第31話 シーフウルフ その3

なんだあの男。

ここら辺も戦場になりそうだ。早く逃げないと。


「おーい!そこのお前!早くこっち来い!」


声をかけられた方を見ると1人の男性が魔導杖を下げ、こちらに手を振る。


私は左腕を抑えながら男性の方へ走る。


「よし。もう安全だ。おいお前怪我してるじゃないか。おい誰か!向こうにいるジョアンを呼んで来てくれ。」


私はその男性の言葉に膝から崩れ落ちた。

必死だったから自分でも気付かなかったが結構無理してたようだ。

足がガクガクして立てない。

私が振り返ると魔導杖で連続して魔力を放ちつつシーフウルフへと走って近づいていた。

シーフウルフは被弾に耐えつつも男へと風のような速さで近づき噛みついていく。


「こっちだ!ワンコロ!」


男はシーフウルフの下を魔導杖から連続で魔力を放ちながら滑って行く。


凄い。見た事ない巧みな攻撃を余裕たっぷりと行っている。


「凄いだろ。俺達の隊長。」


「隊長?」


私をこちらに避難するように言ってくれた男が私の頭を撫でるように手をおきながらそう言った。


「あの人は俺達の隊長だ。普段はちょっとあれだが、この特務隊において誰よりも頼りになる。」


男が笑いながらそう言う。

ふむ?


「特務隊?」


「あぁ、俺達がここにいるのは内緒な。」


私は同意した事を首を縦に降って伝え、隊長と呼ばれた。男へ視線を向けた。


隊長と呼ばれた男は両手に持った短い魔導杖をシーフウルフへ向け構える。


「アオオオオオオオオオオオオオオオン!」


シーフウルフが遠吠えのような辺り一帯に聞こえる鳴き声を轟かせた。

それに私は右手だけで片耳を塞いだ。


「へへ。ようやく遊ぶ気になったか。ほら来いよ。ワンコロ!遊ぶなら思い切り遊ぼうぜ!」


「アオオオオオオオン!」


シーフウルフがもう一度鳴き声を発すると風の魔力を吹き荒れる風のような状態にして身に纏い隊長へと向かって行く。


「へへ。」


隊長はシーフウルフの噛みつきに合わせるように飛び越えるように体を回転させながら豪雨のような魔力の塊を放つ。

だが、風の鎧により放たれた魔力が霧散してしまう。


「ほう。矢避けの魔法みたいなもんか。やるじゃねぇかワンコロ。」


矢避けの魔法。

それは風の魔力を扱う者が考案した魔法。

本来は飛んで来る矢から身を守る魔法で後に魔力を纏うような魔法に発展し、飛来して来る魔法を防ぐ魔法だ。

だが、あの魔法は使ってる間魔力を消費していく物で長い間は使えない魔法。

シーフウルフは短期決戦で挑んで来たという事か。


シーフウルフは風を纏いながら隊長に噛み付くために跳ねた。


「オラ!鎮座しろ!」


隊長は飛びかかったシーフウルフの下顎を魔導杖で突き上げるように殴った。


「キャオン」


シーフウルフは殴られた事により空中で一回転してなんとか着地する。


「ほら。どうした。もっとガッツ見せろよ。」


魔導杖の攻撃を封じられた状態なのに変わらず余裕そうだ。

シーフウルフは唸りながらも隊長を睨む。

その時-


「アオオオオオン!!」


その鳴き声を聞いた瞬間背中に寒気が走り、一瞬息を含めた全ての動きが止まった。


「なんだ今の!」


私の周りの大人が口々に今の不可解な感覚に確かめるように話す。


「それより隊長を見ろ!」


1人の大人に言われ、私も隊長を見る。

私が少し前に見た時と半歩、位置が移動しているが脇腹からここからでも分かるくらい出血をしていた。


「へー。面白くなってきた。オラ!もっと来いよ!」


そう隊長が身震いするような獰猛な笑顔で挑発する。


シーフウルフはもう一度唸り声をあげながら隊長を睨む。


それに対して隊長はただゆっくりと構えた。


「アオオオオオオオオン!!」


来た。

また背筋に冷たい感覚が駆け抜ける感覚。


シーフウルフと隊長の方を見るとお互いに相手がいた場所に移動していた。


一体どうなったんだ?

固唾を飲んで見守っているとシーフウルフの胴体部から血が吹き出し体勢を崩すように倒れた。


「ふん。魔力の篭った鳴き声で獲物の動きを止め、その一瞬で爪で致命傷を与える。良い技だ。だが、俺が相手だったのが悪かったな。」


隊長が倒れた狼へ褒めるようにそう語りかける。

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