後編②

――昨晩。


 カエデさんは液体の入った小瓶を私に見せた。

 この液体で何をするんだろう。


「この液体は変身薬、この薬に血を一滴入れた人物に飲めば変身出来るの」


 じっと見つめていたらカエデさんが液体が変身薬だと教えてくれた。


「えっと、つまり、私の血を入れれば私に変身出来るって事ですか?」

「その通り、という訳で貴方の血を一滴ちょうだい」


 そして、私とカエデさんは入れ替わり、私に扮したカエデさんは城に私はカエデさんの仲間達によってカエデさん達が拠点としている集落、猫の里に居る。





「気分はどう?」

「大丈夫です、モヤモヤしてたのがスッキリしました」


 猫の里にやってきた私は毒蜘蛛の毒を完全に消すという事で解毒薬を飲み、しばらく眠っていた。

 寝起きでボーとしているけど何処かスッキリした気分だ。


「よし、彼奴ら、毒蜘蛛の毒が完全に消えたようね」

「良かったにゃ~」

「これでもう大丈夫にゃ~」


 白衣を着た女性、カエデさんの仲間の一人であるベラドンナさんは目覚めた私の顔を覗き込みながら診療を続ける。

 その横で成人男性の腰ぐらいまである二足歩行の喋る猫達がワラワラとベラドンナさんの補佐をしていた、可愛い。


 先程、彼女が話をしていた毒蜘蛛の毒。

 あの人達が私に甘い言葉、喜ばせる言葉を言う度にクラクラしていたのは毒のせいだった。言葉で毒を仕込むという特殊な毒だと教えてくれた。

 その毒は精神を蝕み、最終的に彼らの言う事をただ聞く人形になる。私は毒に抗体を持っていたようで無事だった。


「あの~・・・・・・」

「なに? カエデのこと?」

「はい、カエデさんは大丈夫でしょうか」


 私と替わって毒蜘蛛の城に居るカエデさんを思う。

 カエデさん達、猫の里に住まう人間達は毒蜘蛛に攫われ食糧にされていたらしく、長年、毒蜘蛛に頭を悩ませていたらしい。

 毒蜘蛛を産み、力を与え続けている女王蜘蛛を倒せば、もう悩まなくていい。だけど、女王蜘蛛は特殊な結界に守られていて近づくことは困難。そこで喚ばれた聖女を利用しようとしたけど、皆、毒にやられて聞く耳を持ってくれなかった。

 でも、毒に抗体を持っている私が来たことで女王蜘蛛を倒す道筋が出来たというわけだ。女王蜘蛛が産卵の時期で腹に卵を抱えてるせいで動きが鈍いというのもあるけど。


「だいじょぶ、だいじょぶ。あの子、強いもの。大抵の魔物は一人で倒せるし、それに自分だけじゃ無理って解ったら引き返せる子だから」

「は、はあ」

「一応、応援としてロゼちゃん達が向かってるし大丈夫よ」


 信頼からなのかベラドンナさんは陽気に答える。

 私は私で本当に大丈夫なのかと思ってると。


「終わったわよ」


 カエデさんが帰ってきた。

 見たところカエデさんには傷一つ付いてない、良かった~。


「お帰り、女王蜘蛛達は?」

「焼き殺した。もうこれで人間達を攫って食糧にされることはないでしょ。ロゼ達は毒蜘蛛城を探索してから帰ってくるわ」

「そう、了解! さて、今夜は宴ね~。新しい仲間も加わった事だし」


 新しい仲間とベラドンナさんは私を見つめる。

 新しい仲間? どういう意味?


「ベラドンナ、彼女は困ってるわよ」

「でも間違ってないでしょ。この子、サクちゃんには間違いなく魔女の素質がある」

「素質? 魔女の素質って?」


 私にある魔女の素質について聞くとベラドンナさんは笑みを深くし話す。


「毒蜘蛛が作る精神毒の抗体を持ってる、それだけで素質があるわ。それに



 二度と元の世界に帰れないのだから魔女になるしかないじゃない」



 嬉しそうに話すベラドンナさんの言葉に私は固まる。

 帰れない、


「ベラドンナ!!」

「カエデ、貴方だってそうでしょ? 勇者として喚ばれ、役目が終わったら要らないって殺されて、蘇って魔女になった。魔女という不老不死の存在になった貴方は元の世界に戻ることも、いや戻る手段がない以上、この地で魔女になって暮らすしかなかった。違う?」

「・・・・・・・・・・・・」


 カエデさんはベラドンナさんにそう言われ黙ってしまった。

 ベラドンナさんの話は事実なんだ。

 私は帰れない、帰る手段がない。だったら、此処で生きていくしかない?


「私、貴方が気に入ったわ。貴方の師に立候補したいの。サクちゃん、魔女にならない?」


 ベラドンナさんは妖艶な笑みを浮かべながら私に手を差し出した。

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【完結】聖女として喚ばれたけど何かおかしい うにどん @mhky

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