21 無自覚系主人公と言われた


「みおっとく~ん! 頑張ってるねッ!」


「蒼央さん~……」


 寝ずに作業をしていると、部屋をガラララッと開けて蒼央さんが登場。

 いつも深夜まで作業をしている蒼央さんがここに来たってことは……。


「もう3時だぞ~? 子どもは寝る時間さ。ま、無理強いはしないがね」


 パソコンを覗き込んできたのでちょっと体勢をズラした。


「噂のコーチのヤツかい?」


「です。チームの成績をまとめてるんです」


「もしかして、練習期間のヤツを全部かい?」


「リスナーさんとの練習試合とか、要注意な対戦相手の戦績とか」


「うおお~、めちゃめちゃ大変そう。すごいね……」


「慣れてる作業なので。それに、これくらいでしか役に立てないですし」


 キョージュさんもリアルタイムで編集してくれてる模様。

 通話はしていないけど、着々とまとめてくれてるようだ。心強い。


「またまたご謙遜を。昔にやってた時は強かったの? あ、ちょっとまってね」


 長話になりそうだから、と、クッション持ってきていた。

 それにズボッと身体を埋めて、話の続きをどうぞ、と促された。


「別に強くはなかったとは思います。人並みかな……頑張ってはいたんですけど。ゲームして生きていけたらいいなぁって思ってましたし」


 この世代の子なら誰しも考える「夢は大物配信者!」「会社で働かなくても良い人生!」というヤツだ。


「配信とか動画とか残ってないのかい!? 気になる!」


「ありますけど、見返す用のヤツですし、声も入ってないですよ?」


「配信で声出してないの……?」


 すごい不思議そうな顔をされた。


「自分の声嫌いなので。あと、マイクって地味に高いんですよね。当たり外れあるらしいですし、一緒にやるフレンドもいないですし……」


 喋ってて辛くなってきた。

 ずっとソロでゲームするのも飽きてくるし、早い時期から受験がどうのこうのって言われて、高校2年に上がる前くらいには辞めちゃったんだよな。

 まぁ、1年以内に芽が出ないんだったら諦めようって気持ちでプレイしてたから後悔はないけどサ。


「なんて名前? 検索します。あ、ちょっと待って」


 じゃーん、とタブレットを広げてスタンバイ完了のサイン。


「小文字のmioで、アンダーバーの後に小文字のxです」


「心音くんのミオとアンダーバーxっと……前半はわかるけど、最後のxは若気の至り?」

 

 ニヤニヤ顔で聞かれたので、頬をぽりぽりと掻いた。図星である。


「一応、みおとのトを10にして、ギリシャ文字でXが10だから……とか、めちゃめちゃ考えたんですよ。mio_xにするとo_x右の方が人の顔っぽくなるし、オシャレかなぁって……」


 mioto、mio10、とか他にも候補あったけど、当時の自分の中では『mio_x』がベストオブベストだった。


「いいねぇ~。別に良い名前だと思うけどね。あとxとかzとか付けてる人多いよね?」


「昔の流行りです。別ゲーのですけど」


 本当に昔の流行りの話だ。というか、流行り抜きにxyz辺りのカッコ良さは男の子なら分かってくれるだろうと信じてる。

 蒼央さんはボクのチャンネルを見つけたらしく、クッションでくつろぎながら配信を見始めた。

 ボクも作業にとりかかろう。

 明日が本番だから……寝る前までには完成させたい。間に合うかなぁ。






 心音くんに教えてもらったチャンネルを検索すると出てきた。

 

(コレか……って、ン? フラグムービーってのもあるのか)


 いや、でもコレ心音くんのチャンネルじゃない人が上げてる。

 んんん……? どういう……知り合い? どういうご関係?

 あ、依頼して作ってもらった……とか? いや、そういう訳でもなさそう。


(心音くんのチャンネル登録者数は240人……マイクなしで配信回数もそんなに多くない……というか、6ヶ月くらいしか配信してないし)


 サムネイルも作ってない。これでなんで240人もいるんだ?

 配信の閲覧数も1000を越えてるのもある。


「って、強くない……? 平気で1vs3をひっくり返してるんだけど」


「運が良いとそういうこともできましたね。でも、毎回じゃないですよ」


「ふぅーん……?」


 作業をしながら答える心音くんの背中を見つめる。

 それなりに頑張ったって言ってたし、まあ、そういうこともある……のか?


「…………んん」


 いや、強いな?

 私もそれなりに配信者のプレイを見てきたけど……。

 

「心音くん、強いよ!! これっ!! ゲーム上手いじゃん!!」


「ボクより強い人なんてたくさんいますよ~。普通に優勝できない時もありますし」


「そりゃあそうかもしれないけどさあ〜」


「あと、あれですね。みんなゲームに慣れてない時期っていうのもあったと思います。ボクは別ゲーを元々やってましたし」


 そう言われたので、最後の配信を見てみることにした。


(……うんん……)


 普通に敵は倒しているし、チャンピョンにもなってる。コメントを見ると、連勝記録こんなに多い人いるんだ、みたいなコメントもある。

 

「……みおとくんさ、無自覚系主人公の真似してる……?」


 ゆっくりと振り返った心音くんに変な目で見られた。


「なんでそんな……。え、そんな感じに聞こえました?」


「オレはただゲームをしていただけだか? って聞こえた」


「わぁ……マジですか……」


 そういうつもりは無かったらしく、頭を抱えている。その後、ちょっとまってて下さいね、と言われて数分。


「完成したぁぁぁ……!」


 と、心音くんは後ろに倒れてきた。どうやらファイルが完成したようだ。


「お疲れ様~。えーい、ばんざーい!」


「ばんざーい?」


 両手を上げてくれたので、引っ張って私のクッションに連れてきた。

 心音くんにタブレットを預け、一緒に見れる体勢に。


「プレイ動画の解説求む。ほら、こことか上手くない?」


「ん〜……? ここは敵が甘えた動きをしてるからですね。こっちは1人だから3人で来たら勝てるのに。あと、戦ったらダメな場所ですね、ココ」


「まぁ、戦いにくそうな場所だとは思う」


「ましろくんにも伝えてるんですけど、戦える場所とそうじゃない場所ってあるんです。ボクはそれを勝率別に分けて考えてて」おっと、もうなんか凄いことを言い出したぞ。「そこに敵を誘導したり、激戦区の中でも戦いやすい場所で戦うようにしてます」


 そういうのをさらっと言う辺り、本人は本当に「当たり前でしょ」って思ってるんだろうなぁ。

 心音くんは猫のような子だと思ってたけど、あれだ、これは……えーと、猫が急に虫を仕留めてきて「あ、野生の本能あったんだ」ってなる時みたいな感じ。

 いつも眠そうな心音くんの意外な一面に驚いている。


「ボクはエイムが上手くないので、突撃して勝てるようなプレイができなくて…………って、あんまりこういう話って面白くないですよね?」


「いや? いいや!? 面白いけど!?」


「そ、そうですか……?」


「心音くんの話聞くの好きだからね、私!」


 そこから、心音くんの配信動画を見ながらの解説してもらった。

 途中でむにゃむにゃ言い出したから、敷布団に連れて行って寝かしつけた。


(あんなにキラキラした目をした心音くん初めて見た)


 なんだか、嬉しい。

 好きなことを話すときこそ、人は一番輝くのだ。


(さて、と)


 自室に戻って、誰かが作ったmio_xのフラグムービーを眺める。

 このチャンネルの持ち主は、ゲームのプロや有名配信者のプレイを切り取って、フラグムービーにしているらしい。直近だと、ましろくん達の大会練習の良いプレイ集なんかも作ってる。そのチャンネル主が2年前に作った動画がこれ。

 おそらく、心音くんはこんな動画が作られてることなんて知らないだろう。

 再生回数2.8万。他の動画と比べて少なめのその動画の冒頭には──『黎明期の暴君』という文字が出てきた。

 心音くんが暴君……ふふっ。


「……心音くんさぁ……こんな面白い話をどうして黙ってたのよ」


 素性のわからない野良で強いプレイヤー。

 そして、知る人ぞ知る、という立ち位置にいる。

 

(やっぱり、あの計画を実行するべきか……うん、そうだな)


 動画を流しながらチャットを立ち上げて、とある人物にチャットを打ち込む。


『しらはま)例の件について、またご都合良いときに通話お願いします』


 朝5時だけど、個人事業主には時間なんて関係ないのである。

 

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