17 ぼくと友達になってください!



 もねにご飯を作ったら「GW中のご飯担当大臣に任命する!」って言われたから、大学の図書館に逃げ込み、寝る時だけ家に帰ることにした。


「やっと課題が終わったぁ……」


 空気美味しい。曇りだからちょっとじめっとしてるけど。

 にしても、大学をスーツでウロウロする人ってなんなんだろう。就活中?

 4月や5月から動くのか、高校の時とは違うんだなあ。

 

 とりあえず課題は終わったし、家に帰るのは……面倒だな。


「よし、蒼央さんのお家にいくか」


 妹には適当にメッセージを送っておいて、と。


『心音)あおさん、お疲れ様です。お家お邪魔していいですか?』

『しらはま)リフレッシュ中なのに?』

『心音)やることなくなったので』

『しらはま)でも、私外に出てるよ? それでも良い?』

『心音)はい。キッチン使ってもいいですか?』

『しらはま)分かった! 好きに使ってね!』


 よし、避難場所は見つけたし、行くか。

 エントランスを抜けて、GWだから人がほとんどいないなぁ、とか思いつつ四階まで上がる。


「そういえば、ましろくん……元気にしてるのかな」


 結局、連絡なかったもんな。配信は課題の休憩中に見てたけど。

 大会練習で忙しそうなんだよなあ。あまり上手く行ってないみたいだし。

 チャンネルを確認。配信中らしい。GW中はずっとやるって言ってたもんな。

 ついでにご飯を作って、様子でも伺いにいこう。


「メッセージ、おくっておいて……」


『心音)ましろくん、お疲れ様。ご飯いる? それとも頼んじゃった?』


 これでよし、と。

 料理を作り終える頃にはメッセージの返信が来てるだろう。

 

 



「返信が来ない……」出来た料理を見ながら腕を組む「冷めちゃう」


 どうしたものか。


「……インターホンくらいなら許されるかな……」


 料理を片手に持って、インターホンを押しても反応なし。

 うむ。本当にどうしたもんか。


「って、扉空いてるし……なんで?」

 

 試しにレバーハンドルドアノブを下げると、扉が空いていた。

 コレ、不法侵入になる……? いや、知り合いだし。うーん。


「おじゃましまあーす……?」


 部屋くっら。カーテンも締め切ってるし。となると……配信部屋か。

 そろっと覗いてみると、椅子に座ってるましろくんの姿が見えた。

 でも、動いてない? 

 部屋を明るくしても反応なし。

 疑問に思って近づくと、椅子に座ったまま寝てるのが分かった。


「おーい。寝るならベッドにいかなきゃだよ~?」


「ん。んぅ……あ、お姉さん……あれ、なんで?」


「メッセージ送ってたよ? いつから寝てたの……?」


「あれ……寝てた……んだ、ぼく……。最近、寝れてなかったから……かなあ」


「目の下のクマ、この前来た時よりひどくなってるじゃん……」


 モニターの明るさしかないから尚更すごく見える。

 顔色も良くない……、頑張りすぎだ。


「大会の練習、たくさんしてて……でも……」


「うん」


「ぼく、どうしても勝ちたくて……」


 声が震え、唇を噛み締めていた。


「……大会あまりうまく行ってないの?」


 ボクの言葉を聞くと、瞳に涙が滲むのが見えた。

 答えは知ってる。あまり、上手く行ってない。

 順位はあまり高くない。連携も思うように取れない。

 雰囲気はだましだましで『良い』と見せかけてる。


「ぼくが弱くて、それでチームメンバーにも迷惑をかけてるんです。コメントのみんなもそう言ってて。だから、頑張らないといけないのに」


 ……この子は素直すぎる。


 まだ、この子は高校生だ。

 これがネットでなければ、頑張ってる子に労いの言葉をかける大人は多いだろう。

 だが、液晶画面を挟めば、それが変わる。変わってしまう。

 年齢なんてどうでもいい、知ったこっちゃない。


(それに、VTuberっていうのも拍車をかけてる)


 顔も年齢も性別ですら隠して活動ができるのがVTuberの利点だ。

 液晶を挟んでいる上に顔も見えない。『言っても良いライン』が下がる。

 だから、配信活動をするなら『メンタル』や『受け流す力』が必要だ。

 でも、素直なましろくんはソレを真に受けてしまう。


「頑張ろうと思ったら、全部から回って。このままじゃ、勝てない。みんな頑張ってるのに。ぼくが誘ったのに……みんな、時間がない中……頑張ってくれてるのに……」


 肩を震わせ、ましろくんは泣いた。

 ボクみたいな奴に感情を吐き出すほど、思い詰めている。

 ましろくんの頭を撫でた。


「ましろくんは、頑張りすぎなんだよ」


「……つよくない、から……もっと頑張らないといけないんです」


「ましろくん」


 涙で顔がぐちゃぐちゃなましろくんの肩を掴んだ。


「一人で背負い過ぎだ」


 きれいな目にボクの顔が写った。

 期待とちょっとの恐怖。心配。いろんな感情が渦巻いているのがわかる。


「周りの人をもっと頼ろうよ」


「でも、セカイさんとモココさんは忙しいから……その分、ぼくが頑張らないと」


 苦しそうに話すましろくんの肩から手を離し、俯く顔を覗き込んだ。

 この状況を打開できるほどの何かを言える自信はない。

 それでも、やっぱり。


「ボクは、ましろくんが勝って喜ぶ姿が見たい」


「……!!」


「だから、勝ちたいんですって二人に言お? 三人で戦うゲームなんだし、今のままだとましろくんだけがしんどいだけだよ」


「……忙しいのに、そんな無理を言って。……嫌われるかも、しれない」


「勝ちたいって言って、嫌われるような仲じゃないでしょ? そんな人達じゃないハズだ。だって、ましろくんが好きで、優しくて一緒に勝ちたいんだって思える人たちなんだから」


 ね? と言うと、こくりと頷いてくれた。


「二人にも『やってよかった』って思ってもらえるようにさ、お願いしようよ。無理かもしれないけど、それでも気持ちを伝えるのは大事だから」


 ましろくんの気持ちが少しでも楽になれば良いな、と思った。

 負けても勝っても「楽しかった」「良かった」と思えないとダメだ。それは、参加者だけじゃなく、リスナーもそう。

 そのためには、1人じゃなくて3人で頑張る必要がある。

 だって、頑張るって、感動をするものだって知ってるから。


「お姉さんっ……ありがとう、ございます……っ」


「うん」


 溢れ出てくる涙を拭いながら、床にゆっくりと座った。

 なんで座った? って、お、う、お……っ?

 のそのそと歩きながらボクの体にもたれかかって、肩に頭を乗せた。


「どうしたの……?」


 ましろくんの体は発熱してるのかと思うほど熱く。

 というか、押し倒されないように一生懸命右手で床を突っ張ってるけど、体重を全部かけてきてるな?


「おねえさん……わがまま……言っていいです……?」


「いいよ。あ、でも、ボクできること少ないから……」


 ハハハと苦笑いをしていると、預けていた体重が軽くなった。

 ましろくんは顔を真っ赤にして、ボクの左手を両手で握り、


「ぼくと友達になってくださいっ!」


 そう言った。




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