03 気がつけば小鳥囀るベッドの上
次の日の夜。
男性5名と女性5名の総勢10名で合コンがスタートした。
あ、違う。ボクが男だから、男性6名と女性4名だ。
開始早々始まったのは、女性の「私取り分けるのうまいアピール」だ。
男はそれを当然のように見つめている。
(性格の悪い男を集めたんじゃない? 大丈夫? 令和だぞ、今)
そんな態度を良く思わなかったのかどうかは分からないが、女性陣の熱が覚めていくのを感じる。
スマホを弄りだす子もいる。
一方、ボクは──じゅっ〜…………。
「っぱ。うま……オレンジジュース」
頬をすぼめるほどの吸引力で吸い上げる。下の方に果肉があるタイプだった。
未成年だから酒は飲まないと約束して入れてもらった。
今まで居酒屋に対して陽キャの人が行くってイメージがあったけど、つまみがこんなに美味しいなんて知ってたらなぁ。
(カクテキ、カクテキっていうのかおまえ……たこわさも美味しい)
「それじゃあさ。自己紹介と行こうよ」
男性の方から切り出した話題をつまみを食べながら見つめる。
雰囲気を戻そうと必死な感じだ。
「オレは〇▽大学の四年生の──」
へぇー、みんな同じ大学かと思ったら違うんだ。
あ、社会人もいるのか。年収とか話しだした。思ったより規模が大きかった。
男の人は学歴とか年収でアピールするのか。なるほど。
「わたしは〇〇大学の三年生の〜」
女性陣は若さと可愛さアピール。ふむ。面白い。
ポテトにケチャップはなんでこんなに合うんだろうか。イモとトマトなのに……。
ちゃんじゃ……見た目の割に美味い。
「あのぉ、キミは……?」
ん。あ、いつの間にか自分の番になってたみたいだ。
あんまり目立つのもダメって言われてるしな。あくまで穴埋めとして。
「
うんうん。こんなもんで良いだろ。女性はお菓子が好きって言ってたしな。
ここはラーメンが好きって言って引かれた方が役目としては十分でしょう。
「いいね! キミ! みおとちゃんって言うんだ!」
「これも食べて! これも、これも!」
「ラーメン好きなんだ! どこのお店が好き!?」
「何学部なのかな!? 困ってることとかない?」
「連絡先交換しない!?」
グイグイとボクの皿に取りにくい位置のご飯を置かれたり、手を握られたり。
「…………」
女性陣からの視線が厳しいです。ごめんなさい。
服とかも褒められたけど、完全にお姉ちゃんのチョイスだしなぁ。
メイクとかもちょっとだけしてもらった。なちゅらるめいく、とかなんとか。
「すみません。少しお手洗いに」
「あ、私も」
ひとしきり盛り上がったところで女性陣がトイレに行った。
残ったのは端っこに座ってるボクと男性だけ……気まずい。
「じゃあ、ボクもトイレに」
「心音ちゃんはどんな男性がタイプ!?」
「ひぇ……」
トイレに逃げ込むことができず、彼女たちが帰ってくるまでの間、いっぱい質問が飛んできた。趣味はなんですか、他に好きな食べ物は、とか。
正直に答えたら答えただけ、なんか彼らの間で好感度が上がっていった。意味分かんない。ラーメンとか焼肉とか、濃ければ濃いだけ美味いって言ったら食いついてきた。こわ。
その後、女性陣が帰ってきたけどなんか疲れてた。トイレが混んでたのかな。
──ピロン。スマホの通知音。
「……?」
あ、誘って来てくれた人からだ。伊尾さんだっけ。
『ごめんっ。もう、帰ってくれる?』
「…………」
誘っておいてそれかぁ。まぁ、仕方ない。
顔を見ると、年上の女性がクイクイと外に行けっていうジェスチャーしてくるし。
お役御免か。
「……すみません。みなさん。ちょっと、大学の課題があるので」
「えぇ〜、心音ちゃん帰っちゃうのぉ?」
「ごめんなさい。これ、ボクの分のおカネです」
通路に立ったままスマホを操作。さっき連絡先交換した男性の方に、と。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
ペコとあたまを下げて居酒屋を後にした。
〇〇Payシリーズはこういうのができるから便利だ。
さらば、居酒屋よ。カクテキとたこわさ、ちゃんじゃ。また会おう。
「でも、まだ、食べたいなぁ……」
名前も知らないおつまみたちにも会いたい。
始めて食べた3つがストライクだったんだ。絶対、他のも美味しい。
でも、キャッチの男の人たちに向かっていくのもなぁ。まだレベルが足りない気がする。怖いし。
「あ、いた」
「?」
ガラガラと居酒屋の入口が開いたかと思うと、見知らぬ人が出てきた。
大人びた女性という言葉が相応しい。髪の毛が巻かれているし、ミルクティ色の頭髪はキレイに整っている。
さっきまで一緒に飲んでいた女性陣には無かった『落ち着いた大人』という風格な女性だ。
「なんか、女性陣から追い出されてたでしょ。女子トイレに入った時になにやら計画を建ててたの聞こえてきたから」
「あー……だから長かったのか」
計画て。普通に言ってくれた出ていったのに。
「モテるのも罪だねぇ」
「モテてなんかないですよ。だって、ボク」
──男なんで、と出かけた口を塞いだ。
「……とにかく、モテてなんかないですって。もともと、埋め合わせて呼ばれて」
「ふぅん〜? その割にはいま、あの男性陣は暇そうにしてたけどなぁ」
んー……。なにか気に入られるポイントでもあったのか。
「まっ、いっか。とりあえず、まだお腹空いてるでしょ。どこかで飲もうよ」
「!! い、いいんですか!?」
「何系がいい?」
「ら、ラーメン……食べれたら」
「ぷっ」
あ、笑った。えっ、なんで。
「キミは素を出してるから、男の人達も話しやすかったんだと思うよ」
「でもラーメンですよ?」
「だからかな」
「?」
「まぁその話はそれほどで。お酒は飲めないのかな? 未成年?」
「……はい。まだ一年生で。18になったばかり」
「じゃあ、料理を楽しめた方がいいか。ラーメンがあって……私はお酒が飲みたいから、飲めるお店……あったけな」
スマホで検索してる姿をジィと見てみる。年齢はお姉ちゃんよりも上だ。
それにしても肌白い。会ったことがないタイプの人だなぁ……キレイだ。
「ん。あった。ちょっと遠いけど、予約しといた。行こ」
手を出してきたので、まじまじと見つめた。
ギュッと閉じて、ぱっと開く手。
「あ、手をにぎる……?」
「ハグレたら怖いでしょ。未成年。なにあるかわかんない」
「そ、そうかも」
上から重ねると、ギュッと握られて引っ張られた。
「そういえば、名前は?」
「木下……木下心音っていいます」
「そ。私の名前は
微笑んだその顔はとても美しく、夜の飯屋街の明るさなんて比べ物にならないくらいに輝いていた。
完璧な女性。そんな人に連れられて食べたご飯ととても美味しくて、飲み物もちょっと、ちょっと──……。
………………
…………
……
ちゅん。ちゅんっ。
「…………え?」
目覚めると、ベッドの上だった。
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