第1.5話 くるみと別れるきっかけとは………

くるみと別れるきっかけとなったのは

高校1年の3月初旬だった。


「ジョー、コウヘイ、バイト代で

 初キャバクラ行ってみようぜ!

 せっかくの初めてだ、

 ここら辺で1番高級なお店にいってみよー!」


高校の同級生のタカのこの一言が

くるみと別れるきっかけの始まりだった。


「きゃー!なんかかわいくない?」

「肌がピチピチな気がするぅ」


コウヘイとタカに付いたホステスが甲高い声を上げる。


「何歳なの?3人は」


「僕たちは大学生です。

 人生経験のために初めてきました!」


コウヘイはノリよく大きな声で受け答えする。


高校生だとキャバクラには入れないので

大学生ということで口裏合わせをしていた。


コウヘイもタカもノリノリで

きれいなお姉様方と話している。


(付き合いだから仕方ないか。

 コウヘイもタカも楽しそうだし、

 ま、いっか)


俺にはもったいないくらい素敵な彼女くるみがいる。こんなところには付き合いで仕方なく来ている。


10分ほどしたらタカが声を掛けてきた。


「おまえらトイレ行くぞ」


コウヘイと俺はタカについて行った。


「キャバクラって最高だな!

 コーヘイ、ジョー」


タカは用をたしながら

目をキラキラさせて話かけてくる。


「お前ら知ってるか?

 ホステスのお姉さんたちは

 パンツのラインが見えないように

 みんなTバックを履いているんだそ!」

コーヘイがうんちくをたれる。


「まじか!このあと見てみる。

 普通に座っていてもパンツも

 見えそうだもんな。ここは楽園だな」

タカは手を洗いながら喜んでいる。


(Tバックの存在理由って

 こういう世界のためだったんだ)

俺は少し感心をしていた。


トイレから出るとそれぞれのホステスさんが

おしぼりを持って待っていてくれた。

ちょっとした感動を覚える。


すれ違うホステスさんの後ろ姿をみると

確かにパンティラインが出ていない。


(本当にTバックなんだ)


自分には関係ない世界だなと言い聞かせる。


そう思っても視線がホステスさんのお尻に

目がいってしまう。

横を歩いて通るホステスさんのお尻を見てしまう。


「じょうくん、わたしとお話しするの、

 楽しくないかな?」


俺の横に付いてくれたホステスさんが首を傾げてのぞき込みながら優しい顔をして聞いてきてくれた。


「いや、おれ、彼女いるんで。

 付き合いで来ただけだから」


「ふふっ、知ってる」


「えっ!?なんで知ってるの」


「さあ、なぜでしょう??」


そのホステスさんは意地悪な表情を見せながら

人差しを指くるくる回していた。


「お姉さんは何でも知ってるの。ふふっ」


年上のお姉さんなのにいたずらっ子っぽい表情に少しドキッとしてしまった。


年上のお姉さんに

『お姉さんは何でも知ってるの』って言われると見透かされているかのような恥ずかしさと

なんでもわかってくれているような優しさと

お姉さんの思い通りにされてしまうエロさがある。


「くるみのこと知ってるとか?

 学校でもこの辺でも有名だし」


「彼女くるみちゃんていうんだ。

 かわいい名前だね」


「えっ。くるみつながりじゃないんだ......」


「じょうくん、もしかして高校生?」


(ドキッ)


おもいっきり顔が引きつってしまった。

お店の中は暗いし表情まではわからないはずだ、と思い込む。

そして冷静に何事もなかったように答える。


「大学生だよ。高校生がくるわけない

 じゃん。こんなところ」


「じょうくん、うそつくの下手ね」


ホステスさんはそう言いながら俺の鼻を指で

ツンと触る。


一瞬、時が止まった。

自分の鼓動が聞こえる。


それでいて鼻先がなぜか心地いい......


うそがバレたあせりかそれとも......


何秒たったのだろう。


心地よさに浸りすぎた。慌てて俺は言う。

「うそじゃねーし」


「いいの、いいの、

 お姉さん黙っててあげるから」


ホステスさんは自分の人差し指をその柔らかそうな唇に当てて「しーっ」というジェスチャーをしている。


「だから違うって」


「ムキになってかわいいっ」


ホステスさんは両手で俺の顔を包み込んだ。


「大学生は学校って言わないよ。

 学校って言うのは高校生まで」


俺は返す言葉がなかった。


(ごめん。タカ、コウヘイ。

 しくったわ。おれ)


高校生では入店できない。

追い出されると思った。


恐る恐る聞く。


「2人連れて出ていけばいい?」


「お姉さんはだまっててあげるって

 さっき言ったよ。

 でもお姉さんの言うことを今日だけ

 聞いてもらおうかな」


「聞けることなら聞くよ」


「じゃあ、この時間だけはお姉さんのこと好きになって......」


明るい声で話しているけど

どこか少し寂しさも混ざったような声だった。


そういうとそのホステスさんはいろいろと話し始めた。


気がつけば1時間があっという間だった。

こんなにも楽しい時間が過ごせるのかと思うほどであった。


キャバクラというところがすごいのか

そのホステスさんがすごいのか

気付いたら話が止まらなくなり

すごく楽しくなっていた。


「じょうくん、お姉さんのこと

 好きになった......?」


いままでは明るい声で話してくれていたのに

最後の一言は妙に静かに照れるような言い方だった。


くるみがいなかったら

「おねえさん、すきです」と言ってしまいそうだ。


「くるみの次に好きですよ」


彼女がいる俺からすると大賛辞になる言葉を発したつもりだ。

それくらいこの1時間は楽しかった。


「2番はイヤかな」


小さな声で、聞こえないくらいの声で、

そっとつぶやいた。


俺はなにかひっかかった。

でもそれが何かはわからなかったが

そのホステスさんには何か悲しいことが

起きているんだと思わされた。


「また会おうね。今度は大学生になってから来てね」


耳元でささやいてくれた。声も明るい声に戻っていた。


そしてコウヘイとタカと3人でお店を出た。


「ももたん、まじでかわいかった。

 胸も大きいし太もももたまらなかったぁ」

タカは興奮が冷めていない。


「あかねちゃんもかわいかったぞ。

 年上なのに小さくてかわいいのが

 たまらない」

コウヘイも興奮している。


「あっ!」


「どうした?ジョー」

2人が口を揃える。


「お姉さんの名前聞くの忘れた!」

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