第29話 シーフウルフ その1

「アオオオオオオオオオオオオオオオン!」


「なんだ!今の!?」


今のはそう狼の遠吠え。


「隠れる。」


私は2人を草むらへと引っ張る。


「おい!なんだよ!」


「そうだよ!いきなり引っ張るなよ!」


2人が抗議をする。


「『狼』。危険。隠れる。慎重に。」


私が説明すると2人は顔を見あった。


「わかった。わかったからとりあえず離せよ。」


ミッドがそう言ったので離し、みんなで草むらの中に入る。


草むらの中に隠れるように入り、ゆっくりと進んでいく。するとさっきの広場より広く日差しの良い所にそいつはいた。


長い緑色の毛並み。

長い尻尾をゆっくりと上下に揺らし、そして四つの鋭い眼光をギョロギョロと周囲を見渡し、その鋭い牙を持ったその口で広場に転がる大きな別の獣の死骸を貪る。


ミッドが声の大きさを抑えて話す。


「見ろ。おそらくあれがシーフウルフだ。」


ラックも声を抑えて話す。


「なんて恐ろしい姿をしてるんだ。俺たちが襲われたらひとたまりもない。」


私も声を抑えて話す。


「早く。離れる。行こう。」


私がそういうもミッドは首を振った。


「良いや。あいつをなんとかしよう。」


「なんで?どうして。」


私はミッドに何故かと尋ねた。


「あそこを見ろ。あそこは日差しが良く色んな花や草が咲いている。もしかしたらそこにあるかもしれない。」


「危険。別。場所。また。別。日」


私は危険だからやめた方をが良いと言葉を喋れないなりに必死に話した。


「いいや。ダメだ。アンの体調が日に日に悪くなって来ている。今日中に持って帰らないとどうなるかわからない。」


私は何も言えなかった。


「でもあいつは広場の真ん中でお食事中だ。あいつがあそこにいる限り近づく事が出来ないぞ。」


ラックがそう言う。


沈黙とシーフウルフが咀嚼してる音が周囲に広がる。


「.................リーティエお前に頼みがある。」


ミッドがそう切り出して話出した。


「お前があいつをこの広場から引き離すんだ。そのうちに俺とラックが広場を探す。」


ミッドから驚くべき提案をされた。


「ミッド!それはリーティエの身が危険にさらされるぞ!」


「いいや。これしかない。お前もリーティエの運動能力は知っているだろう。この中で囮になって生き残る確率が高いのはリーティエしかいない。だから頼む。囮になってくれ。」


ミッドからそう頼まれた。

私としてもそんな事危険でやりたくない。

でも、この中でそれが出来そうなのは私だけだと言うのも分かる。

しばらく思案してるとミッドに両肩を掴まれた。


「良いのか?アンが死んじゃても?アンの為にも。頼む。お願いだ。」


アンには死んでほしくない。

私は右手を力の限り握った。


「わかった。私。やる。」


ミッドが複雑な様々な感情が入り混じった表情をしながら両肩から手を離す。


「あったら合図を送る。それまで惹きつけておいてくれ。頼んだぞ。」


私は頷き、その場を離れる。

音を立てないように広場の周りをぐるっと隠れながら進む。

出来る。私なら出来る。

ミッドとラックがいる位置とは反対側の位置に着く。

シーフウルフを見る。

まだ食事に夢中になっていて私に気づいてないようだ。私は唾を飲み込み落ちていた石を拾う。

行くぞ。

私は石をシーフウルフへと投げる。

石はシーフウルフの体へ当たり、奴は顔を上げて辺りを見渡している。

よし。ここまではいい。

もう一個石を投げ奴の気を逸らす。

今度はシーフウルフの近くに落ちる。


「グルルルゥ!」


シーフウルフが威嚇をしてこちらに体ごと向けている。

よし。後は逃げるだけ。

その時、魔力の波が鋭利な刃物のように向かってくるのが見え、

私は反射的に脇に飛び退けた。

私がいた所は無惨にも草むらが引き裂かれ、地面が剥き出しになっていた。


「ウ“ウ“ワンワンワン!」


まずい!見つかったか!?

私は広場から離れるように走り出す。

背後からシーフウルフの走る音がどんどん近づいてくる。

このままじゃ追いつかれる。

私は咄嗟に木に飛びつき急いで登る。

シーフウルフは高く飛び上がってその牙で私を噛みつこうとする。

ギリギリの所で牙は届かず、私の下へと落ちていく。

助かった。私は枝に足をかけ、シーフウルフを見下ろす。

どうやら奴でもこの高さまでは飛んでも届かないようだ。

私は一息着く。

すると奴は近くの木に飛びつき、木と前足と後ろ足が着くタイミングでこちらに飛びつき、また木に全ての足が着くタイミングで近くの木に飛びつき-

まずい。

私は急いで木の上へ上へと登っていく。

シーフウルフが私がいた場所へと飛びつく。

早く上に行かないとそう思った時に急に下から突風が吹き荒れる。

下を見るとシーフウルフが飛びながらこちらに迫ってくる。

そんなのあり!

私は急いで木にしがみつきながら体を反対側へと移動する。

シーフウルフが枝に体をこちらに向けながらすぐに飛びかかれるように両足を着ける。

まずい。

今度ははこちらに向けて飛びかかってくる気だ。

私もなんとかしないと。

ええいこうなったら一か八か


『神なる我らに更なる栄華を。』


私は祈りを口にし、空中へと飛ぶ。

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