第26話 埋められない溝

椿山つばきやまさん……ガチだな」

武器ぶきさえ使えればって、何度も言ってましたから。この機会きかいを待ってたのかもしれないですね」

 少し離れた場所でさかる木を横目よこめに、吉田よしださんが苦笑いしながらそう告げた。


 今、俺達は正門せいもん付近ふきんしげみに身をかくしてる。もちろん、エルフに見つからないようにするためだ。

 俺達がこうしている間にも、車や武器ぶき奪取だっしゅした自衛隊じえいたいいんたちが、駐屯地ちゅうとんちの中をけずり回ってるような状況。

 訓練くんれんされてるだけあって、やっぱり手際てぎわが良い。

 多分、彼らが今まで動けていなかったのは、不思議ふしぎな青い光で無理やりねむらされてたせいだな。


 と、そうこうしている間に、閉ざされていた正門せいもんを数名の自衛隊員じえいたいいん開放かいほうした。

 これで逃げ出せるな。

「それじゃあ吉田よしださん。手筈てはず通り、自衛隊じえいたい指示しじしたがって正面入り口から外に出てください」

「はい、分かりました。茂木もぎさんは本当に残るんですか?」

「まぁ、れが戻るのを確認したいですし。それに、まだつかまってる人もいるって話ですよね? 少しでも自衛隊じえいたいの手伝いができればなとは思ってます」


 俺はどうやら、普通ふつうの人間と違って魔素まそとやらに耐久たいきゅうがあるらしいからな。

 そのおかげで、あの青い光でもねむりに落ちることが無かったんだろうと考えてる。

 つまり、エルフたちが自衛隊じえいたいおさえるために魔素まそを使ってきた場合、俺が居ないと詰んじまうわけだ。

 自衛隊員じえいたいいんひきいられて脱出だっしゅつしていった吉田よしださん達とわかれた俺は、陣頭じんとう指揮しき椿山つばきやまさんの元に向かった。


椿山つばきやまさん!」

茂木もぎさん、他の皆さんは逃げ出せましたか?」

「はい、手筈てはず通り、正門せいもんから車で出て行きました」

「分かりました。あとは連れて行かれたという人質ひとじちの女性を解放かいほうしたいところですが……」

「場所が分からないってことですよね」

「はい。エルフ側の抵抗ていこうはげしいようで、捜索そうさくうずかしそうです」

「やっぱり、直接ちょくせつ交渉こうしょうしないとダメかもしれないか……」

 そうつぶやきながらも、俺はナレッジの様子を思い出してため息をく。

 多分、交渉こうしょうなんてできないんじゃないかな。

 そもそも、人間を無理矢理むりやりねむらせて管理かんりしてたような奴らだし。

 俺達を対等たいとうあつかってくれるとは到底とうてい思えないよな。

 多分たぶん対等たいとうなんだと示せる何かが無いと、むずかしそうだ。

「お仲間なかまの方はどうですか?」

「まだ戻って無いですね。まぁ、彼女達なら何とかしてくれると思うんですけど」


 マリッサを救出きゅうしゅつに向かったおぼろとメイは、まだ姿を現してない。

 まず間違いなく、この燃える木を目印めじるしにしてくれると思うんだけど。

 なんて考えていると、頭上ずじょうからいやな声が投げかけられた。

「どうやって逃げ出したのかと思えば、あんたの仕業しわざか、茂木もぎ颯斗はやと

「ナレッジ!?」

茂木もぎさん! 下がってください!」

 赤いコートに身をつつんだエルフの美女が、俺達を見下ろしてる。

 普通ふつうに飛んで現れてるけど、これも魔術まじゅつなんだろうな。

 そんな彼女は、不意ふい椿山つばきやまさんに視線しせんを向けると、片方のまゆり上げながらつぶやいた。

「おや? あんたが持ってるそれは、もしかして武器だったのかい? なるほど、だからあんなにそろえられてたんだねぇ」

 銃口じゅうこうを向けられてるってのに、まるで余裕よゆう綽々しゃくしゃくだな。


「おいナレッジ! 仲之瀬なかのせさんをどこに連れて行った!」

「ナカノセ? あぁ、あの女か。どうしてそれをあんた達に教える必要がある?」

「彼女は我々われわれが守るべき国民だ! ただちに解放しなさい!」

「そう言われてもねぇ。私達にも事情があるんだ。そう易々やすやすと引き渡すわけにもいかないんだよ」

 肩を竦めて見せるナレッジは、直後、鋭い視線を俺に向けた。

「それと、茂木もぎ颯斗はやと。あんたは私と約束したはずだろう? 魔術まじゅつ結晶けっしょうを探すと。なぜその約束をやぶる? 何か不満でもあったのかい?」

「あれで不満が無いと思ったのかよ」

「そう思ってたけどね。大罪人たいざいにんのマリッサよりは、私達に協力する方が得なハズだろう?」

「バカ言え! 彼女は俺達を道具みたいに扱ったり、無理矢理眠らせたりしねぇよ!」

「本当にそうなのかねぇ? 彼女はあんたらに対して、くわしい事情じじょうを何一つしゃべって無かったじゃないか」


 それはまぁ、確かにそうなんだけど。

 だとしても、お前らの俺達に対するあつかいの方がひどいだろ。

 そう思うのは俺だけか?

 やっぱり、俺達とエルフの間には、められない程の認識にんしきみぞがあるのかもしれないな。

「あんたらを良いように使ってたのは、むしろマリッサの方だと私は思うけどなぁ」

「いいや、ナレッジ。悪いけど俺は、あんたの言い分に納得なっとくできないな」

「ほう?」

「少なくともマリッサは、自分が引き起こしたことに対して、罪悪感ざいあくかんいだいてるように見えた。でも、それをあんたからは感じられない」

「なぜ私が罪悪感ざいあくかんいだく必要があるのか、はなはだ疑問ぎもんだけど。まぁ、良い。ここであんたらを逃がすわけにはいかないんだよねぇ。これだけのさわぎを起こせるってことは、戦力せんりょくとしても申しぶんないことが分かったわけだし。しっかりと調教ちょうきょうしてやろうじゃないか」


 俺達の言い分なんて聞くつもりが無いらしいナレッジが、手にしていたつえかまえる。

 直後、彼女の周りに無数の炎のたまが発生した。

 即座そくざ自衛隊員じえいたいいん発砲はっぽうするけど、放たれた弾丸だんがんは炎のたまはばまれてナレッジにはとどかない。

 あまりのねつに、彼女に着弾ちゃくだんする前に溶け切ってしまってるってことだよな。

茂木もぎさん! ここは一旦いったん退きます!」

「行かせないよ!」


 急いでその場をはなれようとした俺達の背後に、メイの声が投げかけられる。

「ハヤト!!」

「メイ! おぼろ! それにマリッサも!! 無事だったか」

感動かんどう再会さいかいは後だぜハヤト! 今はとにかく逃げるぞ!」

 メイに背負せおわれてるマリッサがどこか放心ほうしんしてるように見えるけど、大丈夫か?

 いや、今はそれよりもおぼろの言う通り逃げる方が先だな。

「分かった! メイ、俺がわるから、自衛隊じえいたい協力きょうりょくしてナレッジの足止めを頼んだ」

「分かったよ!」

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