第63話 ついにシルさんと女性陣の握手会

5人は一致団結していた。

シルさんが登場すると女性陣はなぜか一時休戦して対シルさん包囲網を敷いた。


「じょうくんを探すよりもまずはニャン銃士のイベ会場に行きましょう」

ももさんがシルさん包囲網の隊長だ。


「まずは後ろの方から探しましょう。先輩に見つからないように」

あかねちゃんは軍師だ。


この2人が実質、この包囲網の要だ。


イベ会場は前の方には子供達とその親が陣取っている。

中間ぐらいには声優の親衛隊らしきオタクたちがギラギラした目で立っている。

後方は興味のない付き添いのパパかママが気だるそうに立っていた。


「しるくちゃーん!!」

オタクたちがイベが始まる直前にコールをしている。


「それでは本日のニャン銃士のニャンニャンガオーンの大変身をお送りしまーす!」

司会のお姉さんが開会の宣言をする。


「まずはニャン銃士の登場だ!」

着ぐるみを着たニャン銃士が登場する。


わぁー!パチパチ!

子供達は待ちに待ったスタートに喜んでいる。


「次はコラボイベント!声優さんの登場だ!」


うおーー!まってましたぁー!

オタクたちの黄色い声援がこだまする。


シルさんが登場した。


「シールシルシルシルシルシール!

 シールシルシルシルシルシール!

 シール!シール!シィーールーーク!」


シルさん親衛隊らしき人たちが全員で声を揃えて踊りながらコールをしている。


「シルちゃんてこんなに人気なのね。

 遠くて顔がちゃんと見れない」

杏子先生とくるみは見たことのないシルさんの

顔を見てみたい。


「あっ!お兄ちゃんいた!あそこ」

じんのが俺のことを探し当てる。


前方の方に陣取っている。

周りは子供とお母さんばかりだ。

高校生がそこにいると流石に目につく。


「前にいるなら私たちは真ん中ら辺に行きましょう」

5人は気づかれにくい位置で前の方に移動する。


「シルさんてかわいい。顔も声も雰囲気もかわいいオーラが全開」

くるみは見惚れていた。それは杏子先生もあかねちゃんも同じだった。

まさか、こんなにライバルが強敵だとは思わなかった。

全員の第一印象が一致する。


ここで全員の意思が勝手に統一される。


なんとしても阻止せねば!


「シルーー!」

じんのが大きな声を出した。


ももさんが慌ててじんのの口を塞ぐ。

じょうくんならじんのの声に気づいてしまう可能性があるからだ。

でも気づいたのはお兄ちゃんではなかった。

シルさんだった。


壇上からシルさんがニコッとしてじんの目掛けて手を振る。

ももさんとシルさんの目が合う。

それでも驚かずに笑顔をキープするシルさんはプロだ。


じんのは手を振ってもらえて大喜びだ。


5人の前にちょうどいた親衛隊は自分たちに手を振ってもらえたと思い大興奮だ。


親衛隊の盛り上がりで俺はみんながいることに気付くことができない。


笑顔のシルさんにももさん以外は釘付けだ。


イベントは盛り上がりながら進んで行った。


「はーい!ニャン銃士とのコラボイベントは次が最後。声優さんたちとの握手会でーす!」


親衛隊は猛ダッシュ、その後に子供と親たちが並ぶ。

遅れて俺が列に並ぶ。おれはそこでダッシュをかますような子供ではなかった。俺が後ろの方に並んだため女性陣はほぼ万事急須だ。

俺のすぐ3人後ろに5人は並ばざるを得ない。

振り向かれたらおしまいだ。簡単に気付かれる。


それでも俺が振り向くことはなかった。

なぜならシルさんの顔をずーっと眺め続けていたからだ。


じんのを除いた4人はバレないでほしいと願いながらもあからさまにシルさんに見入っている俺を見て歯痒い思いをしている。


じんのは1人俺にバレないように前の人の陰に隠れて身体を細めて頑張っている。


握手会も終盤に近づき、もうすぐシルさんと握手する番だ。


3人はバレても仕方ないくらい近くまで2人に近づいて耳を傾ける。

ももさんだけシルさんと顔見知りなので普通に並んでる仕草を見せる。


ついに俺の番だ。


「シルさん、会いたかったです」

そういうと俺はぎゅっとシルさんの手を握りしめた。


「わたしも会いたかったよ。じょうくん」

シルさんもぎゅっと手を握り返す。


このシルさんの受け答えは仕事だからなのか、

プライベートの意味でなのか

女性陣はわからなかった。


シルさんの顔はうれしそうだが、少し恥じらいがある。

普通ならこの女の子は相手の男の子に気があると思ってしまうほどだ。

でも声優は役者でもある。だからみんなに同じような態度を取ることも考えられる。


「後ろにじんのちゃんとももちゃんいるよ」

シルさんは小声で俺に教えてくれる。


「知ってます。だからコレなんです」

俺も小声でそう言って握手をさらにぎゅっとする。


「じょうくん、今日は来てくれてありがとね、またね」

握手会は1人10秒ほどだ。

シルさんは作り笑顔でほかのファンと同じように俺のことを扱った。


(とくに何もない!)

そう思ったのはじんの以外の4人だ。

もっと何かしらの反応がどちらにあってもおかしくない。

それがなかった。

みんな、うーん??と首を傾げる。


「じんのちゃ〜ん!来てくれたんだ〜」

ついにみんなの番になった。


「シルちゃん、久しぶり〜!」

じんのは満遍の笑みで手を振る。


「じんのちゃん、元気にしてた?」

ニャン銃士のシルーの声でじんのに話しかけてくれる。


「シルー!うれしい!元気だよー」


「いつもいい子のじんのちゃんにはこれをあげよう!」


シルさんは非売品のシルーの人形を差し出した。


「やった〜!いいの?これもらっても」


「いいんだよ!シルーからじんのちゃんへプレゼントだよ」


「そろそろ時間でーす」

スタッフが10秒を見計らって声をかける。


「じんのちゃん、またね」


「うん、ばいばい!またお家に遊びにきてね」


じんのは列の横に逸れた。


「ももちゃんもじんのちゃんと知り合いだったの?」

じんのの次はももさんだった。


「そうなの、じょうくんにシルちゃんのこと伝えた時に横にいたの。それがきっかけでここまで一緒に来たの。シルちゃんはじょうくんのこと好きじゃないよね?」

みんなが知りたい確信をつく質問をする。


「……………」

シルさんは返事をしない。


「返事をしないってことはその気があるってことよ?

わたし、じょうくんのことが好きになったの。奪っていい?」


「だめっ、………いや、でもわたしが決めることじゃないし」

とっさにだめっと言葉に漏れてしまう。


「シルちゃんの気持ちがわかった。ライバル多いから気をつけてね」


「え?…………どういぅ………」


そういうとシルさんの言葉の途中に持ち時間の前にもかかわらずももさんは列を離れた。


シルさんは仕事でここに来ている。切り替えた。


「こんにちわ。今日はありがとうございます」


「初めまして。ファンではなくライバルです」


「はい………??」


「わたしがじょうくんの初めていただきますから」

杏子先生はにらみはしないがライバル認定はしていた。


「あっ、じょうくんのお友達?いや、先輩?かな」


「担任です!」


「えっ!まさか杏子ちゃん??」


シルさんは大きな声を出してしまう。


…………………………………


あとがき


ついにシルさんと女性陣が火花を散らし始めました。物語も佳境です。


引き続きお楽しみに!


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