20. 裏切り

 宰相の館は広かった。僕は街の中を歩いて、宰相の館に向かったが、館に入ってからもずっと歩き続けた。肝心の書斎がやたらと奥まった所にあった。


 僕のこと、ダッカー王子は死んだと都中で噂が流れて久しい。もはや、全員が僕が死んだと思っている。僕だって、そうだった。しかし、宰相の館にきて、今や僕ははっきり分かった。僕の死について、嘘を付いている者がいる。


 裏切り者がいる。


 まず、抗議の平民たちが、宰相の家の立派な前に列をなしているのにも驚いた。皆、疲れた顔をして、宰相に会わしてほしいと懇願をしていたが、門番に門前払いを次から次に食らっていた。


 一体、父の国王はこの状況をご存知なのだろうか?


 僕は幽霊で誰にも姿を見られないことを良いことに、宰相の館に忍び込んでいたが、信頼が徐々に疑いに変わるのを感じた。ミカエル王子の話をしている下僕が多かった。ミカエルを次期国王に担ぐための準備を進めている様子が館中にみなぎっていた。


 父の国王は、この状況も一切ご存知ないと思う。


 若くして亡くなった父の弟、つまり僕の叔父は、良い方だったと思う。幼い僕に優しくしてくれた。しかし、叔父の妻となったレティシア叔母の事は、僕はよく知らない。思えば、レティシア叔母に僕が会った事は数えるほどしかなかった。

 

 しかし、レティシアは今、宰相の家にいた。そこに、例の占い師の老婆もいた。


 一体どうなっているんだ?この館は。


 俺は、館に漂う不穏な者に薄気味悪さを感じた。目的は、全国から集まる嘆願書のはずだった。

 この館にいる者どもは、宰相を初め、父である国王に嘘の報告を続けている可能性がある。


 根拠もなく俺が死んでいると告げた占い師が宰相の家にいるはずがない。また、ミカエルを担ぐ話を速やかに進めるためとは言え、占い師とレティシアが宰相の家で一緒に話し込んでいるのは、おかしい。


 そこで、僕は、話を聞くために、そっと宰相の書斎のカーテンの影に隠れて近寄った。万が一、老婆に幽霊になった俺の姿を見る力があったらまずいからだ。


 「大丈夫なの?王子の体は一体どこにあるの?永久にバレないの?」レティシアは、心配そうに顔をしかめて老婆にささやいていた。


 老婆は、「体は見つかりません。なぜなら、彷徨っているからです。王子はずっと呪いのゲームに参加させています。永久に体は見つかりません。」


 なんだと?ここで、俺ははっきり悟ったのだ。


 怒りで身体中が震えた。つまり、僕を追い払うために、この占い師の老婆が俺を呪いのゲームに追いやったという事になる。


 宰相はうなずいて、レティシア叔母に言った。


「バレないでしょう。我々が追い払ったとは、永久に誰にもバレないはずです。さっさとミカエルを次期国王になる正式な王皇太子として正式に発表しましょう。」


 裏切りだ。宰相、それは立派な裏切り行為だ・・・

 僕はカーテンの影で声を潜めて悔しさのあまりに泣いた。父である国王に伝える方法はないのか?

 方法は、一つだけあった。僕の姿が見える3人の子供たちがいることを思い出したのだ。


 僕の目標はこの時はっきり定まった。仕・返・し・を・し・よ・う・。・

 ピーター、ジョージア、レオの3人の力を借りて、この裏切り者どもたちに仕返しをしよう。絶対に俺は許さないのだ。


 俺を亡き者にしようとした奴らを断じて許さない。目には目を、歯には歯をだ。

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