第26話 安眠妨害!古典の柳田先生
おれは苦悶していた。
意図せずとはいえシルさんに告白してしまった。
シルさんはそのあとすぐに帰ってしまった。
それは俺には気が無いってことではないかと考えてしまう。
印象が悪かったのはなんだ?
杏子先生の下着姿の話?
くるみと別れたこと?
みちさんと三角関係と思われたこと?
なにをとってもどうして急に帰ったのか
その原因となったのはなんなのかわからなかった。
いや、むしろ全部か………
問題は振り出しに戻ったことだ。
せっかくシルさんに会えてこれからアプローチが
できるようになると思っていた。
それなのにいなくなってしまった。
連絡先もまだ聞いていない。
またこちらから連絡が取れない。
それも急に帰ってしまうという始末。
でも「またね」とも言っていた気がする。
どうすれば良いんだ......
もう一度会わなきゃ。
「あっ!」
俺は気付いた。シルさんは工藤しるくだ。声優だ。
携帯を取りだしてすぐにゴゴる。
すごい!シルさんはWikuにのっていた。
!!
工藤しるくは芸名!
本名は非公開になっている。
シルも工藤しるくも仮名なのか!と携帯に突っ込んでしまう。
近々の声優のイベントも載っていない。
SNSは!?
探すが手がかりはなかった......
声優やってるならツイットーかインストをやっていて欲しかった。
打つ手なし......
いや、ひとつだけ手がありそうだ。
ファンクラブだ。
あれだけイベでは人気だったシルさん。
ファンの数も多かった。
そこなら情報も入ってくるかもしれない。
ちがう、ちがう、おれはファンなんかじゃない。
おれは個人としてシルさんと会いたいんだ。
ファンクラブに入ってシルさんに会えてもそれって
もうただのおっかけじゃん......
探す選択肢がなくなる。
そしていままでのような地道な草の根活動に戻ることになった。
絶対に今日はあの公園にシルさんはいないとわかりつつも
行ってしまう。
もちろんいなかった………
そして次の日、学校の新学期が始まった。
文芸部の部活はまだ始まらない。
新学期が落ち着いてから始まるみたいだ。
おれも高校2年生になった。
くるみとはまた同じクラスだった。
できれば離れたかった。
「俺の気持ちの整理がつくまで待って欲しい、くるみと向き合うから」
おれが合宿中にくるみに言った言葉だ。
春休み最後の日にシルさんと会えたのに
気持ちの整理をつけるどころか逃げられてしまった。
なにも進んでいない。
だからくるみに合わす顔が無い。
くるみは同じクラスでうれしそうだった。
それは俺に話しかけてきたくるみの声のトーンでわかった。
そして杏子先生が担任だった。
イヤな予感しか無い。
未知さんが上級生でよかったと心底思う。
おれは始業式の日もあの公園に向かった。
また三日連続で通ってしまう。
もう慣れたものだ。
でも眠い...
授業中でよく眠れるのは古文の授業だ。
おれは日本語を十分話せるし、
昔の言葉を理解してなんになるの?と思っている。
だから寝てしまう。
俺の将来の夢は公家になることではない。
古文の先生は柳田先生だ。
年は25歳くらいで知的な感じでまあまあイケメンだ。
女子受けはいい。
そして何より俺受けも良い。
なぜなら寝ていても見逃してくれるからだ。
高一まではそうだった。
だがなぜか急に2年になってからは厳しい。
寝たら起こされるのだ。
それも連続で。
おれは戸惑った。
でも古文で寝る習慣の付いている俺の身体は言うことを聞かない。
古文が始まると自動的に寝る仕組みになってしまったようだ。
「藍原!おきろ!」
柳田先生の声が飛んでくる。
「はーい」
おれは仕方なく顔を上げる。
「もういい。授業を受けるな。
廊下に立て」
(!!)
なんですかそれは。このご時世に廊下に立て!?
柳田の目は本気だ。
おれは渋々廊下に立つ。
(なんだ、柳田は。生理か?それとも女に振られたか?)
どっちにしても授業はさぼれるからいいんじゃねと思ってしまう。
次の日はなんと廊下で正座をさせられた。
これは体罰では無いのか!?
その噂が巡り巡って杏子先生の耳にも届いた。
おれは部活の時に直接杏子先生に確認された。
俺にとっては隠すことでもないしありのまま話した。
先生は部室を飛び出していった。
これも噂で聞いた話だが職員室で杏子先生が
柳田先生に血相を変えておれのことで
詰め寄っている姿を見た生徒がいたからだ。
次の日からは安眠の日々が訪れると思った。
違った。
柳田が陰湿になったのだ。
授業の問題のすべてをおれに答えさせるのだ。
もちろん古文という異国の言葉はしらない。
答えられない俺を見て最初はクラスのみんなも笑っていたが
いまではもうクラスのみんなは下向いてしまっている。
地獄の授業になってしまっている。
ここまでくるとおれが柳田になにかやってしまったのではないかと考えるがなにも出てこない。
だって古文の先生だよ。おれが関わるわけないじゃん。
古文の時間はくるみから心配そうな目がよく飛び込んでくるようになった。
でも俺よりももっと問題を抱えた人が文芸部にいた......
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