四小節目 パーティー
ライフ・オア・ライブで敗北した人間は、人身売買に掛けられ、いつかは死に至る。
小太りの関西人・
感じて、そして少したって疑問が生まれた。(イヤイヤイヤおかしいだろ……いくら法外なオーディションだとしても、さすがに人身売買なんて大手芸能事務所であるフリージアがやるわけないだろ……)
「……アンタまさかありえへんっておもっとるやろ? 大手の会社がそんなことするわけないって」
「そうっすよ……ここは日本っすよ? そんなことをしちゃあ警察が黙ってないじゃないっすか……」
「あんたな、フリージアが日本の経済にどれほど影響あると思ってんねんか? テレビに出てる芸人とか俳優とか、アイドルとか、半分以上がフリージアかその子会社の事務所所属やで? あの○○○○も×××も、フリージア系列の芸能人や。そもそもフリージアが、たいていの不祥事くらいならもみ消せるくらいの権力を持ってるんねん」
「いや……そもそもなんで児嶋さんはそのことを知ってるんですか? さっき二回目って言ってましたよね?」高橋はとにかく児嶋のことを知ろうとしていた。
「おっと……これはあんまり知られとうなかったやつや。忘れてくれ」そう言うと児嶋はそそくさとトイレに行ってしまった。
もやもやした気持ちが残った高橋だったが、「おはよー高橋……」「おう
そのころ、
「番号!!!」
「一!!」「二!!」「三!!」(中略)「十九!!」「二十!!」
「全員揃っているようだな……ではこれより二次審査会場へ移動する」
午前九時、いよいよ二次審査が始まろうとしていた。
二十名の挑戦者は
二分ほど歩き、園崎らの正面に現れたのは、いかにもパーティー会場らしい、赤く塗装された金縁の扉。
重々しい音が響き、その扉が開かれると、一次審査の会議室のような雰囲気とは異なる、まさにパーティーを行うために用意されたような広間があった。
すると、今まで厳粛な顔をしていた園崎が、急に手を叩きながら笑った。「さあさあ入り給え!! これから行われるのはパーティーだよ!! 血沸き肉躍るパーティーだ!!!」
困惑しながらぞろぞろと広間に入る挑戦者たち。
その広間にあったのは一つの長テーブル。白いテーブルクロスで覆われ、中央に煌びやかな燭台が置かれている普通の長テーブルだ。
……いや、普通とは違う点が二つあった。
テーブルのそばにはアンプが置かれていた。
これはつまり、この場で何かしらの演奏が行われるということ。
さらにテーブルの両端に置かれている脳波測定機器のようなもの。
端子の一つ一つから配線が伸び、数メートル伸びていきつく先は、あの真ん中に置かれている燭台。
誰が見てもわかる。あの燭台には何らかの仕掛けがあると!
それだけではない。高橋、桜井、伊藤、児嶋などの勘のいい数人は気づいていた。
扉から入って右手に、演劇でもできそうなステージがある。それは問題ない。その反対側、扉から入って左上に視線を当ててみよう。
……見ている。
ガラス窓の向こうから、何人もの人間がこちらを見ている。
それも黒服のような監視のための視線じゃない。あの視線には明らかに見物の意図が含まれていた。それを見て楽しもうとする視線がそこにはあった。
挑戦者たちはそれが誰かまではわからないが、窓ガラスを通して見物しているのは、フリージア・グループ所属の有名アイドル、タレント、コメンテーター、芸人、さらに政治・経済に大きく影響を与えている日本の重鎮達だった。
どこかの省の官僚が若いアイドルを双方に座らせて楽しんでいたり、現役の大臣すらも好きなお笑い芸人の話を聞きながら、これから始まるパーティーの行く末を見守っていた。
それに気づいた高橋、心の中でこう呟いた。
(誰だか知らないが……この勝負を見物できるなんてどんな神経してんだ……まあいいだろう。俺たちの
「これより、二次審査のルールを説明する」ステージに上がった園崎の声で、挑戦者達は皆園崎に視線を向ける。
「二次審査では、実際に音楽を奏でてもらう」園崎がそういうと、黒服が次々に楽器を運び込んできた。
エレキギター、アコースティックギター、ベース、ドラム、キーボード、さらにはダイナミックマイクなど、バンドマンなら必ず使いこなしている楽器の数々。
「モニターに注目」園崎の合図で、ステージ前に設置されているモニターに画像が映し出された。
「今から二十人を二人ずつ抽選で選ぶ。選ばれた二人は前に出て、好きな楽器を選び、その特製ヘッドギアをつけてもらう」園崎の言葉を補足するかのように、ヘッドギアを付けた二人の人間の画像が映されている。
「準備ができたら、ルーレットによって課題曲を選定する。こちら側で五十曲選ばせてもらった。何、心配するな。誰もが弾いたことがあるであろう有名曲ばかりだ」今度はルーレットの画像が映し出された。なるほど、どれも耳にしたことがある有名曲ばかりだった。
「曲が決まれば楽譜を配布する。その楽譜を二分以内に目を通してもらう。二分で楽譜は回収される。そして……ここからがパーティー本番」モニターの画像がまた切り替わった。
「挑戦者二人でタイミングを合わせ、楽譜通りに楽器を演奏する。それが二次審査の内容だ」皆の予想通り、二次審査は演奏。しかし課題曲はランダムという、ある意味博打のような審査でもあった。
「そのアンプは面白い仕掛けがあってな、曲が決定されると楽譜データが読み込まれ、間違った音を探知するとブザーが鳴り響く。ブザーを鳴らしたら即刻失格。鳴らさなかった方は、晴れて最終審査に臨めるというわけだ。もしもどちらのブザーもなることなく演奏が終わった場合、次の課題曲をルーレットで選定する……つまり、どちらかがボロを出すまで勝負は終わらないということだ」ニヤニヤと愉悦の表情を浮かべる園崎。
二次審査は一次審査とは正反対だ。ニ十分という一律の制限時間があった一次審査に対して、二次審査は一試合一分で終わるかもしれないし、三十分以上かかるかもしれない。一次審査は人の手による審査だったが二次審査は機械が審査する。一次審査は一斉に筆記審査、他者の妨害などできるはずがなかったが、二次審査は一対一の斬り合い……つまり真剣勝負。相手のプレッシャーに押されたら負ける!
「では……早速始めよう。第一試合、ルーレットスタート!!」園崎の掛け声でモニターに二つの回転体が現れる。回転体には挑戦者の顔と氏名が刻まれていた。
誰と誰が闘うのか、挑戦者たちは固唾を飲んで見守る。
そして決定した。効果音と共に、第一試合を闘う挑戦者二名が!
「第一試合、
そして名前を呼ばれた宮内・黒木両名は、冷や汗をかきながら各々の楽器を取る。
宮内はベースを取った。黒木はドラマーであるため、黒服にドラムセットを運ばせた。
「次に課題曲、ルーレットスタート!!」今度は円形のルーレットが回転を始めた。
十秒ほど回転して、ルーレットは止まった。
「課題曲、スタッグの"Abandon!"!!!」スタッグと言えば、イギリス出身の世界一有名と言ってもよい四人組。その代表曲Abandonが最初の課題曲となった。
「両者、楽器をアンプに接続しヘッドギアを装着しろ。今から楽譜を配る」園崎の号令に素直に従う二名の挑戦者。
彼らは不運だろう。これから始まる二次審査の実験体となる様子を、残り十八名の挑戦者に見られてしまうのだから。
「二分だ。楽譜を没収しろ」園崎が命令すれば黒服はその通りに動く。二人の手から楽譜を奪い取った。
「準備ができ次第、そちらの合図で始め給え」双方、既に準備完了。
「ワン、ツー、スリー、フォーで始めよう、いいな?」スティックを両手に持った黒木が問いかける。
「それでいい」宮内が簡単に返事した。
ついに闘いの火蓋が切られる……
今、宮内・黒木両名はリングに上ったボクサー、いやもっと極限の状況下にある。
例えるなら、古代ローマで行われた剣闘士ショーの剣闘士。見世物にされ、負ければ命を取られるデスゲーム。
しかし勝てば最終審査……栄光の舞台東京ドームまであと一歩。
緊張の間……
そして
「ワン、ツー、スリー、フォー!」掛け声とともにベースとドラムの音が同時に、アンプを通じて広間中に響き渡った。
ベースとドラムという、バンドでは主役を張ることは少ないが、なければ一気に音楽が瓦解してしまう重要なポジション。
その二つの楽器のみで演奏される"Abandon!"は、これから始まる激戦のイントロのように聞こえた。
互いに自分の指に集中し、相手の音を耳で聴く。
この審査は勝負だが、リズムを取るためには相手の音にも耳を傾けなければならない。
互いに確実に楽譜通りに弾くため、対立しつつも協力的関係を保たなければならない。
そして、その勝負の終わりは一分強でやってきた。
ブザーが高らかに鳴り響いた。
ベースを弾いていた宮内の左薬指が、フレットを跨いでしまったのだ。
ギターをはじめとする
しかし宮内は跨いでしまった。踏み越えてはならないその一線を。
弦は安定性をなくし、音は醜く歪む。
この勝負、黒木の勝ち……誰もが一瞬で気づいたその時、
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!!
「ぐあああああああああああああああああああ!!!」突然宮内のヘッドギアに高圧電流が流れた。
宮内の体はベースを抱えたままフリーズし、数秒後、電流の音が流れなくなった時、宮内は倒れ伏した。
「勝負あり! 第一試合勝者、黒木武浩!!」園崎の声が第一試合を終わらせた。
しかし、黒木は喜ばなかった。喜べなかった。その場の挑戦者全員が顔を青ざめていた。
ブザーはまだ鳴り響いていた……
五小節目 ベールを脱いだ強者 に続く
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