25. サバンナの夜に

「シーっ!」ナディア姉さんが皆に静かにするように鋭く合図をした。


 皆、今いる場所で身動きを止めた。焚き火のはぜる音がパチパチ辺りに響いた。

 驚いた事に、ナディア姉さんは素早く銃を取り出し、さっと身構えた。まるでプロじゃん・・映画みたいって俺は思った。


 ナディア姉さんがピタッと銃口を向けた方から、何かが、のそのそと出てきた。


「やあ、こんばんわ。焚き火の明かりが遠くから見えたんだよ。久しぶり。」


 一瞬、誰だか分からず、俺たちは完全にフリーズした。ナディア姉さんの銃口はまだピタッとそいつに向けられていた。

 

「は、はくしゃくウ?」俺のすっとんきょうな声が辺りに響いた。それは、ボッロボロになった若き伯爵だった。


「はーい、そうだ。颯介どの。」伯爵はとぼけた様子で返事をした。にっこにこだ。伯爵は俺たちに会えたことで大感激をしているようだった。

「伯爵!!」ピーター、ジョージア、レオも思わず駆け寄ろうとした。だよなー。子供たち、伯爵が死んだと思って泣いていたもんな。こんな星空の下で、思わぬ再開で、みんなちょっとうるっときた。


 ナディアはなーんだ知り合いかといった様子で安堵したのか銃をしまおうとした。ジャックは、ナディア姉さんが銃を持っていたことが腑に落ちないようで、「なんで、銃?」とナディアに小声で聞いた。俺だってそこは聞きたいよ、ナディア姉さん・・・


 ダッカー王子とサファイアは、初のご対面で若き伯爵の登場をぼーっとみていた。


 そこに、何かが突進してきた。

 ええ?

 ナディア姉さんは素早く横にすっ飛んだ。


 テントのそばで寝ていたはずのプテラノドンが伯爵に突進したのだ。そして伯爵の汚れた貴族服の首まわりの部分をガッと口でつかみ、グーっと上にもちあげた。


「うおー、なんだ!」若き伯爵は驚いて叫んだ。

 プテラノドンと、伯爵はキスしそうなくらいに顔が間近になり、伯爵の足は地面から数センチ上に持ち上がった。プテラノドンが、首周りの服を口でくわえて、伯爵を真上に持ち上げているからだ。


「プテラ!プテラ!この人は友達!」俺は必死にプテラノドンに言って、プテラノドンに駆け寄った。


 その瞬間、プテラノドンは伯爵を落とし、若き伯爵は勢い余ってそのまま地面に尻餅をついた。そして、プテラノドンは若き伯爵のポケットの当たりに口を近づけ、ポケットから器用に何かの草を取り出した。


「え?」俺はそのままよくみようとして頭を地面に近づけて、かがんだ。


「松明草を認識いたしました。」


 頭につけた高性能カメラがぴかっと反応して、爽やかにそう告げる声が、焚き火のはぜる音に混ざって、静かな夜のサバンナの草原に響いた。


「やったわ!」サファイアは叫び、「やったぞー!」ダッカー王子も大喜びした。ジョージアとダッカー王子はハイタッチなんてしている。


ナディアとジャックは思わず抱き合って喜んでいる。ピーターとレオもやったーと肩を抱き合っている。みんな、獣に襲われる不安の中で、月明かりの中で見たこともない聞いたこともない草をひたすら探すのは、怖かったのだ。


 そんな中、若き伯爵の「と、ともだちなの?わしって颯介どのの友達なの?」と泣きながら嬉しそうに涙声で何度も何度も言う声を、俺は確かに聞いた。


そこー?

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