第322話 Esquivalience―ガジェット

 タイトルにした英単語、Esquivalience。読みはエスキヴァリエンス。意味は「公的責任を故意に逃れること」

 新オックスフォード米語辞典に記載のある、れっきとした虚構単語です。

 ……虚構単語です。

 その辞典を作った編集者らが作り上げた造語です。


 なんでそんなことをするかというと、コピーされた時に分かるようにするためですね。

 ちょっと表現を変えたりしてコピーを誤魔化そうとしても、この単語が含まれていれば新オックスフォード米語辞典を概ねコピーして創り出したものだというのはバレる仕組みです。

 こういう、本筋に関係ない所に偽データを仕込むことでコピーが分かるようにする著作権トラップは地図などでも時々行われるのだとか。地図の場合は、端っこの方に存在しない道路をつけ足したり、無い地名を書いておいたりするそうです。Google Mapがやったアーグルトン(Argleton)という架空の街などが有名。

 でも、一番面白いのはアメリカの地図会社がやったアグロー(Agloe)でしょうか。

 著作権トラップとして架空の地名を書いておいて数年後、ライバル会社の地図にアグローが記載されているのを見たその会社の社員は、早速ライバル会社を訴えます……が。

 なんと現地に行ってみると「アグロー雑貨店」が建っている。つまり、アグローが実際に現地の地名として使われているので、ライバル社がコピーしたとは主張できなかったというオチ。

 その雑貨店のオーナーは、最初の会社の地図を見て

「ああ、この辺はアグローっていうんだ。じゃあアグロー雑貨店でいいな」

 と店の名前を決めたので、「嘘から出たまこと」そのものですね。


 タイトルにしたエスキヴァリエンスも、調べてみたらアルバム名として使ったバンドがいる模様。「公的責任を故意に逃れること」だと結構使いどころがありそうですしね。

 「あの政治家の行いは実にエスキヴァリエンスだね」なんて批判を何度も書いていけば、やがて本当に使われる単語として別の辞書にも載っていくのかもしれません。

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