02 女子枠で合コンに誘われたんだが


「ダメ? いそがしかったりする? どう? どんな感じ?」


 名前は覚えてないけど、最初のオリエンテーションで目立ってたのを覚えてる。

 絶対にボクが相容れない存在──「陽キャ」という奴だ。

 鋭い目つきに赤い瞳。淡い金色の髪を長く伸ばしてるのに、ボーイッシュな見た目でまとまってる。あと、絶対に暑いだろうに革ジャンを羽織って、ギターでも入りそうなバックをいつも持ち歩いている。女番長みたいな見た目だ。それも平成初期の女番長って感じ。

 ぷくーっとガム風船を膨らませて、パチンッと顔面に張り付いていた。


「あぅっ」


「……合コン、ってボク?」


 ガムを剥がしながら、こくと頷かれた。

 家族以外の人と喋ったの久しぶりだ。三日前のバイト以来か。


「いい、けど」


「やり〜。人員確保成功だぜ」


 喜ぶ陽キャ。スマホに目を落とす。次は大教室の二階か。


「じゃあ、今日の夜な! くれぐれもかわいくなりすぎないように!」


「あ、うん……」スマホに落としていた目をゆっくりと上げた「え?」


 聞き間違いだろうか。あまり関係性がないこの女学生に、ボクはいま、なんて言われた? かわいくなりすぎないように……って?


「その、足りないのって」


「ン? 女の子枠!」

 

 うわわわわ。


「サークルの先輩に言われて声かけて回ってんだけど、みんな乗り気じゃなくてサ。でも、良かった! 心音くんは顔がいいじゃん? 童顔だし。ぶっちゃけ、女の子枠でいけんじゃね? ってなってさ。話しかけてみたんだ」


 ね〜? と隣の女子に同意を求め、頷いていた。

 ボク、その子と面識ないけど……。金髪のメガネの人。

 そもそもあなたともちょっと話したくらいだよね。いつに話したかすら覚えてないけど……あーーー、学生証を忘れて教室に入れなかった時に助けた時の……。


「大学生になったんだし、そういうのやらないとじゃん!?」


 そんな目をキラキラさせて言われても……。


「これで人が足りたよ〜、ありがと〜! じゃあ集合場所とか後で送るね〜!」


 手をひらひらとさせて、彼女たちは消えていった。

 上げていた視線をスマホに再び降ろす。


「……女子枠で、合コン」


 ポロンッと通知がきた。さっきの女学生だ。名前は……こんな名前だっけ。

 

(伊尾って名前なんだ。へぇ……)


 ……で、場所は?


「…………居酒屋……?」


 ボクたち、まだ未成年だけど。あれ、18歳からお酒って飲めたっけ。


「次、この教室は他の学部が使うからな。早めに出とけよ〜」


 黒板を消し終えた教授が出ていった。

 なに考えてたかも忘れたし、変な用事が入ってきたけど。


「…………お姉ちゃんに連絡しとくか」


 とりあえずリュックを背負って講義室を出た。

 困った時に頼れるのは勝ち気な性格の姉である。


『心音)今日、合コンに来いって言われてさ』

『姉)は?』

『心音)女子枠で来いっ言われたんだけど』

『姉)あー(納得)りょ。用意しとく』

『心音)ありがと。頼りになります』

『姉)とびっきり可愛くしたててやる』

『心音)それはちょっと』


 一瞬で既読がついたし、服も用意してくれるらしい。

 さすが「ファッションコーディネーターに私はなるッ!」と家を飛び出して行っただけはある。

 ボクと妹は姉に着せ替え人形にさせられていた。


「女装をするのも久しぶりだなあ……」

 

 というか、合コンって何するんだろう。

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