第9話 試合に負けて勝負にも負けた……

「あ、どうも初めまして」


 挨拶は先手を取った。せめて挨拶ぐらいは先手を取っておかないと、というイケメンに対する嫉妬を含んだ謎のプライドだった。


「は、初めまして……」


 イケメンは頭をポリポリかきながら、困った様子で挨拶を返してくれた。そしてちらっと、先ほどの女子学生の方を向くと「あの、これってどゆことっすか」と言った。もはや慣れた問いかけに彼女達が説明するより早く、「福岡から面白い人を探しに来ました」と俺は手短に答えた。


 イケメンは「この人、ヤバいっすね」と俺の方を一瞥してから言った。何言ってんだ。「ヤバいのはお前もだろ、ちょっとベクトルが違うだけで」と思ったが、声には出さなかった。


「先輩たちは今から昼飯っすか?」

「「うん」」

「じゃあ、ちょっとタバコ行ってくるっす」というと、彼はこちらにクイクイと手招きする。俺はイケメンに誘われ、二人で外に出た。もしやというか、このイケメン、さらっと自分の休憩に託(かこつ)けて、先輩たちのお昼を邪魔しないように俺を連れ出したのか。正直手際が良すぎて惚れ惚れする。そういや専門学校の一年時三年の先輩に同じように他人の気遣いがエキスパートで、男女共に好かれていた学校の先輩がいたことを思い出した。彼女も確か山口出身だった。山口凄いな、ナチュラルイケメン多すぎないか俺はそんな感想を抱いた。


 喫煙所に着くと、イケメンは「タバコ吸う?」と紙タバコを一本差しだしてくれた。「いいの? 吹かすことになるけど」と若干の申し訳なさを含んで答える。イケメンは気にしない様子で「いいよいいよ」というと、慣れた手つきでライターで火をつけて、(ついでに俺の分もつけてもらい)イケメンとの一対一が始まった。


 初手、相手の懐にボディブローのつもりで、「ユウキくん、彼女いるでしょ⁉」と食い気味にぶち込んだ。答えは当然イエス。まぁ、このくらいの反撃は予想通り。しかしここでユウキくん、相手はハーフの超美人彼女だと告げた。この連撃は完全に予想外だった。詳細は省くがその後繰り出された馴れ初め話で完全にダウン。俺は完敗した。正直、何と戦っていたのかはわからないけど。ちなみにユウキくんは、学園祭実行委員長の仕事も兼ねて大学に来たそう。マジで隙のない完璧イケメンだった。

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