第3話

 もしもし、あぁ、もしもし。あたしだけど。

 あんたさ、いつこっちに帰ってくるんだっけ。部屋汚しちゃってるから、片づけないといけないからさ。だから、いつ帰ってくるかだけでいいから教えて。

 なんで、直ぐに言えないの。ウザいウザい。早く早く。

 もう、いいや。

 じゃあ帰る二週間前くらいに電話して。

 あたしは、あんたみたいに子どもをやってればいいほど暇じゃないから。あんたのお母さんやんなきゃいけなくて大変なの。

 あんたが、どこかで遊んでる時間もあたしは働いたり、いろんなところに笑顔を振りまいたりしてんの。分かるよね。

 いや、返事が小さくて聞こえないから。

 お前さ、言葉に誠意がないよね。

 ねぇ、人生で一番大事なことが何か分かる。人と上手く喋れるかとか、マナーを知ってるとか、頭いいとかじゃねぇから。

 気持ちだから、分かるでしょ、心なのハートなのやる気なの。そういうのがないから、お前は弱いんだよ。弱くてキモいんだよ。

 せめて、あたしの言うことくらい全部守って成長しろよ、バカ。

 本当に、お前、勉強だけはできるんだから、勉強だけはやっとけよ。てめぇ、本気で勉強しろよ。で、なんかいい大学とか行くんだろ。いいところに就職するんだろ。

 で、ちゃんと稼いで、金は入れて来いよ。

 は。

 なに言ってんだてめぇ、この野郎。ちいせぇ声で言っとけば気付かれねぇとでも思ったのか、おい、言ってみろよ、クソガキ。死ねボケ。殺すぞ。

 親に金入れんのは、当たり前だろうがよ、バカが。

 なに一人でここまで生きて来たと思ってんだよ。勘違いしてんじゃねぇクソガキ。またそういう所で、こっちのこと舐めやがって、ぶっ殺すぞクソゴミ。

 てめぇ、こっちは母親だぞ、おいコラ。返事しろよボケがよぉ。

 分かってんのかよ、おい。

 おい、なんか言えよバカ。黙ってんじゃねぇぞ、ゴミ。おい、お前、調子乗んなよ。次、偉そうなことほざいたらぶっ殺すからな。

 ちょっと、勉強ができるくらいで偉そうにしやがって。

 お前を育ててるあたしが一番偉いんだからな。あたしが上で、お前が下だから。お前はあたしの下にいるおかげで、ようやく、子どもやれてんだから有難く思えよ。

 てめぇみてぇなのが大人になったら、直ぐにいじめられて、社会で生きていけなくなるんだよ。お前は今が一番幸せなんだからな。子供だから許してもらえてるくせに、調子乗りやがって。

 良かったじゃねぇかよ、なぁ、良かったな。社会に出る前に、お前みたいなゴミでもあたしにちゃんと教えてもらえて幸せじゃん。

 こっちは、てめぇのために母親をやってやってんのにっ、なんでっ、子どものお前はあたしのための子どもをやんねぇんだよっ、あたしにっ、迷惑をかけるためにっ、あたしの子どもになったのかよ、てめぇっ。

 あたしはっ、お母さんとかやってんのっ、母親とかやってんのっ、ママとかやってんのっ。

 お前も自分の人生犠牲にして、こっちのためになんかやれよクソガキっ。なんでこっちばっかり、持ち出しなんだよっ。

 隣のババアもそうだっ。あんのクソババアっ。ふざけんなよマジ、ふっざけんなよマジで。こっちだってやってるんだよ。

 お前のせいでっ。お前が変に有名なせいでっ。

 一々、注目浴びて、ちゃんとお母さんやれてるんですかっていう視線を浴びてんだよ。

 分かんねぇだろ。お前、バカだから分かんねぇだろ。あたしは、それとも戦ってるんだよっ。

 何も分かってねぇガキのくせに、被害者面すんじゃねぇぞ。

 お前のせいだからな。

 お前は自分の手で自分を不幸にしてるだけだからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る