? 三位!?」


『二戦目の結果は、三位がゲーミングお寿司、二位がらーめんよりうどん派、一位が喧嘩上等卍でした。セカイが一度エリア外に出て、回復を巻きながら中に入ったんですよね。こういう咄嗟に機転が利いたプレイを出せるのは、やっぱりゲームセンスですよね』


「セカイさん……ゲーム上手いなぁ」


「正直、私はあまり好きなタイプじゃなかったけど、推しになりそう」


「蒼央さんってああいう毒があるタイプ好きじゃなさそうですもんね」


「スカしてる感じがね。でも、大会練習を本気でするようになって好きになった」


 そして、次の試合からはマップが変更される。

 そう、問題なのはこの新マップだ。


『さぁ、第三試合目からは新マップ:アビスにマップ変更です。ちなみに、このマップの大会は全世界を見てもこの大会が初出しと。なので、かなりの波乱が予想されます。そんな第三試合が、今、スタートされました』


 この大会自体、シーズンが変わって『新マップが追加されたから、ゲームを盛り上げて欲しい』という運営の意図がある大会になってる。

 そして、追加されたばかりということは、プロが研究できていないことになる。

 だから、コーチング期間が短く、マップ研究の時間が取れていないラーメンよりうどん派が勝つのは難しい。

 ……と思っていたのだが、


『順調も順調! 最終リングの移動で壊滅してしまいましたが、キルポイントも最大まで取り切って5位に終わったのはラーメンよりうどん派! リング予想はモココが担当していると話をしていましたが、新マップでもしっかりと予想できていますね』


「モココさんがすごく活躍してるねぇ……素人目からしても分かる」


 キョージュさんと知り合いで、実はめちゃめちゃゲームIQが高いらしい。

 でも、配信活動を始めて何か一つのゲームを腰を据えてやるというのが無くなって、『誘えば、なんでも卒なく熟してくれる人』という認識になってしまったのだと。

 そんな人が本気になれば、こんなにも化けるのか。


『第四試合はリングに嫌われてしまい、大外からのエリア移動でしたが、セカイとましろのファイト力で強引にエリア取りに成功。ですが、その健闘もここまで! 10位でチームが壊滅しました』


 10位ということは順位ポイントが低い。だけど、キルポイントも拾えてる。


「いま、総合順位ってどれくらいです……?」


「えーと、公式HPに……まだ更新はされてないけど、2位にいるっぽいよ!」


「ってことは……今回が10位だから……3位か4位くらいか」


 まだ優勝圏内ではある。5位以上が団子状態だから、まだある。

 そして、四試合目が終了した時点での順位が発表された。


 1位:ゲーミングお寿司

 2位:喧嘩上等卍

 3位:ラーメンよりうどん派

 4位:転生まつぼっくり

 5位:さめさめ水族館

 ……。

 ラーメンよりうどん派以外のチームは別ゲーのプロがいたり、元プロで現在配信者の人がいたり、海外の大手配信者が入ってたりする。

 そんな中にましろくん達がいるの素直に凄い。本当に凄い。


『それでは、運命の最終試合……スタートです』


 重々しく実況者が最終試合の開始を宣言。

 大型の飛行機からキャラクター達がそれぞれに降下していく。

 中心地からかなり離れた場所にましろくん達のチームは降りるのだが──そこに、別チームの影が見えた。


『あーっと! ここで、現在3位の『ラーメンよりうどん派』! 初動から1位の『ゲーミングお寿司』に被せられた!! 大波乱です!!』


「ひっ……まじっ……?」


 いきなり、優勝候補大本命が競合相手を潰しにかかってきた。

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