第24話 震える大地 その4

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


大地を揺らす叫び声。

私とチェスターは思わず耳を塞ぎ蹲ってしまった。

この頭が割れるような鳴き声は覚えてる。


それはお父様と聖王都に訪れた時。

『はは、怖いか?』


私は今より幼かった時、騎士団の訓練に連れて行ってくれて、

確か騎龍騎士団の人にドラゴンを見せてもらって、


「なんだったんだ。今の。」


鳴き声が止み、チェスターが確かめるように呟く。


「ドラゴンだ。今の」


こうしちゃいられない。


「ドラゴン!早く!逃げよう!」


私がそう言うとさっきまで月を啄むように伸ばしていた体を今度は曲げ、地面へとまるで泳ぐように進む。

地面が揺れている。地面の揺れはやがてより強くなり、周りの家を倒壊させていく。やがて地面を突き上げる衝撃により私は打ち上げられる。


「リーティエ!」


チェスターのその叫び声がやがて遠くなっていく。

目がまわるような感覚に襲われながらも意識をしっかりと持てるように努める。

しっかりしないと!待っているのは死!

ドラゴンが一定の高さに行くとふと体が浮いた。

ここはどこだ。

辺りを振り返るよりも体が引っ張られる感覚にここはどこか気づく。

今は空中だ!しかも高い!


「ウアアアアアアアア!」


物凄い高さから落ちてるからか体が自然と広がり落ちていく。

物が地面に落ちると壊れる。

そんな当たり前の事が脳裏によぎる。

早くなんとかしないと!

私がなんとかしないと考えてると下の方からドラゴンが鳴き声をあげながら口を開けながら向かってくる。


早くなんとかしないとドラゴンに食べられる。

なんとかしないとなんとかしないとなんとかしないと!

慌てる思考に1つの記憶が蘇る。

そうだ。騎龍騎士団の龍を見せてもらった時ドラゴンに鳴かれて、その恐ろしさに私は思わず泣いてしまったんだ。

それでお父様に、


『良いか。騎士とはどんな時にも動じぬ物だ。恐れに支配されるな恐れを飼いならせ、恐れを自身の自由に操れば良き騎士になるだろう。』


そうだ。恐れに支配されるな恐れに支配されては何も出来ない。

お前ならこの状況をなんとか出来る。

恐れず龍を見つめたその時一か八かの策を思いつく。

ええい。悩んでる時間はない。やってやる。

私は握っていた剣を思いっきり振りかぶる。

龍はどんどん近づきその上顎から生えた長い牙をこちらに向ける。

さぁ、来い!


「イヤアアアアアアアアア!」


私はドラゴンのその長い上顎の牙に向かって思いっきり剣を叩きつける。

硬い牙は折れずだが、こちらも剣も折れてない。

だが、体重の差でこちらが

弾かれた事によりドラゴンから少し離れる事が出来、ドラゴンが私の傍を通り抜け登っていく。

ここからだ。出来るかわからないが肉体強化が使えたならこれも使えるだろう。

それはよくお兄様との追いかけこやメイドから逃げるために使った魔法。

こっちに来てから始めて使うけどなんとなく使えるような気がする。


『靴底よ。滑れ!-ラ スメル ド ヴァトス.ギシー-』


私は落ちながらドラゴンに近づき、魔力に包まれ、輝いているように見える私の両足をゆっくりと急勾配になっているドラゴンの背に付け、

ほんの一瞬バランスを崩しそうになったがなんとか整え、滑り落ちていく。

よし上手く行った。逃げる際窓から屋根へ飛び出して滑って降りていたこの魔法が上手くいった。

次はこの物凄い勢いで滑り落ちてるスピードを落とさないと。

こういう硬い甲冑のような魔物はどこが弱点か?


そうだ。良い事思いついた。

私はドラゴンの背を滑りながら端の方に移動し、飛ぶ。

甲冑は脇などの部位が剥き出しで弱点!


『力よ!-ボンピィア-』


頭に痛みが走る。これは使い過ぎの痛み。

今はこの痛みにかまけてる場合じゃない。

変則的に動く足の付け根辺りを両手で剣を逆手に持ち振りかぶり突く。

剣が深々と刺さり足を何本か斬り落としながら減速していく。


『止まれえええええ!』


ガクガクと剣が震えながらもなんとか力を緩めずに剣にしがみついた。

ようやく剣が止まりドラゴンに深々と刺さった剣にぶら下がっている状態だ。

ふぅ、なんとか止まった。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


ドラゴンの鳴き声。だが、その声には怒りも含まれているようだ。

見るとドラゴンの体を倒しながらこちらへと頭を近づけている。

まずい。逃げないと。

私は剣を振りかぶるように抜こうとする。


こんな時に何かに剣が引っかかった。

さらに体を倒しながらドラゴンがこちらへと襲い掛かろうと鳴く。

不意にドラゴンの体が傾き、剣が私の体重によって抜けた。


よし、と思った時にはまた体を地面に引っ張られるように落ちる。


「うわああああああああ!」


私はまた落ちるだが、下に木が見えたので腕で顔を庇うよう木に落ちる。

何本かの枝を折り、体が枝に垂れ下がるように止まる。


何ヶ所か思いっきり打ちつけたのか体が痛むが私は生きてる。

安心したのも束の間、


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

怒りを伴った鳴き声が辺りに響き渡る。

鳴き声がやむと地面が揺れ、振動が木に伝わり大きく揺れる。

まずい。手を離したら死ぬ。

そう思い枝にしがみつく。

必死にしがみついているが酷い揺れで今にも手を離してしまいそうだ。

するとどういう事なのか木がゆっくり倒れていく。


『うお!うおおおおおおおお!』


私は倒れる木の枝に絶対に離すまいと腕に力を込めるもどんどん地面は近づいてゆき、地面に投げ出された。

全身打ち付ける痛みに思わず意識を手放してしまった。

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