20 なんでボクもコーチすることになったのか



「はじめまして~。えーと、お姉さんです~」


『わあ、まさかリアルお姉さんと出会えるなんて……』


『切り抜きで聞いた声とまんまだ。実在したんだ……』


「アハハ……ぼくからしたら、お二方の方こそ実在したんだって感じです……」


 イヤホンを片耳渡されると、モココさんとセカイさんの声が聞こえた。

 

「いろいろと変なこと言っちゃってすみません。部外者なのに……」


『部外者もなにも、ましろくんの大切なお姉さんなんだし』


 どんな説明をしたんだか……まぁ良いけど。


『それで今日来てもらったのは、コーチの紹介をしたくて』


「はい、なんとなく聞いてます」


 これだな、ましろくんが言っていたヤツ。

 モココさんの知人で頼める人がいたって話を通話前に聞いていた。

 プロでもなく、配信者でもない、上手い野良プレイヤー。ランク1桁って言ってたから、よほど強い人なんだろう。


「モココさんのお知り合いで強い方なんですよね?」


『そうです!』


 さすが大手配信者。人脈が広い。

 プロと言えども、コーチングできる人とそうじゃない人がいる。

 もちろん、一般のプレイヤーよりは詳しいだろうけど、このカジュアル大会の裏で世界大会の予選もあるみたいだし。スケジュール的に厳しいという人も多い。

 モココさんの人脈に助けられたな、ありがたい。


『それで、そのコーチと一緒にコーチングしてもらえたらと思って』


 おっと……? 雲行きが怪しくなってきたぞ。


「なんでボクも一緒に?」


『私がコーチするの始めてですので、一緒に見てもらいたいんです』


 この声……聞いたことない。女性の方だ。


「えーっと……? 新コーチさん、です?」

 

『はい! キョージュって言います。お姉さん、よろしくお願いします』


「よろしくおねがいします……」


 って、そうじゃなく。


「コーチングって何したら。ボクもやったことなくて……」


『私らのプレイで気になることとかあったら、それを素直に言ってもらうだけで良いです!』


『だそうです。あまり気負わずにやっていきましょ〜』


『じゃあ、そろそろ俺達も配信を始めますので、お姉さんもこのチャンネルに招待して。あ、声出しオーケーですよね?』


「もう出ちゃってますので……大丈夫ですケド」


『私も良いですよ~。変なこと言ったらすみません』


『コーチの紹介はするのが決まりで、何回か話してもらうことになると思いますが、お願いします』


 気がつけばボクもコーチングをする流れになった。

 スクリム前に「コーチを召喚しました~」という流れで、ボクらは紹介された。

 絶対「今更、コーチ? しかも素人ってw」って言われてる。

 あー、コメント欄は見ないようにしよ。

 




 そこから、ボクとキョージュさんの二人でコーチングを頑張った。

 マップごとの有利ポジ、そこに行くまでのルート。

 GW最終日の前日が大会。残された時間は3日。

 限られた時間でどこまで頑張れるか。


『移動はモココが上手い。プロシーン見てるでしょ』


『前々からね。たまに同時視聴もしてるぜ』


『セカイさんはエイムが良いし、戦いやすい場所だったら相手にちゃんと勝てる』


『銃を撃つのは好きですので。ただ、ゲーム性が絡んできたら難しいッス』


『ましろくんはやっぱり上手いけど、個人技に特化してるかな』


『ソロでいつもやってるので……』


『エリア移動はモココさんが主導で、ファイトを組み立てるのはましろくんだけど、ファイトを仕掛けるかどうかはセカイさんが考えよう。コミュニケーションをしっかりと取って行こう。チームでもっとゲームしていこう』


『はいっ!』


『あと、これはお姉さんからだけど、回復アイテムを使える距離で戦うことを意識してほしい。アイテムを持ってるのに使ってない場面が多い。もちろん、勢いで倒すってのは大事だけど、そうじゃない場面も近すぎ、体を晒しすぎ。回復アイテムを使う時の声掛けもない。前に行く時、前に行けない時、回復アイテムを使う時、ちょっとでも怖いと思った時、この4つをとりあえず意識して声を出していこう』


『はいっ!!』


 これ、ボクいるのかなあ、とノートパソコンの前で頬杖を突きながら思う。

 観戦中にキョージュさんと色々と話してたけど、ゲーム理解度がかなり高い。

 上手い人ってそんなに考えてるんだな。あと、ボクの話もちゃんと混ぜてくれてるから、ほんとうに喋ることがない。


(でも、せっかく誘ってもらったんだし……なにか役に立てるものは……)


 あ、そうだ。アレはどうだろうか。


「キョージュさん、ちょっと時間あります?」


『なんです?』


 キョージュさんに個別にコンタクトを取って、ファイルを共有した。


『これは?』


「今までのスクリムのキルポイントとダウンした場所、全滅した場所をまとめたヤツです。URLと秒数も書いてます」


『え、うわ、すごい。よくまとめましたね、コレ』


「昔に自分がしてたやり方なので、ちょっと雑な部分が多いんですが……こういうのって役に立ちます?」


 勝った理由や負けた理由をまとめたもの。チームの勝ち方や負けない戦い方を考えていくのに役に立つかもしれないからと。


『……』


 って、キョージュさん喋らなくなった。


「えーと……必要ないですかね……こういうのって」


 おそるおそる聞いてみる。


『……最初はさ、知り合いの頼みならやるか~って気持ちだったんだけど。お姉さんがこんなに頑張るなら、私ももっと頑張ろうかな』


「え、頑張るだなんて……ボクのこれは別に……」


 ただ、見返した時に分かりやすいようにしてるだけ。学校でいうと練習ノートとか、復習帳みたいなものなんだけど。


『お姉さん、このゲーム上手いよね。隠してるかもしれないけど』


 ……なんかすごい勘違いされてる。


『ましろくんから聞いたけど、ゲームやってたんでしょ? それにこういうのって上手い人がするヤツですよ』

 

「リリース初期にやってただけです。ランクが実装される前だったので、ほんとうに初期の初期」


『最古参じゃないですか! じゃあ、ハートのバッチ持ってます?』


「持ってた気がします」


『おお〜! 一緒だ。私も持ってるんですよ』


 ってことは、マッチしたことがあるのかな?

 当時はまだ人気に火がついてなかったし、マッチする人も限られてたからなあ。


「あとはー……なんだっけ。エリートマッチ? かなんかやってた気が」


『ランクマッチの前のヤツですね。私もやってましたよ』


「そうなんです? 連勝したら数字が着くんですけど、ソロで頑張ったなぁ……」


『懐かしい〜……じゃなくて! お姉さんの実力の話を』


「強くないですって。現にプロでもないし、配信者でもないんですから」


 強い弱い抜きにして、今のボクはゲームをしていない。そんなに強いんだったら、まだゲームを続けてるだろう。


『そー……ですかね〜? 私はまだ疑ってますケド』


「それよりも、ファイルの作成お願いしてもいいですか?」


『おっけー。こっちでもコメント付けてくよ』


 その後、思い出話に小さな花を咲かせながら、キョージュさんと一緒にファイルを作っていった。

 対戦相手の情報とかもまとめたいから……時間足りるかなぁ。大学の課題終わらせてて良かったぁ。

 


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