第30話 シーフウルフ その2

「おい!そっちにあったか!」


俺はラックにそう聞いた。


「いいやこっちにも言ってた花はない。」


クソ!となるとあと探してない所と言えば。


「おい。まだこの死体の下は探してないぞ。こいつをどかしてみよう。」


俺は死体の所に行き押す。


「マジかよ。しょうがない。押してみるか。」


俺たち2人は横たわっている大きな獣の死体を押して向きを変える。

横たわっていた所は一面血で汚れていた。


「おい!あれを見ろ!」


そこからには紫色の花が潰れた状態で咲いていた。


「あれだ!掘るぞ!根が大切だからな!気を付けろ!」


俺達は手で土を掻き分けながら掘ってゆく。


「よし!取れた!取れたぞ!」


俺は花を持ち上げる。よしこれでアンが助かる。


「よし!リーティエを呼ぼう。おー」


俺は慌ててラックの口を塞ぐ。


「んん!何すんだよ!」


「お前こそ何やってるんだよ!」


俺は怒るように言う。

それに慄いたのかラックが黙る。


「俺達はアンの為に花を届けなくちゃいけねんだ!だからここであのシーフウルフが戻って来て襲われたらどうするんだ!まずは安全な所。そう街の中に入ろうぜ!」


「え、でも!」


俺はラックを殴った。


「でもじゃない!いいのか?あの獰猛な奴がこっちに襲いに来るぞ!お前はあいつと戦って勝てると思ってるのか!?」


「でも!リーティエは大切な仲間だろ!それでも」

「あいつが!あいつが今も生きてると思ってるのか!」


俺はラックの顔を睨む。


「まさかお前!お前!そんな事もわかっててあいつに頼んだのか!」


俺はラックに襟を掴まれた。


「考えろ。お前はこのままむざむざと死にに行くのか生きるのか。どっちだ?」


「クソ!クソ!」


その後俺とラックは街へと帰って行った。


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『神なる我らに更なる栄華を。』


私は飛ぶ。

ただ空中に飛んだわけではない。

木に向かって飛んだ。

距離は1番下の枝に届くかどうかだ。

届け!私はその一心で両手を伸ばす。

手は届き、力の限り掴む。

だがそのまま手を傷つけながら枝を中心に半回転し、地面へと投げ出される。

こんな時は2階から落ちた時の対処方として地面に足が着いた時に前屈みになって勢いを殺さず、手の甲を地面に着けてそのまま肩を地面に着けて転がる。

一回転し、バランスを崩しながらも立ち上がり走り出す。

なんとか地面に着地出来た。

シーフウルフは!?

私は走りながら背後を見る。

シーフウルフは枝を降りて行き、こちらへと向かってくる。

クソ!早く逃げないと。

私は傷ついた手のひらを握り締め走る。

もう疲れてきた。だがここで足を止めれば捕まる。

短い間だけど!


『力よ!-ボンピィア-』


体中に力が少し入る。

これならもう少し粘れるかもしれない。

考えろ。どうしたら振り切れる?

森の中、足が速いシーフウルフにどうやったら逃げ切れるか?

そう考えようとした時、背中に強い衝撃を受けた。

私はその衝撃に押されるように地面に押し付けられた。

なんだと思い体を捻ろうとするが動かず、首だけ捻って背後を振り返るとシーフウルフが唸り声を発しながら私を踏んづけていた。

私は暴れてこの状態を脱しようとするが背中を圧されているので思うように身動きが取れない。


「ヴァウ!」


その短い鳴き声とともに私に噛みつこうとその大きな口を開けて牙が向かってくる。

私は咄嗟に左腕を上げる。

牙は私の前腕部に深く食い込み鈍い痛みが私に伝わって来た。

私は思わず声をあげ、痛みに耐える。

思考が痛みに支配されまいとなんとかこの状況からのの抜け出し方を考える。

今は背中を踏まれていて抜け出せない。

左腕の前腕部は噛みつかれていて使えない。

噛み付く?

私は1つの策を思いつく出来るかわからないが、このままだと私の命がない。

こうなったら一か八かだ。


『水球よ。集まれ。-パラヌオト・ラデゥナシ-』


私の左前腕部を中心に水が集まってくる。

よし。良いぞ。

ここで頭を強く殴られたような酷い頭痛がする。

一瞬意識が飛びかけたが左腕の痛みが現実へと引き戻してくれた。

危ない。気を失う所だった。だがここで終わる訳にはいかない。

大きな水の球がシーフウルフの鼻をや口を含んだ顔のおおよそ半分を覆った所で左腕を噛んでた力が緩まり、私から暴れながら離れていく。

よし。動くなら今だ。

私は左腕を強引に口から離し、シーフウルフの下から抜け出して走り出した。

速く。速く。逃げないと。

私が走っているとまた、シーフウルフが威嚇の鳴き声を発しながらこちらに向かって追って来るのがわかる。

私は感覚がしなくなった左腕を抑えながら走る。

早く。早く逃げないと。

私が走っていると森を抜け、石畳で整備された街道が見えた。

そこを何台もの馬車が街道を通っているのが見えた。

助かった。なんとかなるかも。

私は列をなして進んでいる馬車の一台へと走る。


「助けて!助けて!」


馬車まで少し距離があるが助けを求めながら走っていると


「おい!避けろ!」


私が向かっている馬車の御者が叫び、私はとっさに右側に飛び退いた。

私の脇を高密度の風の魔力の塊が通りすぎて行くのが見えた。

魔力の塊が通った余波で私は吹き飛ばされた。

空中でもんどりうって地面に転がる。

うつ伏せに倒れてる状態で顔をあげると私が向かっていた馬車が破裂したように木片の山になっていた。


「kshdbdj!isjendjjd!」


列の前方と後方から防具のような装具を施した馬に乗った長い魔導杖を持った騎手がシーフウルフへと魔力を撃ちながら迫る。


シーフウルフは軽快にその攻撃を避け、反撃に一騎にその身を体当たりする。


「ハッ!」


攻撃をされた騎手は馬を急制動してみせ、急方向に攻撃をかわしてみせる。

すごい。見事な練度だ。


その光景を見てると他の馬車から同じ服装の長い魔導杖で武装した人達が馬車からぞろぞろと降りてきて一糸乱れぬ列に並び、その魔導杖をシーフウルフへ向ける。


なんだこの集団。

そう思った時、


「おい。騒がしいぞ。」


木片の山から突然腕が伸びてきて大人の男性が立ち上がる。


「人がせっかくまったりと寝てたてーのになんだこれは?落日の祈りには少し早いぞ。」


そう男性が木片の山から服の汚れを払い落としながら降りてくる。


「jejkai!推定Dランクの魔物の襲撃です!」


少し離れていた男性の近くにいた人が魔導杖をシーフウルフに向けながら簡単な状況説明を大声する。


「ふーんDね。」


そういうと両手を腰の後ろに回し何かを引き抜いた。

それは片手で持つように作られており、丸い物。そう魔導杖の弾を入れる機構を備え、持ち手を突起の付いた物で覆い持ち手の底の方に小さな刃物を付けた一見して武器と分かるそれを1つづつ持ち、それを持った状態でシーフウルフに向け構える。


「おい!ワンコロ!俺と遊ぼうぜ!」

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