19 私はNTR否定派だからな



『詳しく聞かせてもらおうじゃないか~、ましろくーん?』


『そうだぞ。なんだよ、あの配信さ~』


「ううう……」


 後日の練習カスタムの前、チームメンバーから呼び出しを受けた。

 昨日の配信の切り忘れの件で、大会の運営者からもメッセージが飛んできたし、チームメンバーの二人からもメッセージが飛んできてた。


『あのお姉さんっていうのは誰なの?』


「マンションの隣の部屋の人で……配信してることは伝えてます」


『リア凸ってこと……? 大丈夫?』


「いや、そういうのじゃないです! 前々から仲良くしようとしてた人で……」


『好きなんだ、お姉さんのこと』


「ううう……。嫌いでは、ないです。けど、そういうのじゃないです!」


『あついねえ~。で、そのお姉さんに大会のことを相談したわけだ』


『実際、勝ててないしな~。オレもコーチングしてもらった方が良いって言われてるし』


『まぁ、今からコーチングをしてもらうのは遅いもんね。コーチにも迷惑がかかるだろうし』


 せっかくコーチングするなら勝った方が知名度も上がる。

 それに、現状のぼくらをコーチングしたがる人なんかいないだろう。


『練習にあまり参加できない俺らが悪いんだがな』


『そうね。だから、ましろくんに負担をかけたわけだし』


 ぼく、かっこわるいなあ。

 先輩に迷惑をかけて、配信切り忘れて、炎上して。

 

『で、今後はどうする予定なんだ?』


『そうね、プランを聞かせてほしいかな』


「……炎上して、ご迷惑をおかけしたので……。でも、大会は出たくて」


 大会を辞退をするのは簡単。でも、辞退をするともっと迷惑をかける。

 でも、あんな恥ずかしい配信をしたヤツが……出てもいいものか。


「大会が終わったら……配信を休止しようかと──」


『違う違う、そういう話じゃない!』


『というか、あんなの炎上じゃない! 黒歴史でもない!』


「……え?」


『そうそう! むしろ良かったと思うよ』


『いい機会だったよな。それに、あの配信で、オレらのチームの注目度は上がった』


 チーム名『#ラーメンよりうどん派WIN』の投稿があの件以降増えた。

 でも、冷やかしというか、悪い意味で増えたのかと思って見てなかった。


『あれだけ熱心に勝ちたいって言うんだから、俺達ももっと頑張ろうと思ってさ。予約切り上げてきたんだわ』


「えっ。大丈夫なんです……?」


『ダイジョーブショブ。案件じゃないし』


『わたしもマネージャーさんにスケジュールの調整をお願いした。最初は楽しめたら良いかなと思ったんだけど』


『勝とうぜ、大会に』


 先輩たちに言われて、底に落ちていた気持ちが引っ張り上げられた。


「はい……! 勝ちます! 勝ちたいです!」


 相談して良かった! 

 ありがとう、お姉さん。



 


「反省してくださいね、心音くん」


「はい。すみませんでした……」


 椅子の上に立つ蒼央さんの前に、正座しているボク。

 怒られている理由は「行動の軽率さ」だ。

 反省の証拠として、指定されたOLの衣装を着ている。今まで避けてきたストッキングを履くタイプの服装だ。


「そうだね。今回はたまたま変な方向にいかなかっただけで、配信の切り忘れっていうのはほんとうに危ないんだよ」


「……すみません」


「心音君がお姉さんだと思われてなかったら、男性問題に発展をしてたかもしれない。ましろくんは声が高くて男性のふりをしている『女性』だとリスナーに思われてる。女性の配信者に少しでも男の影があったら、それだけで炎上するし、引退に追い込まれるんだ」


 実際、男性絡みで女性VTuberが炎上して引退したケースがいくつもある。

 引退していないケースを含めたらもっと多い。

 そういうのを分かっていたつもりだったのに。


「偶然と偶然が重なってたまたまうまくいっただけ。今後は気をつけるように」


「はい」


「反省した?」


「……はい」


「じゃあ、そんな心音くんにこれを渡そう」


 椅子に立ってた蒼央さんが、バランスを保ちながら茶封筒を渡してきた。


「これは……?」


「フッフッフ……初給料さ!」

 

「はつきゅうりょうさ……!!」


 おもわず言葉覚えたての子どものような発音で復唱をした。


「好きなように使い給えよ? まぁ、月の途中からだから、そこまで多くはないけど……本当はもっと渡したいけど……」


「ありがとうございます! 大切に使います!」


「うむ。これからも励んでくれ! あと、今回みたいな面白そうな話があるなら私にも教えてくれ! 自分だけ楽しむなんてズルいぞ!」


 椅子から降りていつものように笑う蒼央さん。


「でも、……ましろくんから嫌われるというか、この一件で距離を置かれると思うんですが」


「そうかい? 私はむしろ逆だと思うけどな」


「え?」


 ──ピンポーン。


「……宅配でも頼みました?」


「いいや?」


「となると、部屋の間違えとかか……」


 玄関先まで行って、ドアスコープで覗いても姿見えない。


「ピンポンダッシュか……?」


 そう思って、扉を開けると、


「お姉さん! いま、お時間ありますか!」


「わあっ!? あれ、ましろくん……?」


 下からニョキッとましろくんが現れた。

 なんだか、すごくテンションが高い気がするけど。きのせい……?

 

「連絡したんですが、気づいてもらえなかったので直接来ちゃいました! それで、あの、ぼくの家に来ていただきたいんですが! 大丈夫ですカッ……」


「……どうしたの?」


 ましろくんの顔が固まったから目の前で手をフリフリとすると、背中にむにゅとなにかが当たる感触。


「やほ~。お隣の~。引っ越し以来かな~?」


「わ、わっ、あっ……ごぶさたしてます……」


「うちの心音がお世話になってます。ましろくん? だっけ?」


「あ、え、あっ、どうも……」


「これからもよろしくね?」


 大人な姿の蒼央さん。刺激が強い。ほら、ましろくんの顔が真っ赤じゃないか。


「それで、どうしたの?」


「今回のスクリムの前にみんなが時間があるみたいで、お姉さんと話してみたいっていってて。あと、コーチをお願いできる人がいて、その人ともあってほしいし、だから、その、忙しくなかったら……」


 ちら、と蒼央さんを見ると、グーと親指を立ててくれた。


「いいみたい。いこっか」


「やった! じ、じゃあ、ぼくの部屋で──」


 そういうと、ぼくの手を引っ張ってきたので靴を履き替える。

 ぺこりと蒼央さんに手を振ると、驚いた顔をしていた。

 なんであんな顔をしていたんだろう。





 ましろくんがきたので、私は後方腕組みおじさんをしていた。

 おそらく、ましろくんは心音くんの事を気になっているハズ。

 気持ちは分かる。大いに分かるぞ、少年。心音くんは可愛いし、気遣われた時なんてこの子から私は生まれてきたんじゃないかって夢想するほどだ。

 だが、心音くんは私と関係を結んでいるのだ。

 だから、釘を刺すように登場をしてやったのだが──


「!?」


 扉が閉まる寸前、ましろくんは優越感に浸った顔を私に向けてきた。

 まるで、姉の彼氏を奪う妹のような表情で!!! 


「…………やりおる……いい顔をするじゃあないか」


 リアルBLは論外かと思ってたが……いけるな。

 やっぱり、心音くんは最高だ。新しい刺激ばっかりくれる。


「やっぱり、男同士の友情って良いよな。刺さる」


 今度、心音くんに猫耳メイド服を着させるから、その状態でましろくんのお家に突撃させよう。


「ふふ、私はNTR否定派だからな。私の心音くんに手を出したバツだ」


 あの年頃の男の子は性癖が捻じ曲げやすいからな。

 そして、あの可愛らしいましろくんにも同じ服を着せてやりたい。

 

 

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