第33話 この感情は

救貧院を抜け出し、いつもみんなで寝泊まりしていた郊外の宿へと駆ける

皆は無事だろうかそう思いながら走る。


息も切れながらもやっとの思いで宿へと辿り着く。


「なにこれ。」



そこはもう宿などと呼べるものではなかった。

焼き焦げ崩れ落ちた廃墟と呼べれものだ。

ふと気づくと廃墟の地面に付着した炭に足跡があった。

私は意を決して中に入る。

中に入ると元々私達が寝泊まりしていた部屋あたりに彼がいた。


「ミッド?」


ミッドは廃墟の中でなにかを抱え、蹲っていた。 


「ミッド?」


蹲っているミッドにそっと手を伸ばした時に彼がゆっくり立ち上がり抱えていた炭の塊2つを落としこちらへと顔を向ける。

その表情は顔に大粒の涙を浮かべこちらを恨むような恐ろしい顔をしていた。


「お前のせいだ。」


ミッドがこちらへ両腕を伸ばし、恐ろしい表情をしながら殺気を立てながらこちらへとゆっくりと迫る。

私はそれに恐れ一歩引いてしまった。


「お前のせいだ!」


ミッドがこちらへと勢いよく迫り私の首を締めるように手を伸ばし私を押し倒した。

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「に、げ、て」


そう言葉を発した後、リーティエは顔面を殴られ気を失った。

男は無造作に手を開き、意識のないリーティエを地面に落とした。

次は自分だ。

そう思った時、もうそうしてた。


「うわああああああああああ」


俺はラックを置いて一人逃げた。

部屋を出た後に杖の発砲する音が聞こえてきたがそれを無視してただ逃げるためにがむしゃらに走った。

逃げた。逃げた逃げた。ただただ逃げた。

どこを目指すでも無くただ、ただ恐ろしくて怖くて逃げた。

不意に転び、レンガを敷き詰めた道路に顔をぶつけた。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。」


体が呼吸を思い出したかのように息を吸う。

ここはどこだ?

俺は辺りを見渡す。

日が落ちても人通りの多く、そして警笛が聞こえて来た。

ここは駅だ。

駅まで走って来たんだ。

どうしようか?

あんな恐ろしい男達から逃げなくちゃ。

魔導列車の貨物車両に隠れるように乗り込み皇都クラウディウスに行こうか?

でも、

でも、宿に残したあいつらが気になる。

でも、男達がまだ残っていたらどうしよう。

そう考えながら男達に怯えるように路地裏に隠れるように身を潜めた。

そして宿に戻るか戻らないか考えているうちに夜は明けた。

一睡もせずクラクラする頭の中、宿を遠巻きに見よう。

男達がいたら逃げようと考えついた。

賑やかな街の中を抜け、郊外の方へと向かう。

その足取りは重かった。

どうして自分たちは襲われたんだ?

男達は宿場強盗だったのか?

そんな答えの出ない疑問を考えながらなんとか宿の前まで辿り着いた。


「なんで?」


宿は焼き焦げ、廃墟になっていた。

俺は残り火がまだ燃えている廃墟の中へそっと入って行った。

足は部屋を覚えていた。既に崩れ壁もないが廊下を通り、蹴破られ、燃え尽きた扉を潜りそこにやってきた。

女神様どうか。

どうかそんな事にならないよう願っていた光景が眼前にあった。

部屋には炭の塊が2つ横たわっていた。


「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


俺は自分でも感じるほど弱々しい足取りで炭へと変わり果てた死体へと歩き出す。

こっちはラックか?

頭を掴む。

体と頭の繋がる部分が崩れ、持ちあげる事が出来た。

額と思われる所には一つ穴が空いており、どう死んだか容易に想像出来る。

じゃあ、こっちはアンなのか?

ラックの炭と化した首を持ったままアンと思われる死体へと近づく。

アンの方は記憶で覚えてる限り少しも動いた形跡も無いまま炭となって横たわっている。

俺はアンの頭を持ちあげる。

体と繋がっていた部分は崩れ落ち、もう彼女は死んだんだと理解を拒む頭でも無理矢理理解させられた。


俺は曇天の空へと言葉にも出来ない声で泣き叫んだ。

なんで俺達がこんな目に合わなきゃいけないんだ。

俺はただ炭の塊へと変わった2人の首を抱え泣き喚いた。


「ミッド?」


俺がひとしきり泣いた後、その声が聞こえた。


一瞬。幻聴かと思った。あいつらが死んだんだ。

お前も死んでなきゃおかしい。


「ミッド?」


繰り返し聞こえてきた声でこれは幻聴でもない。

紛れもなく本物だと理解した。

俺はゆっくりと立ち上がる。

その際、2人の首が力が入らない腕から溢れ落ちる。

俺は立ち上がり、そいつがいた。

長い灰のような銀髪。

その白い肌を包むように着た茶色の長袖のワンピース。

そして特徴的な赤い瞳。


生きてた。


「お前のせいだ。」


お前に出会ってから周りは俺ではなくお前を見るようになった。

俺がリーダーで俺が2人を引っ張っていく。

それが良かったんだ。

そうじゃないから2人は死んだんだ。

憎い。

ドス黒い感情が俺の心の底から溢れ出す。

お前と出会ったから俺達は不幸になったんだ。

お前に出会ったからこんな目に合うんだ。

この感情は-


「お前のせいだ!」


憎しみだ。


俺はリーティエの首を両手で掴み押し倒す。

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ミッドが私の首を両手で締める。

両手を振り解こうとするもその力は強くとても振り解けるものではない。


「お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ!」


ミッドがこの世の物ではない瞳で私を睨んでくる。

苦しい。

次第に薄れてゆく意識の中、踠きながら辺りを探る。

指先に何かが触れた。

それを手繰り寄せる。

それは棒状の物だ。

嫌だ。死にたくない。

死にたくない!


不意に流れた涙。

私は棒状の物でミッドを


ミッドは私から離れていく。

私はゆらゆらと立ち上がりミッドへ棒状の物を振り下ろす。


死にたくない死にたくない死にたくない!

私は無我夢中で殴った。


そこで気がつくとミッドの頭が潰れ、物言わぬ死体へと変わっていた。


これは私がやったの?

唖然としながら両手をこちらへと向け、棒が地面に落ちる。

その棒にはべっとりと血が付着していた。


パラパラと雨が降ってくる。

もうやだ。

なんでこうなってしまったんだろう。


私は雨に打たれながら泣く。


もうやだ。

こんな生活やだ。

これからも生きていくのもやだ!


そうだ救貧院へと行こう。

私を攫ったなら帰り方も知っているはず。


私はトボトボと救貧院へと歩き出す。


どうしてこうなってしまったんだろう。

どうして?


私が力なく歩いているとそれが見えた。

救貧院が!救貧院が燃えてる!

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