第362話 天使言語ーガジェット
色々な単語を覚え始めてるうちの娘。
最近では「〇〇、やる」「公園、いく」など2語文も話し始めています。
妻がいっぱい話しかけているおかげですね。
私は元々あまりしゃべらないタイプなので……頑張ってはいますよ?
そんな娘がしゃべる単語の中に「えんめ」があります。
意味が「開けて」なのは分かるのです。
哺乳瓶のフタが閉まってるときに、そのフタを外そうとしながら言って、開けてあげると言わなくなるので。
でも、私には何語なのか分かっていなかったのです。
「開ける」はタイ語ならプートだし、英語ならオープンなんですね。それ以外の言語が我が家で出てくることはまず無いですし……
私としては、他のタイ語の単語を誤用しているのだと思っていました。で、ある日妻に
「えんめってタイ語でどういう意味?」
と聞いたら
「そんな単語無いよ。日本語じゃないの?」
と返されまして。妻も妻でタイ語じゃないから、日本語の別の単語を誤用していると思っていたのですね。
じゃあ、一体どこから出てきた言葉なのか……
そう考えた時に、ふっと思い出したのがフリードリヒ2世の実験です。
神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世は、ある時50人の赤ん坊を集め、乳母たちに世話をさせました。その際に乳母たちに言ったのが「目を見るな、笑いかけるな、話をするな、最低限の世話だけやれ」
結果的に、赤ん坊たちは3歳までに1人を残して死亡、6歳になる前に最後の1人も死亡。
人間がちゃんと成長するには、コミュニケーションや愛情を示すことが大事なんだよ、という文脈でしばしば引き合いに出されます。
まあ、本当にフリードリヒ2世がこの実験をやったかどうかは怪しいところなんですけどね。彼の死後に彼の批判者側が書いた著作にしか論拠が無いので。
ただ、フリードリヒ2世がこの実験で知りたかったのは、コミュニケーションの効用ではなく「赤ん坊に言語を教えなかった場合、どんな言語をしゃべるのか」だとされています。
つまりそれは、唯一の神が世界創造の際に用い、アダムが楽園から追放される前に神や天使と会話し、全ての物に名前を付けた時の言語ではないか……と。
フリードリヒ2世は13世紀の人ですが、16世紀イングランドの錬金術師、ジョン・ディーがこの天使の言語を授かったとして書き残しています。まあ、おそらくはジョン・ディー自身が作り出した人工言語なんでしょうけど。
赤ちゃんに愛情を注がないという非人道的な実験は今更追試できるものではありません。
ですが、世界中の赤ん坊から「えんめ」のような謎ワードのデータを取り、それをAIでつなぎ合わせて天使言語を再現した……なんて物語はありかもしれません。
SFファンタジー的な感じでしょうか。
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