こどもカレー 120円
「パパ~~」
エレベーターで3階に向かう道中、誤発注の揉み消しか、死体かと頭を悩ませたが、飛び出してきたのは、1人の少女だった。
「だから、パパじゃないんですってば」
憔悴した間仁田さんは少女の扱いに困っているようだった。
「隠し子ですか!?」
「そう言われると思って、隠したんですよォ!」
赤いワンピースを着た彼女はどこか懐かしい雰囲気をまとっていた。3、4歳だろうか。どうしてこんな少女が閉店後の有隣堂にいるのだろう。
少女はお腹が空いているようだった。書店の一画を食品物産展にした、内野さんから差し入れでいただいた干し物を渡すと喜んで食べていた。
「信じてくださいよォ。トイレに行ったあと、1階エレベーター前にこの子がいて、『パパ』なんていうもんだから」
「なんで僕たちに相談しないんですか」
「隠し子かって騒ぐからですよォ」
椅子に座って足をパタパタさせていた少女だったが、飽きたのか「カレーが食べたい」と駄々をこね始めた。
「お名前、なんて言うの?」渡辺さんがなだめるように聞いた。
「みよこ!」
「みよこちゃんは、どうして今日ここに来たの?」
「パパとママとカレーを食べに来たの」
5人で顔を見合わせ肩をすくめる。一体どうしたらカレーを食べに有隣堂に来ることがあろうか。
「カレーねえ」
「カレーかあ」
「カレー……?」と少女の頭をなでていた渡辺さんの手がピクリと止まる。
「ブッコローさん、有隣堂って昔、地下にレストランがあったんです! 私、昔のメニューを見せていただいたことがあって、そのメニューに確か『こどもカレー』があったんです……!」
――私が書き留められるのは、ここまで。
ブッコローは少女と地下であるB階に向かった。エレベーターの目盛りを間仁田さん、渡辺さん、鈴木さんと私は3階で見守っていた。
カタカタと音がして、エレベーターが戻ってくる。目盛りが2.5階を指した。
ガシャンと蛇腹の中扉の開く音がする。水色の外扉が開かれると、少女はおらず、ブッコローだけがぽつねんと佇んでいた。
「めっちゃ旨そうな匂いだったわ。あー」
倒れたブッコローを抱えると、絞りだした声で、
「腹減った……」
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