❅4-5 『葉都』へ
『氷都』から『葉都』まではそこまでの距離は無い。精々二十里(おおよそ八十キロほど)といったところだ。
そんな、本来三日は掛かるその距離を、僅か半日で行く者たちがいた。
『氷鷹』だ。
彼らの移動手段は主に馬を用いたものが多いが、今回は火急を要する会談だったために空を利用した手段を選ばざるを得なかった。
「あっはー! やっぱ空だと速いねえ! 『葉都』まであっという間だ!」
「こら偃月‼ はしゃぐんじゃない、危ないだろうが!」
「そういう雨月様もあんま動かないでください。落ちます、落ちちゃいますって」
「……少し黙ってくれないか?」
「「「はい、すみません」」」
『氷都』と『葉都』の国境近く上空にて、氷で作られた大鷹が二羽、猛速度で飛行している。その大きさは成人男性が二人ほど跨げる大きさをしており、その背に搭乗しているのは氷月と偃月、雨月と香紆のペアである。
これは氷月の得意とする氷術だった。
大気中の水分を凍らせ、脳に思い浮かべたものを創造する力。彼のこの力は王族の中でも右に出る者はいないほどに卓越した才だった。
集中力が切れれば水となり溶けて形が崩れる。この男はそれを二羽同時並行で術式を展開している。よほどの気力や集中力がなければ成し得ない技術だった。
ここから落ちて徒歩で向かいたければそうしろ、と言わんばかりの眼光を氷月は後方に控える三人に向けた。三人は無言の圧力にごくりと喉を鳴らし、偃月に至ってはブンブンと大きく横に首を振って反抗の意志は無いことを必死に伝えていた。
~❅~
「……陛下、もう少しで『葉都』の領域内に入ります」
「分かった」
氷月は雨月の合図に、大鷹の首筋を二回軽く叩いた。すると大鷹はゆったりと降下を始める。
『葉都』の領域内に何やら人のような影が見えた。あれはおそらく『葉都』の王、苑葉の臣下だろう。
(……嫌な予感がするな)
こういう時の氷月の勘はよく当たる。
氷月は三人に着陸時注意するよう伝えた。三人は素直に頷き、そして着陸に備えた。
『葉都』の国民性は温厚さが目立つ。『氷都』の民と比べ、能力を持たぬ一般人が多いのだ。
勝ち目しかない『氷都』がこの会談で最も必要な意識は――〝冷静さ〟だろう。
「……決して殺すな。何を言われようとも、何をされようとも反撃してはならない。……偃月、守れるな?」
「余裕」
そう答えた偃月の瞳は『氷鷹』特有の鋭き眼光を灯していた。何に対しての「余裕」という返答なのか。妙な胸騒ぎに氷月は顔を顰める。
すると雨月が氷月の反応に気づいたらしく、目線が合った。氷月が小声で「偃月が暴走しそうになったら止めてほしい」と伝えれば、雨月も同じことを思っていたのだろう、すぐに「かしこまりました」と答えた。
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