第25話 じんののばか!シルさんが……
俺は大好きなはちみつ紅茶を煎れる。
自分の好きなモノを好きな人と
共有したいという気持ちは誰しもが持っているだろう。
じんのとシルさんはダイニングテーブルに座っている。
「おにいちゃん、はちみつ紅茶おいしい」
じんのが飲みやすいように少しぬるめに作ってある。
「シルさん、じんのに合わせて少しぬるめにしましたが
だいじょうぶですか?」
「おいしいよ。じょうくん、私が猫舌ってしってたの?」
笑顔で冗談ぽく聞いてくる。
「俺も『知ってた』って含みを持たせて言った方がいいですか?」
「いじわる...」
このやりとりは走馬灯のように公園での出来事を思い出す。
シルさんの『知ってた』と『いじわる』は
俺の心をぎゅっとわしづかみする二大言葉だ。
「ニャン銃士だから猫舌なの??」
じんのがシルさんを見つめて
素直に聞いた。
「じんのちゃん、その通りだよ。
シルーは猫舌なんだよ」
シルーの声でじんのの質問に答える。
「シルーって女の子なの?男の子なの?」
じんのはどちらなのか知らなかったみたいだ。
「シルーは女の子だよ」
シルーの声のまま答えてくれる。
「じゃあ、春休みは女の子しかこの家に来てないんだぁ」
じんのは春休みの最終日だからなのか
春休みの思い出を思いだしているみたいだ。
「あら、お友達がたくさん来てくれてたの?」
シルさんはじんののことをまだしらない。
だから悪気もなく聞いてしまう。
「じんの、ちょっとリビングでニャン銃士みよっか?」
「うん。みるぅ」
おれはシルさんと話をする時間を作った。
シルさんに家庭事情を伝える。
じんのの病気のこと。
いまは学校に行っていないこと。
いまは友達がいないこと。
この家に2人だけで住んでいること。
「いろいろ話してくれてありがとうね。
お姉さんで良ければ協力するからいつでもいってね」
「ありがとうございます。
そう言ってもらえるとうれしいです」
「わたしも自分のこと少し話すね」
「はい。聞きたいです。シルさんのこと」
「私は妹と2人暮らし。
賃貸のぼろアパートに住んでいるの。
お父さんとお母さんは事故で高校生の時に亡くなったの」
「えっ。シルさん。話しづらいことは話さなくて良いですよ。
思い出したらつらいこともあると思うので」
「じょうくんはいつもやさしいね。
大丈夫だよ。もう何年も前だから」
俺はやさしいねって言われて照れてしまう。
「妹と2人で生活しなきゃいけないから
前はホステスもしてたけどようやく今の声優の仕事が
軌道に乗ってきて食べれるくらいは稼げるようになったの。
だからホステスは辞めたの」
「それであのお店にいなかったんですね」
「えっ。じょうくんまた行ったの?」
「はい。シルさんに会いたくなって行っちゃいました」
シルさんがいないのに追いかけてお店に行ってしまったことがばれて少し恥ずかしかった。
「妹はまだ学生だから生活費と学費を稼ぐために
もしかしたらまたホステスに出戻りするかも」
「声優の仕事ってお金は稼げないんですか?」
「そうだね。ほんの一握りだけかな。稼げるのは。
本当に有名にならなければゆとりはないかも。
声優の子はだいたい掛け持ちで仕事してるよ」
「うちはじんのと2人だけだけど
親からの仕送りは十分あるので
もしよければご飯でも食べに来てください」
「家も大きいけど普段の生活費もそんなに困っていないの?」
「はい。両親が二人とも経営者なので
毎月十分な金額を銀行に入れてくれています。
逆にそれでじんのと二人で勝手にやってくれって感じです」
「私たちお互いに両親がいないみたいね」
「シルさんがよければいつでも頼ってください。
おれシルさんと会えるのうれしいですから」
「こらっ、そんな甘やかしちゃだめだぞ。
お姉さん、勘違いしてここに来ちゃうぞ」
シルさんは決まってかわいい声を出すときは
首をすこし傾ける。そしておれの顔をのぞき込む。
「来たくないの?」
おれはここぞとばかりにSになって問い詰める。
「...いじわる...」
キター!シルさんのMっぷり。
『いじわる』って言うシルさんの言葉も表情もたまらない。
この瞬間、この空間がすごく好きだ。
余韻に浸っていたのに...
「おにいちゃん、ニャン銃士おわったよぉ」
じんのが二人の空間にカットインしてくる。
シルはじんのを見てじんのとの会話を思い出す。
(春休みは女の子しか来ていない...)
「じょうくん、さっきじんのちゃんが春休みに
女の子しか来ていないって言ってたけど
じんのちゃんってさっきの話だと......」
シルさんはじんのに今は友達がいないのに
友達が来てるってどういうこと?と疑問に思った。
「シルお姉ちゃん、春休みはおにいちゃんのお友達が
いっぱい来たの。
いつも誰も来ないのに最近たくさん友達が来てくれるから
楽しいの」
「そんなにいっぱい来てくれたの?よかったね。
じんのちゃん」
「くるみちゃんに、みちお姉ちゃんに、杏子お姉ちゃん、
それにシルお姉ちゃん」
「じょうくんてもてるんだ~」
シルさんは少し口を膨らませてすねた顔をした。
「杏子お姉ちゃんは裸で寝てたの」
(!!)
おい、じんの!誤解を招くことを言うな。
「シルさん、裸では寝てないです。
寝まきがめくれてTバックだったのでじんのが
裸だと勘違いしただけです」
「へえぇ。Tバック履いているような人が
泊まっていったんだ」
シルさんの疑いのまなざしが心にグサッとささる。
「い、いや、ちがいます。杏子先生は学校の先生で
部活の合宿でうちに泊まっただけです。
たまたま本当に、起こしに行ったら...」
「じゃあ、合宿でくるみちゃんて子も
みちちゃんて子も泊まったんだ」
シルはくるみの名前を覚えていた。
じょうの彼あんなだったことも覚えている。
「杏子お姉ちゃんがくるみちゃんとみちお姉ちゃんは
三角関係って言ってた」
じんのはその意味もわかっていないのに恐ろしいことを言う。
『!!』
じんの!やめて。シルさんの誤解を招くようにな事は。
「へえぇ、くるみちゃんて彼女だったよね。
その彼女とはべつに
みちちゃんとも関係を持っちゃったの?」
「本当に誤解です!くるみとはもう別れました」
「えっ。別れたの...」
「はい。別れました。おれが好きなのはシルさんです」
おれはとっさに告白してしまった。
おれは、しまった!と思った。
言うつもりは無かったのに言ってしまった。
シルさんはおれを驚きながら直視している。
俺は言ってしまったと目をつむってシルさんから目をそらす。
「知ってる...」
俺の大好きなあのシルさんの言葉が聞こえてくる。
その言葉に目を開けてしまう。
そこにはシルさんの小悪魔な笑顔があった。
「えっ?」
おれはそれしか言えなかった。
「お姉さんはなんでも知ってるって言ったでしょ?」
「はい...」
「じゃあ、おねえさんはそろそろ帰るね」
「えっ?」
「今日は楽しかったよ。またね」
そう言うとカバンを持って玄関に向かう。
俺は不意に告白してしまって
テンパっていた。
「じんのちゃん、ばいばーい」
シルさんはシルーの声でじんのに挨拶をする
「またね、じょうくん...」
玄関先で振り返ったシルさんの顔は夕日に照らされて
とても美しかった。
その姿を見送るだけしかおれはできなかった。
……………………………
あとがき
第25話までお読みいただき
ありがとうございます♪
ここまで読んでいただけた読者の皆さん、
お願いがあります。
はじめて知りましたが『☆レビュー1つ』でもあれば次の日の注目作品にアップされるみたいです。
毎日☆1を頂くことが大切だと知りました。
お手数ですが
『☆1つ』でいいので押していただけると助かります。
よろしくお願いします(*゚▽゚)ノ
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