第31話 街に戻るまで
私は今馬車に載せられている。
窮屈ながらも大人の男性に挟まれてだ。
あの後、大きな鞄を下げた眼鏡という器具をかけた女性が走ってこちらにやってきた。
「セイジ第1小隊長。どうしましたか?」
「ああ、この子の左腕を見てくれ噛まれたのか酷い怪我をしている。手当をしてやってくれ。」
女性-ジョアンと言ったか?-が膝を付き私の左腕を持ち上げてじっと見つめる。
「ふむ。骨まで達してますね。左手の指は動かせますか?」
私は実際に動かして見るが動かし辛いもののなんとか動かせた。
「ふむ。神経は大丈夫ですね。」
そう言うと大きな鞄を開き、何やら謎の器具を取り出した。
その器具は筒状の物-透明な部分から赤い液体が入ってるのが見える。-上部に十字状の物が付いており、反対の下部には細い針がついている。
「ポーション打ちますからじっとしていて下さい。」
左腕を固定するように持ったまま針を刺した。
ズキ、という感覚に顔を顰める。
十字の上側を押され、赤い液体-ポーションと言ったか-が私の体内へと入っていく。
すると左腕のズキズキと鈍い痛みが引いていく。
「念のため軟膏も塗っておきますね。」
そう言ってネバネバの液体を腕全体に塗られ、包帯を巻かれる。
「大丈夫だと思いますけど医者には定期的に通って下さいね。」
「助かった。ジョアン。」
「いえ、怪我人の治療も私の仕事なので。」
ジョアンが立ち上がると一頭の馬に乗った騎手がこちらに来た。
「ここにいたか!ジョアン少尉!」
「ノーラン少尉どうしましたか?」
「隊長曰く副隊長が瓦礫の下で伸びてるらしい。治療に当たって欲しい。それとセイジ第1小隊長。隊長から付近に歩哨を立て残りは副隊長の救助と載せてた物資の積み直しをとの事です。」
「わかった。すぐに行う。」
それからは本当に素早かった。
瓦礫の山の片付けから下敷きになっていた人の救助と物資の詰め直し。
私が足に力が入らず、ぼーと眺めてたら瓦礫の山は道の傍に退かされ、馬車が通れるようになっていた。
「おーい!」
セイジと名乗った男が手を振りながらこちらに近づいてくる。
「俺達は近くの街に行くんだが、乗って行かないか?」
「良いの。乗って。」
「あぁ、何かの縁だ。街中まで送ってあげよう。それにもうすぐ夜になるそんな中、君だけを残して行くなんて大人として見過ごせない。」
「わかった。お願い。」
私はセイジに連れられ馬車に乗る大人達にまじって馬車に乗る。
馬車は天幕を貼られた木造の作りになっていて左右には木製の簡素な椅子が据付られていた。
「第一隊全員乗車完了。出発します。」
「あぁ、頼んだ。」
行者の合図の元、馬車は動き出す。
追加で私が乗った事によりぎゅうぎゅう詰めで少し苦しい。
「さて、我々は君に聞かなければならない事がある。」
目の前に目を向けるとセイジが座っており、こちらへと尋ねてくる。
「君はなんであの場にいたのかな?」
助けてもらったんだここで隠す必要もないだろう。
私は今までの事を全て話した。
友人が病気である事。
その病気の治療の為に薬草を取りに行った事。
その道中でシーフウルフと遭遇し、私が囮になりあそこまで逃げてきた事。
言葉があまり上手に喋れなかったがなんとか伝わっただろう。
「・・・・すげー。」
馬車に乗っていた1人の男性がそう呟いた。
「すげーよ!おめぇさんはよう!仲間の為に我が身を持って囮になるなんてその年齢で出来る事じゃねぇよ!」
車内では頷く人が多くいた。
「あぁ、その年でDランクの魔物から逃げ切れるのはよほどの幸運がないと無理だ。」
「それにしても副隊長は相変わらずの不幸でしたね。まさか街を直前にしてDランクの攻撃を受けるなんて」
「そうそう。あの不運はなんなんだろうな!」
車内が笑い声に溢れる。
「こらこらお前達。副隊長を笑い物にするんじゃないぞ。オリハルコンよりお堅いあの人の耳に入ったどうなるやら。」
「それもそうですね。」
また車内が笑い声に包まれた。
「ねぇ。おじさん。おじさん。なんで。街。行くの?」
「それはな。俺たちは悪い奴を」
「ジャイルズ上等兵。」
セイジがジョイルズという男性を窘める。
「私達は軍人とだけ名乗っておこう。」
「軍人?」
初めて聞く単語だ。
「私達は皇国の危機から身を持って守らんと集った者達だ。」
なるほど騎士と同じ存在か。
それにしてもまた知らない単語が出てきた。
皇国とはなんだ?言葉の感じ的にこの地の事を指しているようだが?
「そうそう俺たちはその中の優秀な隊員でな!」
「ジョイルズ!子供相手だからてなんでもかんでも話してはならんぞ!言葉を慎め!」
ジョイルズはへいと頭を掻きながら項垂れた。
その姿勢に車内は笑いに包まれた。
その後、馬車は街の正門へと着いた。
門番と揉めてるのか門の前で何やら言い争いが行われており、しばらくしたら馬車の列は街中へと入っていた。
しばらく街中を進むと宿屋が並ぶと街の一角に止まった。
私は馬車から降りた。
「ここから家に帰れるか?」
セイジがそう話かけてきた。
「うん。大丈夫。」
「そうか。気をつけて帰るんだぞ。」
「うん。ありがとう。」
私は大人達にお礼を述べ、宿へと帰っていく。
ミッド達は帰っているだろうか?
アンは無事だろうか?
そう考えながら宿に着いた。
宿に入り、いつもカウンターにおり、態度が悪い宿の亭主をちらっと見て私達が寝泊まりしてる部屋へ入る。
「みんな!大丈夫!」
ドアを開けて中へと入る。
中には床に寝かされているアン。
驚いた表情でこちら見つめるミッドとラックの2人がいた。
「リーティエ!生きていたのか!」
「えぇ、この通り。それより。アン。大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。」
私はアンの側に近づき顔を見る。
アンは穏やかな表情で寝ている。
それにほっとしてると部屋の外で亭主と男性の言い争う声が聞こえてきた。
「ん?どうしたんだ?」
「さぁ、なんかあったんじゃないの?」
バリン!バリン!
「な、なんだよ!」
それから幾つもの足音が響き渡りカウンターに近い部屋から蹴破る音が響き段々とこちらへと近づいてくる。
「おい!なんなんだよ!」
「借りる。」
ミッドから剣を借りドアの脇に隠れるように付く。
そして、ドアを蹴破られた。
「女はいねぇか!」
蹴破られると同時に男が杖を向けながら部屋の中へ入ってくる。
私は飛び上がり刃が潰れた剣で殴る。
不意打ちが決まり、男が倒れる。
「コイツ!」
後ろにもう1人いたか!
私が振り返ろうとした時、男が首をその大きな腕で掴みそのまま持ち上げられ、勢いを付けて壁にぶつけられた。
叩きつけられた衝撃で剣を手から溢れ落ちる。
「がは!」
私は首を締める腕を掴み抵抗をする。
「大人しくしてろ!」
男は私の顔を殴る。
殴る。殴る。殴る。何度も殴る。
「に、げ、て」
その一言を言った瞬間殴られ、意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます