第292話 忘れられた英雄―ストーリー

 なんとか短編賞創作フェス第3回も投稿を間に合わせることが出来ました。

 『三つの秘密』

 https://kakuyomu.jp/works/16818023212068283368


 本文を書くの自体は昨日終わらせていたのですが、キャッチコピー等決めていた時に娘が泣いたのでそこで止めてしまい、再寝かせつけ中に寝落ち。

 書きあがったという満足感だけが残っていたので、朝にはすっかり投稿まで済ませたつもりになっていました。

 気づいてから慌てて投稿完了させたので、締切1時間前の駆け込み投稿になってます。

 そのおかげかご新規さんに読んでいただけたので、悪い事ばかりではないですが。


 今回も結構苦労した、というか最初は別案でそこそこの字数を書いていたのです。

 しかし、自分の中でうまくハマらなかったのでボツに。

 結局連載中の長編『魔女と聖女はすれ違う』の番外編で落ち着かせました。


 そして、ボツ案の方は今日のエッセイのネタになるわけですね(笑)


 ※※※


「ジャンクヤードにヒーローはいねぇよ」

「そんなこたぁねぇ!」

 悟った風なことを言う若いサラリーマンに、老人が叫び返す。

 半月がうどん屋台を静かに照らす中、老人は椅子を蹴って立ち上がり、他の客たちに熱弁する。

「あんなに、あんなに毎日活躍して、みんなあいつのことが大好きだった。俺も、お前もだ!」

 老人は明らかに酔っている。

 そして、さらにその酔いを深めるために店主に薄汚れたグラスを突き出した。

 店主は口を真横に引き結んだまま、老人のグラスに安い焼酎を注ぐ。

「何て名前のヒーローだよ」

「それは、そのぅ……」

「ほらみろ」

 言いよどむ老人を、サラリーマンらが嗤う。

「違う! 確かに名前は忘れちまったよ。でも、居ただろうが!」

「はいはい。爺さんの心の中にはいたんだろうな」

「違う。あいつがいたころは、このジャンクヤードももうちょっといい所だった」

 老人はグラスを干し、カウンターに力なく叩きつけてから天を振り仰ぐ。

「月だって、月だって、前からずっとああじゃ無かったろ?」

「飲みすぎだよ、爺さん」

 ようやく口を開いた店主は、グラスに焼酎の代わりに水を注いだ。



「ジャンクヤードにヒーローはいない、か」

 深夜、老人を自動運転タクシーに押し込み、うどん屋の店主は屋台をたたみながら天頂の半月を見上げる。

 あの日以来、月が半分より膨らむことはない。月そのものが、半球になってしまったからだ。

 何故そうなったのか、誰がそうしたのか。

 ジャンクヤードの住人たちは、疑問を口にしない。酔って正体をなくした老人以外は。

 だれも、そこに秘密がある事すら認めようとしない。

「あの爺さんだけ、妙に効きが悪いんだよな」

 そんなことをぼやきながら、店主は焼酎の瓶に錠剤を入れた。

 錠剤が溶けるまでの間、店主はもう一度月を見上げた。

 よくよく見れば、月の断面の辺りは少し欠けている。重力に負けて、一部が崩れ始めているのだ。いつかは、完全な球に戻り、何かが起こったという痕跡すらなくなってしまうのかもしれない。

 店主は焼酎の瓶を振りかぶる。

 が、結局何をすることも無く、瓶を屋台の棚に戻した。

「これでいい、はずなんだがなぁ」

 店主のつぶやきの真意を知る者はいない。すべては秘密なのだから。


 ※※※


 JAM Projectの『HERO』という歌が好きなのですよ。

 基本は熱い歌を歌う人たちなのですが、これはヒーロー大好きだった子供が大人になってそれを忘れてしまっているというちょっとしんみりした歌。

 なお、『THE HERO !! 』だとワンパンマンのオープニングである熱い歌の方になるので注意。これはこれでいい歌ですが。


 で、本来とは違い、「あえて忘れられることを選んだヒーローの歌」だとして再解釈したらどうなるかなと考えたアイデアがあったわけで。

 宿敵によって「皆がヒーローに送る声援」が逆に世界破滅の鍵になってしまうという策略を仕掛けられ、世界を救うために「自分が世界中の全ての人から忘却される」という対策を選んだヒーロー。

 いなくなることで世界を守り続けているけれど、自身でもちょっと納得しきれていない所はある。そんな葛藤を抱えた状態のイメージです。


 やっぱり再起するところまで書かないとなぁというところが、今回没にした理由。

 これだけだと、ストーリーというよりはワンシーンなんですよね。

 でも熱く再起する説得力には、それなりの字数が必要……いつか、いつかな!

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