第65話 シルさんと未知のどちらを………

「じょうくん?」


(シルさんの声だ!)


「は、はい!俺です」


「ふふっ、さっきの後、すぐに電話ってなんか変だね」


「俺もなんかむずかゆいです」


俺は握手会の時にシルさんの手を強く握ったのには理由があった。

俺の携帯番号と「いつでも良いので電話ください」とメモを手渡ししていたのだ。


後ろに女性陣がいたのはわかっていた。

俺は気付かないふりをしていたから

本人達はばれていないと思っているだろうが。


あの握手会で俺がシルさんにアクションを起こせばあの人達は邪魔をするのが目に見えている。


だから秘密裏に動いたのだ。


まさかこんなに早く電話があるとは思ってもみなかったが知らない番号からの着信。そしてシルさんだった。


俺にとっては最高の流れだ。


「電話しちゃった」


「お仕事大丈夫なんですか?」


「終わったよ。長かったの。2週間もここでイベだったから。今日が最終日だからこの後は帰るだけなの」


「お疲れ様でした。今日も素敵でした」


「あっ、うれしくてついすぐに電話しちゃったけど他の子達は大丈夫?」


(うれしくてつい?それはどういう意味なんだ...俺と話せることが?それとも仕事が終わって?)

俺はシルさんのちょっとした言葉にも敏感になっている。


「大丈夫です。俺だけ離れましたから。みんな乗り物のってますよ」


「よかった。じょうくんからの手渡し、ドキッとしちゃった。ファンの人はよく手渡ししてくるけどじょうくんからのは全然違うね」


(それどういう意味なんですかぁ。やっぱり俺のこと気になってる?)


「俺もあんなことしたの初めてなんでドキドキしました」


「じゃあ、お互い初体験ってことで」

電話の向こうのシルさんの顔が目の前に浮かぶ。

顔を傾けてのぞき込むように俺を見てくるシルさんの絵が。かわいすぎる。やばい!想像しただけで。


「シルさん、会いたいです」

俺は直球を投げつけた。


............


シルさんからの返事がない。

答えをもらうのにこんなに長く感じたことは無かった。


「...... いいよ」

シルさんの声は優しかった。


俺はうれしいと言うよりも答えが返ってきたことにホッとした。


「ありがとうございます」


「でもいいの?あの子たちは大丈夫?」


「なぜか好意を持たれているみたいで......」


「好きな子、いないの?くるみちゃんはいいの?」


「みんなのことは好きですが恋愛感情は......」


(あっ!?未知!未知のこと忘れていた。

 シルさんと会って完全に頭から消えてしまった)


「あれ?その反応は......」


「俺、シルさんのことが好きです。

 でも俺、他にも大切な人がいて......」


「私は私だけを見て欲しいな」


「ごめんなさい。浮ついた心で」


「私はじょうくんの素直なところ、好きだよ」


きゅん、俺の心が一気にシルさんの鎖で締め付けられる。


「やっぱりシルさんのこと好きです」


「じゃあ、私1人だけを選んでくれるなら

 来週の日曜日、23時にあの公園に来て。

 私、待ってるから。他の子が忘れられないなら来なくていいから」


「は、はい。ちゃんと自分と向き合います」


「いい子。じゃあ、またね」


シルさんの『じゃあ、またね』、この言葉と声が俺は大好きだ。

儚く消えていくけどまた会える希望も残るこのフレーズ。

余韻に浸ってしまった。


プツ、電話が切れた。


お別れの挨拶も言えずに終わってしまった。


でもシルさんと初めて電話ができてうれしかったがいまはもう頭のあちこちに未知の顔が浮かぶ。


(俺はどっちを選べばいいんだ!)


その後、俺はずっとこの問題に悩まされる。


シルさん、未知、どちらかを選ぶ。

普通にかんがえれば幸せな悩みのはずだが

俺にとってはそんな簡単な話では無かった。


1人ベンチに座り込み考え始める。


2人とも好きだ。


シルさんは憧れであって好きではないのか?

いや、誰が一番頭から離れないかっていうと

シルさんだ。


じゃあ、現実に好きなのは誰かっていうと

未知だ。それは間違いない。

好きなのは未知。


未知以上に好きになるかもしれないのがシルさん。

大切にしたいのは未知。

付き合いたいのはシルさん。


こんなことをずっと考え続けてしまう。


「もう!こんなとこにいた。携帯ならしたんだよ」


目の前にじんのがいた。

その後ろにはみんなだ。


「あ、あ、ごめん......」


「じょうくん、顔色悪いよ。大丈夫?」

くるみは俺のことによく気付く。


「ちょっとあたまがぼーっとして」


「しんどいならもう帰る?」

くるみは相変わらず優しい。


くるみとあのまま付き合い続けていたら

こんな状況にはなっていなかっただろうに。

それが一番幸せだったんじゃないかってついおもってしまった。


「いや、大丈夫だよ。みんなで遊んできて」


「みんなでかえりましょう。十分遊んだし

じょうくんにも相当負担かけたしね。異論はある?」

ももさんが男らしく舵を取る。


「かえりましょ~」

みんなが声をそろえて了解する。


みんなはおれが体調悪いと思い込んで気を遣ってそっとしてくれる。


「じょうくん、夜の約束はまた今度でいいからね」

杏子先生が耳元で小さくささやく。


(助かったぁ。完全に忘れてた。

怪我の功名ってやつだ。ありがたい)


忘れてはいたが悩みの種であったはずの

問題が勝手に解決してくれた。


それからはさっきのことをずっと考えてしまう。

未知、シルさん、くるみ......

(いや、増えてる1人!悩みの種が増えるだけだ)

未知、シルさんのことをかんがえようとする。


気付いたら家に着いていた。


「お兄ちゃん、お風呂入って寝よ?

 今日はお風呂1人ではいる?」


「ああ、そうだな... いや、一緒にはいろ。

 お兄ちゃん大丈夫だから」


じんのはうれしそうな顔をした。


「VSJ楽しかったね。未知お姉ちゃんも来れたらよかったのにね」


「あっ!」


「どうしたの?おにいちゃん」



……………………………



あとがき


シルさんと未知のどちらを選ぶのか。

ぜひ楽しみにお待ちください☆


もうすぐ一章が完です。

それに合わせて新作も投稿しますね!


匂いを嗅がせたい『まりさん』と

匂いを嗅ぐと気を失う『ぼく』


こちらもぜひお楽しみにお待ちくださーい☆


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