俺と魔女との邂逅録 ～あとは野となれ山となれ～

第24話 自信ありげ

　部屋を抜け出した俺達は、一旦（いったん）近くの生垣（いけがき）に姿を隠（かく）した。

「朧（おぼろ）、マリッサの居場所（いばしょ）は分かるか？」

「あぁ、分かるぜ。でも、エルフ達のど真ん中だから、近づくのはかなり危険だ」

「アタシなら、なんとかできるかも」

「そうだな。オイラとメイだけなら夜目（よめ）も利（き）くし、奴らに見つからずにマリッサと合流できるかもしれねぇ」

「なら俺は、別の場所で騒（さわ）ぎを起こして注意を逸（そ）らすかな」

「だったらハヤト、吉田のおっちゃんたちを助けてやってくれ。さっきのロープは、吉田のおっちゃんが準備（じゅんび）してくれたんだしな」

「それが良さそうだな。それじゃあ、俺は吉田さん達と一緒に脱走（だっそう）する。朧（おぼろ）とメイはその騒（さわ）ぎに乗じて、マリッサを連れ出してくれ」

「おうよ」

「ハヤト、気を付けてね」

「メイもな」

　吉田さんたちが捕（つか）まってるという建物を教えてもらった俺は、朧（おぼろ）とメイと別れ、すぐにその建物に向かった。

　道中、エルフが数人いたけど、物陰（ものかげ）に隠れたことで何とかやり過ごせたみたいだ。

　当たりが暗くなり始めてるのも、バレなかった理由かな。

　そうして、目的地にたどり着いた俺は、入り口から中を覗（のぞ）いてみる。

「ここに捕（つか）まってるのか」

　普通のビルって感じだけど、何に使われてたのかな？

　まぁ、そんなことはどうでも良いか。

　聞いていた通り、１階入ってすぐの大きな部屋の中に大勢（おおぜい）が捕（つか）まってるみたいだな。

　部屋の前にエルフの姿は無い。

　恐る恐る扉を開けてみると、その部屋の中には大勢の人間が横たわってる。

「思ったより人が多い……そうか、元々（もともと）この駐屯地（ちゅうとんち）に居た自衛隊（じえいたい）も、ここに集められてるのか。それにしても、見張りが居ないのは少し気になるな」

　改めて廊下（ろうか）に視線（しせん）を戻すけど、やっぱり見張りはいない。

　扉（とびら）に鍵（かぎ）もかかってないし、よほど逃げられないことに自信があるのか？

「誰も動かないけど、みんな寝てる……のか？」

　部屋の真ん中にボンヤリと青く光るものがあるけど、特に害がある感じじゃなさそうだ。

　見張りがなかに居る感じでもないし。

　そこまで分かれば、入り口でグズグズしてるワケにもいかないよな。

　暗い中、人を踏まないように気を付けながら部屋に入った俺は、吉田さんを見つけ出すことに成功した。

「吉田さん、吉田さん、起きてください」

　肩を揺すっても反応が無い。

「ダメだ、反応が無い。死んでるワケじゃないんだよな……いったいどうなって」

　半ば途方（とほう）に暮れた俺は、手がかりが無いかと部屋を見渡して、改めて青く光ってる何かに視線を向ける。

「もしかして……この部屋の人が昏睡（こんすい）してるのは、これのせいか？」

　吉田さんから離れて、部屋の真ん中に置かれた机（つくえ）の上の青く光るそれを、俺は手に取る。

「どうやったら止めれるんだ？　スイッチ的なものはどこにも……」

　手触（てざわ）りとか見た目は、まるで魔術（まじゅつ）結晶（けっしょう）みたいだな。

　それ以外に変な所は……。

「ん？　裏に石がはめてある。これを取れば……お、光が消えた？」

　くぼみにはめられた小さな石を取り外すと、青い光がスーッと消えていく。

　多分、この小さな石が何らかの動力源（どうりょくげん）みたいな物だな。

　それをポケットにしまい込んだ俺は、机の上に魔術（まじゅつ）結晶（けっしょう）っぽい物を戻して、吉田さんの元に向かう。

「吉田さん、起きてください」

「ん……」

　一度、顔を歪（ゆが）めた吉田さんは、ゆっくりと目を開けた。

「あ、れ……？　茂木（もぎ）さん？」

「吉田さん、良かった。体調は大丈夫ですか？」

「はい。大丈夫そうです」

「なら良かった。早速（さっそく）で申し訳ないんですけど、ここから逃げ出しましょう」

「ここから……っ！？　そうだ、ここは」

「静かに！　近くに見張りはいなかったですけど、気づかれるのは避（さ）けたいので」

　少し混乱（こんらん）を見せた彼は、すぐに気を取り直したらしく、小声で問いかけて来る。

「茂木（もぎ）さん、どうやってここまで？」

「朧（おぼろ）が助けてくれました。今は別行動中です。それより、捕（つか）まった人は全員ここに集められてるってことで間違いないですか？」

「いいえ。実は１人だけ別の場所に連れて行かれました。仲之瀬（なかのせ）さんという女性の方です」

「え？　仲之瀬（なかのせ）さんが？　どうして」

「ここに連れられる前に、私達は全員、エルフから聴取（ちょうしゅ）を受けたんです。個人情報やどんなことができるのかとか、そんな感じですね。その時に、何か変なことでも言ったんじゃないかと」

「聴取（ちょうしゅ）？」

　変なことを言うようには思えなかったけどな。

「分かりました。仲之瀬（なかのせ）さんについては、追々考えましょう」

　と、俺と吉田さんの会話に、誰かが口を挟（はさ）んでくる。

「話し中にすみません。もしかして、ここから脱出（だっしゅつ）するつもりですか？」

「あなたは？」

「私は二等（にとう）陸曹（りくそう）の椿山（つばきやま）です。脱出（だっしゅつ）に関して、ご協力できるかと思いまして」

　服装（ふくそう）からも分かるけど、自衛隊（じえいたい）の人か。

　ってことは、ここの駐屯地（ちゅうとんち）にも詳（くわ）しいってことだよな。

　協力してくれるってコトなら、願っても無い申し出だ。

「それはかなり心強いです」

「それで、何か脱出のための作戦などはあるのでしょうか？」

　さすがというかなんというか、椿山（つばきやま）さんは冷静（れいせい）に状況（じょうきょう）を確認しようとしてるらしい。

　ここは素直（すなお）に答えておこう。

「いや、それが全く」

「でしたら、我々が道を切り開きましょう」

　そう言った椿山（つばきやま）さんは、自信ありげに頷（うなず）いたのだった。