第5話 じんのは二重人格の中学2年生
家に着いたのは1時前だった。
お風呂に入っても布団に入ってもあの出来事が頭の中をかけめぐる。
明日くるみとは別れようと考えても
気がついたらくるみのことでは無く
シルさんのことを考えている。
つらくは感じていない。
つねにふわふわしている感じだ。
今は何時だろうか。
時間を見る気にもならない。
この感じのままでいい。
気付いたら眠っていた。
………………………………
「おにいちゃん、おにいちゃん」
かすかに呼ばれている声がする。
腕が少し重い気がする。
腕まくらをしているみたいだ。
妹のじんのはよく勝手に布団に潜り込んで起こしに来る。
腕まくらをしたり、俺を抱き枕代わりにして甘えてくる。
昨日の腕まくらの感覚をなんとなく思い出して
寝ぼけながら横を見る。
「...シルさん...」
「おにいちゃん、起きて。遅刻するよぉ」
「じんのか」
「シルさんて誰?女の子?」
ふくれっ面でじんのが問いただしてくる。
「いや、ちがうちがう。じんのって声かけたつもりだった」
無理な言い訳をする。
「ほんとうにぃ?」
「ほんとだよ。じんのがかわいくてね」
「もうっ」
じんのは照れている。
「おにいちゃん 昨日遅かったの?寝不足?大丈夫」
かわいい声を発しながら上目使いで聞いてくる。
「ああ、タカとコウヘイと遅くまでサイゼで
しゃべってた。ごめんな。
一人で夜寝させて」
「いいんだよ。いつもわたしのこと
大切にしてくれるから」
じんのは中学2年生。小学校6年生の時いじめにあって不登校になった。
それがきっかけで精神的に追い込まれ人格障害が起こった。幼児化した。そしてその後さらに2重人格にもなった。
医者が言うにはいじめの記憶を消し去るために
自ら強制的にいじめられる前の年齢まで精神が戻ってしまったのだろうということだった。
本人はいま、小学校低学年でしかない。
おれは小学校低学年のじんのをそのまま受け入れた。
じんのは俺に懐いた。
父母はじんのと向き合わなかった。向き合えなかった。そのせいでじんのの心は父母から離れていった。
父母と同居することもままならなくなり、俺が高校に入る時に今の自宅に俺とじんのだけが住むことになり、父と母は出ていくことになった。
じんののためには仕方ない選択だったと俺は思いたい。
「おにいちゃん、学校遅刻しちゃうよ」
じんのはそう言いながらも今度は俺の足を抱き枕代わりに抱きついている。
「じんの、それじゃ、お兄ちゃん学校いけないよ」
「あと10秒。いい?」
「いいよ、なんなら一日中でもいいぞ」
じんのは嬉しそうにはにかむ。
「いつもありがと。おにいちゃん、
最後にギュッして終わりにするね」
じんのは俺の足を嬉しそうにぎゅって抱きついた。
「じゃあ、おにいちゃんいってくるな。
今日ははやく帰ってくるから」
「はーい!いい子にしてるからあたま
なでなでしてね」
「行ってきまーす」
軽やかに出かける。
………………
授業中はシルさんのことばかり考えていた。
一限目も終わり、休み時間にくるみにLIMEを送る。
「昼休み校舎横の花壇のところにきて欲しい」
「うん、わかった」
………………
くるみと別れた。
これでいいと自分に言い聞かせる。
そしてシルさんと
会いたい、会いたい、会いたいと
自分の想いにタガが外れ出す。
5限目、斜め向こうに座っているくるみが見える。目が腫れていた。泣いた後だとわかった。
心苦しくなる。それでもシルさんへの想いの方がはるかに上回る。
くるみのほうは意識的に見ないようにした。
授業も終わり、逃げるように自宅へ帰った。
「ただいまー、じんの」
「もう帰ってきたの?早くない。
もう少し1人でいたかったのに」
二重人格のもう1人のツンデレじんのが現れていた。
「お兄ちゃんがじんのに会いたくて
ダッシュで帰ったきちゃった」
「なにそれ」
そう言いながらも照れている表情を見せる。
「じんの、今日の晩ご飯は何が食べたい?」
「お腹空いてないし」
「じゃあ、お兄ちゃん1人で食べようかなー」
「食べないとはいってないもん」
ふてくされながらもかわいい表情を見せる。
「何がいい?じんの」
「オムライス」
「よし、わかった。美味しいの作るぞ」
昨日キャバクラに行く前にじんのに作ってあげた晩御飯もオムライスだった。
二重人格ではそれぞれの人格の時は記憶を共有できない。
昨日と今日の朝は甘えん坊のじんの。
いまはツンデレのじんの。
どちらの人格も好きなたべものは一緒。
好きなことも一緒。
嫌いなことや苦手なことも一緒。
記憶は共有できなくても
どちらかに嫌なことが起こったり
感じたりしたことは心に刻み込まれて
副次的に反応が出る。
感覚的なことは共有できるみたいだ。
「あのさ、昨日、じんのに寂しい思いさせた?
じんのがお兄ちゃんに迷惑かけないように
我慢してるのが私に伝わってくるんだけど」
ツンデレじんのは甘えん坊じんののことを気遣った。
「ごめん、昨日晩ごはんの後友達に会いに行ってたから一緒に寝てあげられなかったんだ」
「それね。じんのが痩せ我慢してたのは。
わかったわ。私はいいからその分じんのには
優しくしてあげて」
「わかった。ごめんな。じんの。心配かけて。
おにいちゃん、2人とも大事にするから」
いまのじんのが寂しい思いをすれば
もう1人のじんのも寂しさが心に残る。
ツンデレじんのでもオムライスを食べる時は
美味しそうに嬉しそうに食べる。
じんのは食後、大好きなネコのテレビを見る。
俺が学校に行っている日中もテレビで動物をみるかYouTubeでネコの動画を見ている。
俺はよく知らないがネコのアニメもよく見ている。
「じんの、お風呂沸いたよー」
「後で入る」
「ダメだ。今から一緒に入るよ」
「なんで一緒に入らなきゃいけないの」
「からだ洗ってあげなきゃだめだろ」
「1人でできるもん」
「お兄ちゃんが洗ってあげたいの」
「しかたないなぁ。もうしかたないんだから」
ツンデレじんのは嫌そうな雰囲気は出すが
実際は嬉しいのだ。
甘えん坊のじんのの時は必ずじんのがお風呂に一緒に入ろーと甘えながら言ってくる。
じんのが小さい時から俺と一緒にお風呂に入っていたからその時の楽しかった記憶が心の奥底に刻み込まれているのだろう。
じんのは寝る時も1人で寝れるもんとツンツンしている。甘えん坊のじんののときはからなずじんのから俺に抱きついて寝始める。ツンデレのじんののときは俺が腕枕をしてあげて寝かせる。
腕枕をする瞬間、シルさんのことを思い出す。
じんのが寝ると俺の脳が昨日のことを思い出し始める。
それからはシルさんのことしか考えられなくなった。
シルさんと会いたい、話したい、同じ場所にいたい。
俺はじんのが寝た後、自分の気持ちを抑えきれずにシルさんに会いにお店に走った。
……………………………………
あとがき
じんのはかわいい妹キャラで今後も事あるごとに登場します。
ぜひかわいがってあげてください☆
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