第10話

 もしもし。あぁ、僕です。美大で教授をしている、久田です。

 あぁ、今時間あるかな。大丈夫。そう、ならいいけど。

 あの、ちょっとさっきの電話のことなんだけどさ。

 そこまで気にしなくてもいいんだけど。

 いや、考えてみたんだけどね。

 君、ちょっと失礼かもしれないね。うん。

 いやね、確かに君のお母さんの親戚だから、君を助けてあげるのは義務だとは思うんだよ。僕もね。だから、ああいう電話をしたんだけどさ。

 君、僕にちゃんと感謝してないよね。なんなら、ちょっと考えさせてくださいみたいな雰囲気だったよね。

 まぁ、確かにね。君の人生だしさ。それはそうなんだけど。でも、助けてあげようって思って、優しくしてくれてる大人に向かってさ、まず、最初に感謝の言葉が出てこないのってどうなんだろうね。

 君は、どう思ってるのかな。

 ねぇ、そうだよね。

 おかしいよね。

 だって、君は助けてもらう側なんだからさ。そこは、謙虚でいるべきなんじゃないの。

 さっきの電話の後にさ、まぁ、君との会話を思い出してさ。

 あれー、ちょっとおかしいなーみたいな。なんか、君が可哀そうだったから、こっちも下手に出すぎちゃったのが悪いかもしれないけど。

 でもさ、君、高校生だもんね。

 大人だよね、それは。

 どういう言葉が、相手に伝わって、どういう感情を生み出すのかくらいは分かる年齢だよね。

 うん。そうだよね。

 君は、ちょっと良くないね。そういうところは直した方がいいんじゃないのかな。

 社会は君のことは知らないからね。初めて会う人ばっかりなんだから、一々自分の境遇とか説明できないでしょ。

 それを、自分はちょっと大変な人生だから、とかさ。

 うん、うん、分かるよ。確かに君はそうは言ってなかった、そうだね、うん、言ってなかったね。

 でも、思われちゃったら損じゃん。君が損でしょ。ね、君のためだからさ。

 それに、今の会話だってさ、こっちがまだ喋る途中だったのに、遮っちゃったよね。それは、いけないことだよ。目上の人の言葉を遮るのはマナー違反だから。教えてもらってなかったとしても、それはやっちゃ駄目。

 ね。うん、やっぱり君はそういう人間なのかもね。

 まぁ、助けるのはいいんだけどさ。

 まずは、自分のことを見つめようか。悪い所とか、直さなきゃいけない所とか、全部書き出してさ、それを音読して毎日一個ずつ直していくのを目標にしようか。

 で、それでもう自分がまともな子どもになれたと思ったら、連絡をしてください。

 お金はなんとかあるんでしょ。じゃあ、いいよね。小学生とか中学生じゃなくて、高校生なんだからさ。

 ちゃんとしなよ。

 言われる前にさ。

 自分から、ちゃんとしなって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る