第271話 サウザンド・タン―モンスター
それは異様な光景であった。
冬になお緑を保つはずのトウヒの林が、黒ずんだ赤に染まっている。
トウヒの木一本一本に、鹿や熊や魔狼などが突き刺されているのだ。
寒さのために腐敗することなく乾燥した無数の遺骸。
残酷な光景に飲まれて立ちつくす私に、柔らかな声が説明をしてくれる。
「これはですね、サウザンド・タンという巨大な鳥がやってるんです」
「いったい何のために?」
「保存食です。別に威嚇のつもりはないんですよ。これで驚くような生物は、サウザンド・タンの敵ではありません」
まあ、それはそうなのだろう。私は、遺骸の中に人間が混じっていない事を神に感謝した。
私の沈黙をどう解釈したのか、説明者は楽しそうに話を続ける。
「これでも、刺す高さとか気を使ってるんです。この辺、結構雪が積もりますからね。雪の下に行っちゃうと探すのが大変でしょ? だから、毎年空模様を見て調整してるんです」
「頭が良いんですね、その鳥は。どんな鳥なんでしょう?」
「ちょっと上を向いてもらえます?」
上を向いた私の視界いっぱいに、丸い毛玉のような鳥の顔が広がる。
「まあ、こんな感じですよ。遠目に見ると結構可愛いって言ってもらえるんですが、どうですか?」
私はさっきから本人、いや本鳥と話していたらしい。
※※※
モズという鳥は、見た目は結構可愛いのです。特に冬の頃には結構丸くなる感じで。
しかし、その生態は狩猟対象に小型の鳥類や哺乳類も入るというハンター。
かつては鷹狩の代わりにモズを使って狩りをする人もいたというぐらいで。
そして、モズと言えばはやにえ。
冬季の保存食という説、食べる時の固定という説など色々ありますが、
最近の研究で繁殖期向けの保存食と分かったとのこと。
他にも別の鳥の鳴き声を真似るのが得意なので百舌鳥という漢字表記になったとか、はやにえを刺す時、その冬に雪が積もっても隠れない高さに刺すという話とかがあったりとエピソード豊富。
その辺りを詰め込んで、ちょっと異世界ファンタジー向けにでっかくしてみるかなと書いたのが上記エピソードです。
威嚇のつもりはないって言ってるけど、想像するとかなり怖いよね……。
なぜ突然モズをネタにしたかというと、年末年始にかけてちょっと毎日書くのは難しそうなので、ネタの書き溜めを始めた時に思い付いたから。
ドングリをあちこちに埋めるリスでも良かったかな……
冬休みも毎日更新で乗り切るため、しっかり準備をしていきます。
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