第6話 緑のアイツは絶滅危惧種

 おじいさんの言っていたように行くには、まず横断歩道を見つけて反対の歩道に渡らねばならない。けれど、そこは横断歩道すらなかった。とりあえずおじいさんの進んだ方向とは逆に、つまりは大通りを右に進んでいくしかなかった。


 歩き始めて数分。すぐさま、むき出しになっている両手と額から、汗が噴き出してきた。服も、気づけばほんのりと汗を滲ませている。おじいさんと話していた時には気づかなかったが、公園の緑がある程度、日光を遮断してくれていたようだ。時間の確認もしようがないが、これだけ日が昇ってきているということは、もうお昼時なのかもしれない。


 この状況で気にすべきことは、時間的な危惧だ。最悪のケースは、大学に着く頃には夕方を過ぎており、授業終わった学生たちが帰り、ほとんどいないといった状況に陥ることだ。それだけは避けたい。


 考えながら歩いているところで交差点が見つかり、道路を渡る。今度は、おじいさんが指差した北の方へ進み始めた。時折、先の方にそれらしき建造物はないかと奥の方を見るが、それっぽいものはなく、住宅街が広がっているだけだ。大学があるのであれば、ある程度の領地はもっているはずだと思いながら、歩き続けるしかなかった。


 俺は歩きながらあることに気づいた。それは完全に景色と同化していたが、三歩歩けばとは言わずとも、数十歩歩けば辿りつく距離にある。電話ボックスだ。繁華街にもあったが、精々、風情があるなぁという程度の感想しかもっていなかった。しかし、こうも殺風景な場所に、日光によって色褪せた緑のダイヤル式の電話ボックスが、一つ、二つ、三つと続いていれば、自然と目に付く。福岡ではもう見なくなった絶滅危惧種的存在だったからこそ、今更気づいて驚いた。

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