嘘の焦点
嘘?
一体間仁田さんがどんな嘘をついたのだろう。帰る支度をしていたのを引き止められ、私は少しむっとした。
「嘘なんて、ついていないですよ……」
間仁田さんの瞳は心ここにあらずというように見えた。しかしすぐに、それは普段通りではないかと納得した。
「どうして僕たちが5階に行ったことをご存じだったんですか」
ブッコローはまっすぐ間仁田さんを見据えて言った。それは、目盛りを見たからではないだろうか。各階には、目盛りがあるし「4.5階」を指していれば、それは私たちが5階にいる証明になる。
――待って。間仁田さんはお手洗いに行っていたはず。私たちが1階に戻っていたのと同じタイミングで戻ってきた。その間に目盛りを見ることは不可能だと、ブッコローは言いたいのだ。
「トイレから戻ってきたはずのあなたは肩を弾ませていた。誤魔化せませんよ、年なんだから。トイレがいくらここから反対側で遠かろうと、そんな風にはなりません。あなたは目盛りが見える場所にいた。5階は僕たちが到着したとき、誰もいなかったので3か4階でしょう。そのどちらかの階、X階に行ったことを僕たちに知られたくなかったあなたは、トイレに行くと言った手前、1階まで戻る必要があった。X階から1階に階段で降りて、僕たちがエレベーターで降りてくるのをその角で待っていたんでしょう?」
焦点の合わない目で、間仁田さんはぽかんと立ち尽くしている。
「正直に話してください、間仁田さん」
「か、勘弁してくださいよォ」
「あなたは文房具の仕入れの全権を握る男。恐らく、3階の文具売り場でしょう。3階には地球儀も置いてある。あなたなら勝手をご存じのはずですからね。それじゃあ、ちょいと行きましょうか」
そして、事も無げに蛇腹の中扉を開いた。
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