4-4 出立と誓い

 仮部屋を抜けた回廊から玄関に向かえば、出立する直前だったのだろう、氷月たちと緑黎が会話をしていた。

 緑黎の顔色はほんのりと青い。それもそのはず、愛する夫を戦地へと向かわせるのだ。並大抵の精神では気丈に振る舞うことなどできない。


(……すごいなぁ……)


 わたしなら、できない。わたしは緑黎のように強かな心を持ち合わせていないから。

 自信を無くして俯いていると「花檻?」とわたしを呼ぶ氷月の低音が耳に届いた。ハッとして顔を上げると、わたしがこの場に現れたことに純粋に驚いている――と思われる顔をした氷月がそこに立っていた。


「お、はようございます。氷月陛下、緑黎様」

「おはよう」

「おはよう、花檻姫。ふふ、可愛らしい寝癖がついているわ」


 緑黎が近づいてわたしの髪をそっと撫でる。寝癖なんて気にしてこなかった人生だったけれど、なんだか心がこそばゆい感じがして急に恥ずかしくなった。同時に、温かい気持ちになって、心が満たされる。


「お姫さま? どうしたの?」

「お、お見送り! ……に、来ました……」

「そうだったんだ! ありがとうね、お姫さま」


 ぱあっと満面の笑みを浮かべる偃月に、わたしの心はさらに満たされた。お見送りに来てよかったと、そう思った。


「花檻」


 心が綻んでいると、氷月がわたしの名を呼んだ。呼ばれた理由に少しばかり心当たりがあったため、わたしは「はい」と頭を下げ答える。周りは物珍しそうな顔をしてわたしたちを見ている。


昨日さくじつの件、頼んだぞ」

「はい」

「あらあら。わたくしに何か隠し事?」

「花檻にお前のことを頼んでおいた」

「まあ。では、今日はわたくしのお話し相手になってくださるのね」


 嬉しいわ、と微笑んだ緑黎の目尻には少しだけ泣いた跡が見えた。


「では……行ってくる」


 彼らが戦地へと赴きその役目を終えるまで、わたしは緑黎を守ろう。

 目の前で悲しげに氷のように澄んだ瞳を揺らした『氷鷹』の王に、わたしは誓った。

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