第16話 善悪を決めるのは

「いらっしゃい!いらっしゃい!白パンに果物の混ざったパン!色々あるよ!」


「いらっしゃいませ!」


私達はパンを市場にて売っている。

パンはどんどん売れていく。


「あら、このパンは何かしら?」


「はい。それはえーと。」


「あぁ、それは中にジャムが入ったパンなんですよ。とっても美味しいですよ。」


「そうじゃあ、それとそのサンドイッチ貰おうかしら。」


「ありがとうございます。」


「ありがとうございます。」


この店は白黒両方売ってる他、種類に富んだパンが売りでその物珍しさと朝食にちょうどいいからなのかどんどん売れていく。


「パン。たくさん。売れる。」


「えぇ、あなた達が呼び込みやってくれるからどんどん売れていくわ。本当にありがとう。」


「いえ。そうでわないですね。」


私はそう言いながらパンを補充していく。


しばらく忙しくしてたが客が捌けてきた。


「ふう、本当に忙しかったな。」


「そうだな。ようやく一息出来るよ。」


ミッドとラックがそう言ってると


「よう。お前ら。元気にしてるか」


そう話しかけてきた年が私と同じ頃の少年が複数人を引き連れてやってきた。


あの顔は見覚えがある。


「マック。一体なんのようだよ。」


「おいおい。そんな態度して良いのか?俺らは客だぞ。働いてるならきちんと頭下げて出迎えろよな。」


マックの後ろにいた人はこちらにも聞こえるように笑った。


「うるせぇ!どうせお前たちは金なんて持ってないだろ。だったらどっか行けよ。」


「あーん。金ならあるぞ。働いてお金をたっぷり持ってるお前たちが払うんだがな。」


また後ろの人達が大声で笑った。


「それ以上近づくな!」


ミッドは腰に携えた剣を抜いた。


「お、剣かよ。立派な剣だな。まるで勇者様になったようだな!見ろよ勇者様が剣を抜いたぞ!」


また後ろの人達が大声で笑った。


「近づくな!近づくなら」


ミッドが警告を発している時、パンを載せた二輪車を見張っていたアンが悲鳴をあげた。

見るとアンが突き飛ばされて二輪車からパンが大量に入った籠を一つ盗まれた。

私はすぐにアンに近寄った。


「大丈夫?」

「私は大丈夫。それよりパン!」


パンを盗まれた。追いかけないと。


「ミッド!頼んだ!」

「お、おい!」


私はパンを盗んだ人物を追いかけた。


『待て!待ちなさい!』


中身が入った重い籠を抱えながら犯人は裏路地を走っていく。

仕事の為だ。絶対捕まえてやる。


しばらく走っていると奥の方が行き止まりになっている所に来た。

そこには今にも倒れてしまいそうなボロい木の小屋があった。


『出てこい!ここに逃げ込んだのはわかってるんだぞ!』


私が少し小屋に近づくと私と同い年ぐらいの女の子が1人入り口の布をくぐって出てきた。


私は追いかけた事で息が上がった呼吸を整え、言葉を発する。


「パン!返せ!」


「嫌だね!絶対に返さないて言ったらどうする?」


私達は睨み合う。

相手がその体で襲いかかってきた。

それを相手の向かってくる力を使い投げ飛ばす。

「ぐぅ!」


悶える相手をそのままにし、小屋に近づく。


「待て!」


相手は泣きながら私の体を掴む。

私は暴れて自由になった腕を使って背後に肘打ちをし、振り払う。

そのまま体に蹴りを叩き込み。


「うぎゃ!」


相手はかがみ込む。


私は一瞥して小屋に近づく小屋の手前まで来て入り口の布へと手を伸ばそうとした所で足首を掴まれる。


「ま、待て」


ここまで痛みに堪えながら這いずって来たのか、その顔面を砂利と涙でぐしゃぐしゃにしながら私を掴む。


『しつこい!』


私は足首の腕を振り払い胴体に1発蹴りを叩き込む。

相手は蹲るようにその場に倒れる。


ようやく動かなくなったのか。

さっさと盗まれたパンを取り返して戻ろう。

そう思い布を思い切り捲る。

そこには-


「あぁ!」


そこには-


「ああああああああ」


そこには痩せ細った3人の小さな子供が泣きじゃくりながらパンをうまいうまいとガツガツと食べていた。


じゃあ、私はこの子達を護ろうと勇敢にも立ち向かったあの子を打ちのめしたの。


「マックが提案したの。」


女の子が私の後ろから語りかける。


「市場で、俺達が盛大に発破をかけて注意を引くからその間に盗めて。」


こんな、じゃあ私は何!騎士の風上にも置けないじゃない。


『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。』


私はその場で泣き出した。


しばらく泣き続けてそれから乱暴に手で拭う。


「大丈夫?」


女の子に話しかける。


「いてて。なんとか。」


女の子は壁に寄っ掛かるように座ってる。


私は近づき手を翳す。使えるかわからないけどせめて物謝罪をしたい。


『“痛みよ。癒えよ”-セフェイマロ ギルエ-』


私の手から小さな光体が発せられ、女の子を包んでいく。


「痛みが。」


「ごめんなさい。」


私は一言謝罪し、その場を離れる。


「お、おい!パンは良いのかよ!」


後ろから女の子がそう声をかける。


私は振り返らず、その場で返答した。


「パン!盗まれた!犯人!逃げられた!私!何も知らない!」


そう言って走りだす。ありがとうと言う声を振り切って。


それから元の売場に戻った。


「あ!リーティエが戻って来たよ!」


アンが最初に出迎えてくれた。


「リーティエ。大丈夫?」


私は頷いた。


その後女性の元に戻った。


「パン。盗まれた。ごめん。」


言葉がわからないなりに謝罪をする。


「何してるんだよ!これじゃギルドの仕事不合格になるじゃん!」


「まぁまぁ、ミッド気持ちはわかるけどリーティエだけの責任じゃないから。」


「そうだよ!私がちゃんとしてなかったから」


「はいはい!喧嘩はそこまでだわ。盗まれたのは悔しいけどリーティエちゃんが無事なら良いわ。さぁ、そろそろお昼が近いから忙しくなるわよ。」


こうして昼の販売を始めた。

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